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ベタを買う

 闘魚(ベタ)を買った。

 無職なのに何をやっているのだろう。

 兄の買い物に付き合ったホームセンターで、紙コップぐらいのサイズのプラケースに闘魚が死にかけていて、つい、買ってしまった。

 ホームセンターの熱帯魚コーナーにつまれていたプラケースは5つぐらいあって、どれも水が緑色だった。

 汚いプラケースの中は藻がたくさん転がっていて、ケースのそこでピクリともせずに死にかけている奴とか、呆然と動かないやつとかがいる。

 そのなかで、水面に必死で口を突き出して息を吸っているクビの曲がった、老い先の短そうなベタが目に飛び込んできた。

 暗い赤の、弱りきったソイツは、400円だった。

 ベタは飼育の難しい魚だ。小さい瓶の中でも生きられるが、水質の変化や温度変化を考えるなら最低でも3リットルか4リットルある水槽が居る。ついでに熱帯魚だからヒーターも居る。一つの水槽に一匹しか育てられないし、ベタ同士を水槽に入れることはできない。贅沢な魚だ。そして僕は無職で、ベタを養うだけの金はない。

 看取るだけになるだろう、と思って金を出し、近所のボトルアクアリウムの店で水槽を用意してもらった。ホームセンターの熱帯魚コーナー以外で、魚を専門に扱うお店がそこしかなかったのだ。うちの近辺のペットショップは犬猫系統で、魚を専門に扱う店はない。

 ボトルアクアリウム自体も、本来はネオンテトラのような小さな魚を飼育するためのもので、四リットルの水槽は本当に必要最低限という感じらしい。店主がベタを育てているボトルアクアリウムは60センチ以上ある巨大なもので、本来ベタはこうやって飼われるべき貴族趣味な生き物だ。貧乏人が手を出して良いものではない。

 それでも放置しきれず、僕は2万円出して(兄が1万円持ってくれた)ボトルアクアリウムとパネルヒーターと水草を育ててくれるライトを店主に都合してもらい、魚を手元においた。

 水槽を作るのは本来なら一週間かかる。でもベタは明日か今日にはしにそうで、店主は展示品の水槽の水を分けて瓶に入れてくれた。水換えによっては弱ってしんでしまうこともあるからと水換えのやり方も教えてくれて、弱ったら動画と一緒に連絡を入れてくれとアドレスもくれた。

 ベタは死にかけており、水の底に上手く浮くこともできない。ヒレも結構固まっていて、腹も膨れて、何か病気か便秘でもしているのか、苦しげに泳ぐばかりだった。下手をすれば本当に今日明日の命だろう。2万円の棺桶か、という気持ちすら覚えながら僕は電気を消し、寝た。

 そして翌朝、ベタは。

 ……なんかめっちゃくっちゃ元気に泳いでいた。午後には腹もスッキリ納まってぽっこりも無くなっている。おい。おい????


 というわけでこちらが元気よく泳いでおられる僕の家のベタだ。つよい。もうあまりにもつよいのでちょっと腹が立ってきた。

 というわけで、今後はこいつの観察日記を付けつつ、(有識者の方々であれば病気にも気がついてくれそうだし)こいつ自身にパネルヒーターやライトの電気代、エサ代を稼いでもらおう。そのためこのnoteは金銭が投げられるようになっている。(銭ゲバと言わないでくれ。霞を食っては生きて行けない。全文無料で読めるようにはなってはいるので)

 せちがらいが無職の財布は厳しいのだ。ベタよ、お前は今後自分の口を自分で養ってくれ。世話はちゃんとするので……無い袖は振れないんだ…ってっきり昨日か明日死ぬだろうと思ってたから…すまん……

 とりあえず、暇を見て水温計とかきちんとした水中ヒーターも揃えていくつもりだ。生き物というのは、難しい。

それでは、また明日。


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