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水が筑前煮に変わるまで SHHisコミュ総括

本記事では『not enough』までのSHHisのイベントシナリオや、一部のサポートコミュのネタバレがあります。ご注意ください。
※限定コミュのネタバレは避けています


はじめに

久しぶりにシャニマスに関する記事を書きます。2年ぶりらしいです。

2年引っ張ったSHHisのシナリオが『セヴン#ス』や『not enough』を経てようやく(本当にようやく!)一つの着地点に至ったということで、ここまでで描かれてきたことを自分なりにまとめてみたいと思います。

さて、SHHisのコミュでは、「音楽理論」「カメラの内側/外側」「水と食べ物」など、いくつかコミュ全体を通底するモチーフが登場しています。音楽理論についてはよく話題に上がりますし、カメラに関しては顔見せコミュである『PiCNiC BASKET! 』で提示され、【浪漫キャメラ0号】などでも反復されてきました。
そして今回取り上げたいのは「水と食べ物」のモチーフです。

今回、というか私はそれに関するSHHis記事ばっか書いてたんで、またその話かよ、なんですけど。もう2年前の記事を今更読んでくださいとは言えないので、『ノー・カラット』で提示されたテーマについて、要旨だけかいつまんで説明します。

・「水」=「仕事・レッスン」、「食べ物」=「プライベート」という関係性があり、美琴さんが摂取するのは最低限の「水」ばかりである

・にちかさんは美琴さんと「プライベートで一緒に食事をする」ことで親密になることを期待しているが、そこに踏み出すことができない


・2人が共に過ごすのはレッスンや仕事の休憩時間、帰り道など、仕事に関わる時間に限られる。しかし、ひたすら練習に打ち込んだ結果として、美琴さんからにちかさんに「水」が贈られる

・2人は少し距離を縮め、「水」と「食べ物」の中間といえるもの、例えば栄養補給としての「はちみつ漬けのレモン」を一緒に食べる関係になる

あれからいろんなコミュが実装されましたが、この「はちみつ漬けのレモン」に相当する食べ物は各種サポートコミュでたくさん登場しました。自分が持ってるコミュの範囲で例を挙げると、チョコレート、かぼちゃのチップスなどなど。いずれにも共通するのは、「食事というより、栄養補給としての面が強く描かれる」こと、「温かな料理ではなく、冷たい、又は常温である」ということです。
こうした、食べ物を通じて表現される2人の距離感は、『セヴン#ス』に至るまでずっと繰り返し描かれています。わかりやすい例として、昨年夏のイベント報酬コミュ、【夏葬灯】をみてみましょう。

【夏葬灯】 七草にちか

からっぽのお祭り

1コミュ目の「あははさびしい」では、撮影の休憩時間にお祭りを見て回るにちかさんが描かれます。冒頭で美琴さんと縁日の話が出た時、にちかさんは明らかに食いつきが変わり、本心では「美琴さんと屋台を回りたい」と思っていることがわかります。
しかし結局美琴さんは縁日の喧騒から離れた場所で、1人音源を聴き込んでいます。それを見たにちかさんは、「ここで、こうしてたい」「りんご飴より焼きそばより ベビーカステラより」「からっぽのお祭りがいい」と心の中でつぶやきます。

このモノローグは、『ノー・カラット』での「練習するね、私は」「仲良しとか、いらないから」と完全に重なりますね。美琴さんは特に意識せず、にちかさんは意識的に、「食べ物」に背を向けます。イラストの背景が「踏切の手前」なのも象徴的で、「仕事」と「プライベート」の一線を引いたことが伺えます。ただ、よく見るとにちかさんの脚は一時停止線から少しはみ出したがっているように見えますね。また、コミュタイトルが「あははさびしい」であることからも、にちかさんのこのスタンスには、どこか自分の心に嘘をついているような、痛ましさを感じ取ってしまいます。

絶対ないスポーツドリンク

2コミュ目「縁日」は、にちかさんがドラッグストアの買い物にて商店街の縁日で使える券をもらうところから始まります。彼女は「いらない」と思いつつも、偶然出会った美琴さんが「ドラッグストアに行きたい」と言うと、嘘をついてまでそれに同行したのでした。そして美琴さんのもらった券を使うため、「スポーツドリンクの屋台」を探すことを提案します。そんな屋台があるかはわかりませんが、にちかさんは美琴さんと「スポーツドリンクを探す時間」を共有すること自体に、喜びを見出しています。

こちらも1コミュ目の変奏ですね。「お祭りの券」は『ノー・カラット』の「中華屋さんのクーポン」と重なりますし、「からっぽのお祭り」や「スポーツドリンク」はわかりやすく「仕事」の領域を表しています。
それにしてもにちかさんのこういう時のモノローグは本当にすごい。普段明るい愛され妹キャラを見せている人が一人称視点になった途端ひっくい声で重たい独白をするやつ、正直めちゃくちゃ好きです。

ちなみにですが、このしばらく後に実装された【こんなのホラーでしょ最悪】も、【夏葬灯】に近い構造をしています。トワコレ産なので直接ネタバレはしませんが……。注目したいのはこれらの実装時期が『モノラル・ダイアローグス』の後ということで、このイベントシナリオでは美琴さんがにちかさんのCDショップでの仕事ぶりを見て対話への一歩を踏み出すという前進があったわけですが、にちかさん視点だとまだ『ノー・カラット』の頃とあまり変わっていないというか、焦りや諦めのような心情が滲んでいるのが苦しいところですね。

そして、そんな2人の関係性に明確な変化があったのが『セヴン#ス』です。実はこちらのコミュでも「飲み物」が重要な描写に使われています。

セヴン#ス

ビールケース

セヴン#スでは、八雲なみのトリビュートで歌えなくなったにちかさんの代わりにルカさんが美琴さんと組みます。しかし、にちかさんの懸念、ルカさんの期待とは裏腹に、美琴さんの中で「自分がアイドルでいる時間」はすでに「SHHisでいる時間」となっていました。それは何か劇的なきっかけや、対話の積み重ねがあったというよりはむしろ、「ずっと一緒に練習してきたから」という、にちかさんが仕事やステージと向き合う時間それ自体がもたらしたものでした。その「仕事」には、CDショップのポップや、「なみちゃんのノート」も含まれます。

そしてステージを終えた美琴さんは、にちかさんのもとに戻ってきます。それが当たり前であるかのように。

ここでにちかさんの立っている「ステージ」は、小さなビールケースの上です。これは子供の頃、家族にとっての「アイドル」だった彼女のステージであり、『ノー・カラット』でペンシルターンをした小さなリフトであり、『セブン#ス』で「にちかさんがとってきた」小さなステージの仕事でもあるでしょう。他にもたくさん、SHHisにとってのあらゆる「ステージ」がここに集約されているのだと思います。

しかしまあ、冷静に考えればやや不自然さが残るシチュエーションで、色々細かいツッコミをしたくなります。
個人的には、ここでどうしても「ビールケース」を持ってきたかった、という意図があったから、やや強引に場面として成立させたんじゃないかと思っています。なぜなら「ビール」も間違いなく「飲み物」だからです。

実は『ノー・カラット』でお酒に関する描写が少しありました。「プライベート」の象徴としてのアルコールを、当然美琴さんは口にしません。

では「ビールケース」は「プライベート」の象徴なのかというと、これはむしろ逆のように思えます。ビールケースの用途は普通、お酒を運ぶためであり、これはつまり「仕事道具」であるからです。
ビール=プライベート」を運ぶ「ビールケース=仕事」という対比があり、そして2人がSHHisとして選び取った関係性は後者である、というのがこのシーンで示されているのだと思います。

美琴さんはステージだけを見ていて、にちかさんは美琴さんに見てほしくてステージに立つ。だから、美琴さんと目線を合わせて一緒に踊ることができるのはにちかさんだけです。そしてそれ故に、ステージに関わる時間以外で、2人が遊ぶ約束をしてプライベートを共にするようなことはおそらくないでしょう。2人の関係性はある種ドライな「ビジネスライク」と捉えられますが、これ以上なく2人で1つの「ビジネスパートナー」でもあります。

カフェラテ(じゃないもの)

報酬sSSR【STAGE】にも重要な描写があります。1コミュ目「past」は、前事務所時代、美琴さんとルカさんが寒さをしのぐため店員におすすめされた「カフェラテ」を一緒に口にするお話です。この頃の2人にはSHHisともまた違う信頼関係があり、それが「温かい飲み物」である「カフェラテ」として表されています。これまでの「水と食べ物」がどれも冷たいものや常温のものだったことを思うと、温度はそのまま関係性の成熟を表しているといえるでしょう。

そして2コミュ目の「future」で、美琴さんはかつてと同じカフェに来たことに気づき、こう言います。

ここで思い返されるのは、にちかW.I.N.G.でPがにちかさんの好きな飲み物がわからなかった、という描写です。これは2人のディスコミュニケーションを表すものとして当時も話題になりました。そして、『モノラル・ダイアローグス』のカウンセリングで指摘された、美琴さんがにちかさんのことを表面的にしか説明できないということもかかってきます。

これまでずっと「対話(dialogue)」の不足が問題となってきたSHHisですが、ここで美琴さんがにちかさんに「おすすめの飲み物」を聞く、というシーンで『セヴン#ス』は幕を閉じます。ここでの「飲み物」は単なる「水」を超えた、温かな、「仕事」を通して築いてきた2人の信頼関係を表すものでしょう。『ノー・カラット』の夏で始まった2人の物語は『セヴン#ス』の冬で一つの結末を迎えます。……こんな綺麗な締め方ある!?!?!?!?
結局にちかさんが美琴さんのために選んだドリンクがなんだったのかは明かされないところもにくいですね。たぶんスタバ的なお店だと思うので、にちかさんならオーツミルクにカスタムとかしてそ〜、と個人的には思ったりします。

『セヴン#ス』以後に実装された【短二度、一番線】や【羽なしたちの長い日】でも、SHHisの基本スタンスは変わらないのですが、「美琴さんの帰る場所はSHHisである」という前提が明確化されており、安心感が違うなという印象を受けました。こちらもぜひ。

一緒にガラスの向こうを見ようとするのがイルミネなら、
ガラス越しに互いを見つめ合うのがSHHisなんですね…

……ということで、『セヴン#ス』はSHHisの「水=仕事」完結編、という感じで、『not enough』では、「食べ物=プライベート」の領域を拡張していく様子が描かれることとなります。

not enough

鶏ハムのサンドイッチ

シナリオの冒頭は、にちかさんが美琴さんに差し入れた鶏ハムのサンドイッチの話から始まります。ここまで本記事を読んでくれた方なら分かると思いますが、もうこの時点で違いますね。お肉が入っている!!!
個別コミュだとその限りではないですが、これまで美琴さんがユニットのコミュで「肉」を口にすることはなかったはずです。サンドイッチなのであくまで補給食的な側面はありますが、かなり食事寄りになっており、明確に「セヴン#ス後」の描写となっています。

筑前煮

そして本記事のタイトルにもなっている「筑前煮」です。練習場所の都合で七草家にやってきた2人は、腹ごしらえとして作り置きの筑前煮を食べることになります。2人が温かな料理で食卓を囲むのは、これが初めてのことです。

これを読んだ時、まだ序盤なのにいいんですか、こんなクライマックスみたいなことして…!?と喜びと狼狽がないまぜになった異様な感情になりました。これまでのSHHisだったら絶対大感動のラストに持ってくるようなシーンがこんなサラッと行われるなんて。
しかも話はここで終わらず、演技のための課題として美琴さんが「筑前煮を自分で作る」と言い出します。そして一緒に料理をした後日、美琴さんが1人で作った筑前煮をにちかさんに贈るというところまでいくのでした。

いやもう、これまでの長い溜めはなんだったん!?!?ってくらいフルスロットルですね。「演出家」のSHHis理解度とアシスト力も異常に高く、あまりにトントン拍子なため『not enough』のシナリオは若干賛否ある印象です。

「温かいクロワッサン」

劇中劇も、当て書きだとしてもこれが書けるのはSHHisコミュを相当読み込んでるオタクだけだろ!!!の域に達してますね。
ただ、個人的には2年溜めたんだからもうこっからは思う存分やってほしい気持ちもあり、『not enough』にはかなり満足しています。

さて、そういうわけで2人は「一緒に料理を作り、そして互いのために料理を作り合う」関係にまでなりました。今回の筑前煮は一応「演技の仕事のため」という名目がありましたが、もはやこれはかなり「プライベート」に近いのではないでしょうか?美琴さんが「にちかちゃんに筑前煮を食べてほしいと思った」気持ちには、単なる仕事上のパートナーに対する想いを上回る何かが芽生え始めているような印象を受けます。

ところで、なぜ数ある料理の中で「筑前煮」だったんでしょうか。
この場面で登場するにふさわしい料理が他にないか考えてみましたが、美琴さんに食べさせるものなのでまず「ヘルシーな料理」であることは条件となりそうです。それに今の2人の関係性を表すなら、冷めたおかずよりは、「温めて食べる」もので、かつ「お肉」も入っていてほしいところです。また、かつての『ノー・カラット』の打ち上げシーンの描写から、洋食よりは「和食」のほうが適切な気がします。

これだけなら当てはまる和食は他にもありそうです。そういえば、にちかさんは冷蔵庫の中を見て「筑前煮か、おでんか」で迷っていました。決め手が足りないので、いっそ画像検索してみます。

赤と緑が……入ってるなあ……
筑前煮に絹さややさやえんどうを入れるかは分かれそうですが、パッと検索した頭に出てくる画像にここまで人参と絹さやの彩りがあると、「SHHisの色じゃん!!!」と思わざるを得ないのは私だけでしょうか。
赤と緑の彩りがある和食というと、他に肉じゃがも浮かびますが、肉じゃがよりは筑前煮の方が「七草家にありそう」感が強いかなと思います。なので、ここで「筑前煮」が出てきたのはたまたまではなく、きちんと理詰めでメタファーを考え抜いた結果、「これしかない」という根拠があって選ばれたのではないでしょうか。
ついでに言うと、ベースが茶色の料理というのも意味ありげです。今年のシャニマスは「CANVAS」、「色の三原色」がテーマですが、絵の具で赤と緑を混ぜ合わせた時の色が茶色だからです。最新曲「White Story」でも「Blend colors on canvas」という歌詞があります。いや料理はだいたい茶色いだろって? なんか陰謀論じみてきてる? それはたしかに……うーん……


まあ夏葉さんもこう言ってるし!!一旦そういうことにさせてください!!


ガパオライス

さて、SHHisのイベントシナリオはいつも報酬sSSRに重要な描写があります。【AWAKE】の2コミュ目「recipe」では、食レポで激辛ガパオライスに挑戦した2人が、収録後の控え室で、「自分達でもガパオライスを作ってみないか」という会話をします。

「レシピ通りに作る」という作業は、どこかアイドルにとってのレッスンと似ています。料理は美琴さんの性質に思ったよりマッチしたのかもしれません。そして「一緒に料理を作る」という行為はどうみても「仕事・レッスン」ではなく「プライベート」の領域に重心が傾いています。
一緒にお泊まり会をしたり、オフの日にカフェでお茶をしたりするような「仲良し」とは少し違いますが、「一緒に食事をしたい」というにちかさんの当初からの願望は、「一緒に料理を作る」という、一つ一つできることを積み重ねていく、ストイックな美琴さんらしい手段である意味叶えられることとなりました。……こんな綺麗な締め方ある!?!?!?!?

ところで、なぜ「ガパオライス」だったんでしょうか。しつこいようですが画像検索してみます。

赤と緑が入ってる茶色ベースの温かい肉料理やんけ!!!!!!
深読みしすぎと言われてももういいです。俺には夏葉さんがついてる。


さいごに

ということで、6000文字にわたってSHHisの飲み物・食べ物描写について語ってきました。長すぎ。2年分だったからね……。

最後に考えたいのは、「SHHisの2人は本当にこんな回り道をする必要があったのか?」ということです。

数少ない越境コミュ【MADE】は、「恋鐘さんが美琴さんに無理やりメシを振る舞う」という「え!??それアリなの!?!??」と言いたくなる内容でした。にちかさんがずっと踏み込もうとしてできなかった「食卓を共にする」ことがこんな力技で叶ってしまうなら、SHHisのやっていることってなんなんだろう?と当時ちょっとショックを受けた記憶があります。

しかし、この記事を通して「水と食べ物」描写を丹念に追ってきたことで、2人の関係性は他の283プロのどのユニットとも違う、「仕事上のパートナー」だけど、「温かな信頼がある」という着地点を見出したのが整理できたと思います。まさしく、一番最初のコミュ【283プロのヒナ】でにちかさんがはっきり言葉にできなかった、「相方」ですね。この時代のにちかさんが、美琴さんに「おにぎり」を差し入れようとして失敗していたことも、今となっては感慨深いです。ここから激辛ガパオライス食べて炎メシの変な曲歌うところまで行くんですから。

【283プロのヒナ】 七草にちか


COLORFUL FE@THERSのジャケットも、相手を見つめているのはむしろ美琴さんの方である、というのが2人の変化を表していてしみじみと良いですね。
ちなみにですが、“CANVAS” 07のオーディオドラマ「秋の日のラウンド・アンド・ラウンド」では、本記事を踏まえると「あー!」と膝を打ちたくなるような食事描写があります。ぜひ!

というわけで長々とSHHisコミュの感想を書き連ねてきました。こうやって改めて整理してみて、やっぱり自分はSHHisの関係性が好きだなあと思いました。今後のコミュも、シャニソンでの新たな展開も楽しみです。

それでは、オタクらしく最後に「フェアリー・ガール」の歌詞を貼って終わります。ここまで読んでくださってありがとうございました。

「さみしい」と「お腹すいた」は嫌ーい
Don't you know?

フェアリー・ガール/七草にちか

にちかさんのこれからに幸多からんことを祈ります。

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