「反響」から「共振」へ - 「反射」をキーワードに読む七草にちかW.I.N.G.
七草にちかのW.I.N.G.が実装されました。
これまでのW.I.N.G.とは明らかに空気の違う、不穏な演出やシャニPの独白が挟まれ、社長やはづきさんの深掘りまでなされる、どう見ても異質なコミュでした。
いったいこれはどう読んだものなのでしょうね...。
TLを眺めても、読んだ人が全員苦しんでいることだけは確かです。
既に鋭い考察や感想を投稿されている方もいて、正直他に言えること特に無いんですが、それらと少し異なるアプローチを提供できるとしたら、私が前回書いた記事がとっかかりになる気がしています。
上記記事で私は、「SHHisにとっての輝きは『反射する光・人工的な光』ではないか」ということを書きました。
個人的に注目しているのはこのユニット紹介文です。
「耀いて、スパンコール・シャンデリア」「1000カラットの物語」とあるように、
・スパンコール
・シャンデリア
・1000カラット(の宝石)
のような「耀き」がシーズにおける「光」だと考えられます。この3つにはわかりやすく共通点があり、それは
・人が手を加えることで輝く(人工的)
・自ら光るのではなく、光を反射することで輝く(反射性)
の2点です。
反射=reflectionといえばちょうどシナリオイベント「青のReflection」が開催されており、なんとなく意図を感じてしまいます。
実際、にちかW.I.N.G.では下記のようなreflectionの性質を持つモチーフが複数、印象的な形で登場しており、着眼点としてはそこまで間違っていないと思いたいところです。
・八雲なみ - コピー、鏡像としてあろうとすること
・リップ - 外に表れるもの
・やまびこ - 音の反響
・鏡 - 光の反射
本記事では、これらがどういう意味を持っているのか考えることを通して、にちかさんがハッピーになれる道はなんなのか模索してみたいと思います。
八雲なみ - コピー、鏡像としてあろうとすること
にちかさんは自身を過小評価しており、八雲なみの真似をする(靴に合わせる)ことをしないとアイドルたり得ないと考えています。
自己評価の低いアイドルは283プロにも何名かいますが、これはちょっと極端すぎるように思います。
なお、八雲なみ関係の掘り下げは他で色々考察されていますし、本記事のメインではないのでこの辺にしておきます。
余談ですが、偽名を名乗るシーンで背景が窓ガラスに切り替わるのも、「反射」を意識しているように思います。(ガラスは内と外で明るさの差によって、反射して見えます)
リップ - 外に表れるもの
「TV出演後コミュ①」で出てくる「リップ」についても「八雲なみの靴に合わせる」ことと同様で、自己評価の低さから自身の「外」に表れる輝きに頼ろうとする様子が見られます。
「リップのつやつや(外面)」に対して「全体に輝いてたよ(内面)」、
「ビジュアルが大事(外面)」に対して「真剣な思いは伝わってる(内面)」
と、両者のスタンスの違いが端的に表れています。
にちかは「魅力が無い」のか
このように、にちかさんは自己評価の低さゆえに、自分の外にある輝き、「靴に合わせる」ことにこだわる女の子です。そのため、実装直後は「空っぽで魅力が無い」女の子だ、というような感想を多く見かけました。
これについては反論の余地があって、まず「魅力が無い」というのはあくまでにちかさんの自己評価です。
Pは「平凡」ではあるけど「アイドルが好きという憧れや懸命さ」「みずみずしい輝き」を感じており、リップの話でも一貫して内面的な魅力を評価しようとしています。
そして、シャニPはたとえ真似事であっても、にちかさんが苦しみながらコピーしてきたパフォーマンス自体はちゃんと大舞台で通用するものとして評価し、応援しています。(「作ってきた」という言い回しなのが印象的です)
「シャニPは最後までにちかさんの優勝を信じられていなかった」という意見も見かけますが、ここも個人的には少し違っている気がします。
シャニPは優勝よりも「笑ってアイドルができるか」を重視しているので、「優勝さえすればこの子は笑ってくれる、とは思えなかった」という認識が適切だと思っています。
そもそも283プロには、チョコアイドルを後付けで確立していった智代子さん、仮面を被る冬優子さんや愛依さん、コピー忍者のあさひさんがすでに存在しますから、にちかさん的な方向性自体が否定されるわけではありません。
あくまでPが心配しているのは、「それでにちかが笑えるのか」という点です。
上記を踏まえると、にちかさんの問題点は「中身に魅力がない」というよりも、W.I.N.G.というタイムリミットがあるために靴に合わせることにこだわり、「中身(やりたいこと)が分からない」、「対話が十分にできていない」ことにある気がしてきます。
残りの「やまびこ」「鏡」を見ていくとよりわかりやすいかと思います。
やまびこ - 音の反響
OPコミュ「<she>」は、「あっ、やまびこだ」というにちかさんの言葉で終わります。やまびこは音が反響(reflection)して返ってくる現象で、木霊とも言ったりします。やまびこを聞いたにちかさんの声色はどこか嬉しそうです。
にちかさんは「意思を言葉にする」ことを重視しており、「優勝するぞー」を始めとして言葉の上では常に強気ですが、その実自信がないからこそ言葉に頼っているように見えます。(「合格って、合格ですよね?」など)
そのため自分の言葉に同意してくれる存在を必要としていて、八雲なみの「そうだよ」は、そんなにちかさんの虚勢をまさしく木霊のように肯定してきたものと思われます。
楽曲に励まされること自体は何もおかしくありませんが、他人の声に耳を傾けず、機械的に欲しい言葉を返してくれる相手に向かって話すことは、「壁に向かって喋っている」「対話を拒否している」のと変わらないのではないでしょうか。
(実際、朝コミュ14でにちかさんは壁に向かって喋っています)
そして、「そうなの?」の白盤を見つけたことで、にちかさんは八雲なみがくれる「そうだよ」という木霊、「反響」を信じきれなくなってしまいます。「もしかしたら他に歌いたいことがあったのかも」と。
そのためか、以降W.I.N.G.が終わるまで、にちかさんは自分から八雲なみの話題を一切出さなくなります。
だからにちかさんは、準決勝前に「予言してください、上手くいくって」とPに「八雲なみの代わりに、木霊を返す壁になる」ことを求めます。いわば「カミサマ」の役目が交替しただけで、Pもこの方向性でにちかさんが救われるとは思っていないでしょう。ただ、今はとにかくW.I.N.G.を乗り切ってもらうことを優先して、言う通りにしたのだと思います。
W.I.N.G.を通してずっと、Pはにちかさんとコミュニケーションがうまく取れず、対話が十分にできないままになっています。
鏡 - 光の反射
八雲なみが特別であることに疑いが生じてしまったことで、にちかさんは自分の力だけでW.I.N.G.に挑むことになり、自分が笑っているかどうかも、鏡に反射(reflection)する自分を見ないと分からなくなってしまいます。しかし、鏡に映るのは表面的なものだけなので、自分が今心から笑えているのかは彼女にもわかりません。シャイノグラフィの「鏡を覗いても自分色なんて自分じゃ見えない」が想起されます。
自分の色は他者との関わりの中で形成されるというのがシャニマスの基本姿勢であるなら、やはり反響と同様、にちかさんには壁や鏡ではなく他者との対話が必要に思われます。
結局W.I.N.G.ではそれは叶わず、にちかさんは、鏡に映る自分の気持ちすら分からないまま優勝してしまいます。
「反響」から「共振」へ
にちかさんはW.I.N.G.に優勝したものの、依拠する「特別」な存在を失いました。ただ、これは「空っぽになった」というよりは「まっさらになった」という感じで、必ずしもネガティブな意味合いにはならないと思います。
他者との対話を通して内省(reflection)する時間を勝ち取ったという意味では、むしろW.I.N.G.におけるにちかさんの努力はちゃんと報われたとも考えられます。だいぶ荒療治でしたが、「にちかのお願い叶えちゃうぞのコーナー」は、ここからがスタートです。
というわけで、「reflection」を足掛かりににちかW.I.N.G.を読み解いてきました。これによって、にちかさんは「魅力の無い女の子」というより、「まだ対話が十分にできていないだけの、そもそも自分の色を自覚していない女の子」だというふうに読むことができると思います。
さらに、W.I.N.G.に優勝したことでようやくPの言葉を聞く、対話の準備も整ったと言えます。
ところで、「reflection」の1つとして挙げた音の「反響」には他にも対応する訳語があります。
「resonance」です。
シャニマス4年目のテーマソングが「Resonance+」ですから、この符号は重要な意味を持っていると思われますが、にちかW.I.N.G.のような独りよがりな「反響」を指しているわけではないでしょう。
私は、どちらかというとこれは別の訳語である「共振」(声が他のものと同期してさらに大きく振動すること)を意味しているのではと考えています。
まっさらになったにちかさんはこれから、他者との関わりを通してその光を取り込み、より強く、様々な方向へ反射する光(1000カラットの物語)を放つようになる、それが「Resonance+」である...と考えると、意外と希望が見えるような気がしてきませんか。
「精一杯夢見た 精一杯手を伸ばした そしてまたスタートを切った」
「まっさらなストーリー もう一度 繋ぐよ 繋いでみせる」
「Resonance+」の歌詞はまさに今のにちかさんを表していて、今はどうすれば笑えるかは分からなくても、とにかく自分の力で時間を勝ち取ったのだから、これからゆっくり考えてほしいなと思います。
そして、そのためのヒントは283プロの他のアイドルたちがきっと示してくれるはずで、そうした色んな人の光を真似して、反射して、そんな多層的な(layered)光が自分だけの色だと言えるなら、それでいいんじゃないでしょうか。アイデンティティなんてそんなものかもしれません。
いつか鏡に映る自分を「輝いている」と肯定できるようになってほしい、という祈りです。