見出し画像

コロナで救われたモンゴル料理家の一歩

無職生活に入った途端にコロナが本気を出し始め、時間が出来たら一人で行きたいと思っていた文化施設やスパなどが軒並み休業状態となってしまった。

世間では子どもの預け先に苦心している共働き世帯の話題や画期的な対策がニュースで流れてくるが、在宅ワークをするわけでもない、行き先のなくなった無職が困っているという話題はもちろんない。あるわけがない。

そんな数少ないコロナ被害者である私だが、実は昨日、コロナに救われたことがあった。

さかのぼること2か月前、高校時代の同級生5人と「寒いので鍋を囲みたい」という話になった。そこにプラスして、「いろんな種類の苺をたくさん食べたい」という女子っぽい要望も重なって出てきた。

鍋が食べたいならお店の選択肢はいくらでもあるが、「複数の苺」がプラスされるとほぼそんなお店はない。っていうかない。ホテルのストロベリーフェアに鍋はついていない。

しかしそこは33歳、五黄の寅の集団。
希望を変えるという選択はなかった。

そこでなんとか鍋と複数の苺を同時に食べるため「自分たちで用意する」というありきたりな方法に行きついた。
誰かの家でというのが一番手っ取り早いが、残念ながら5人それぞれが若干離れたところに住んでおり、誰の家に決まっても残り4人が遠まわしに反対した。


出口の見えない心理戦を終結させるため、私は「キッチン付きレンタルスペース」という最近では忘年会などでも利用されるという新しい提案をしてみたところ、すんなりと決まった。
ただ一つ、私の想像ではマンションの一室を貸しているような小規模なところをイメージしていたが、以外とそういうところは高く、最終的に豊島区が運営している公共施設の調理室を借りることになった。

民間のレンタルスペースと違い、そこの公共施設は団体でないと貸してもらえないということで、急遽私たち5人は団体名「かもめ」として区に登録されることになった話はまた別でしたい。ただの女子会が(笑)

場所は準備できた。日にちもちょっと先になるが3月15日(日)で決定だ。
写真で見る限り、まんま家庭科の調理実習室。資料によると1クラスが授業できるくらいの広さに、レンタルスペースとは比にならないくらい調理器具が揃っている。しかも全てが×7とかある。
税金でつくったものはすごい。


予想外にしっかりとした調理スペースを確保してしまった私たちは事前に打ち合わせをすることにした。当日の買い出しや、予算について。
しかしここであることに気が付く。っていうか前から気付いてはいたけどちゃんと話し合うことにした。


鍋と苺では宝の持ち腐れもいいとこ問題。
ここを使い切るならせめて一人一鍋作るべきだし、苺なんて洗ってそのまま食べるとしか考えていなかった。
NO調理!

そこから何とか苺を調理するレシピを考えてみたりしたが、33年の経験から苺はそのまま練乳掛けて食べるのが一番だとみんな知っているので却下され続けた。

「別に鍋と苺でいいか・・・面倒だし」
となりかけたとき、救いの手が差し伸べられた。



私の手だ。



ずっと言おうかどうか迷っていたが、やらない後悔よりやる後悔!と腹を括った。

「モンゴル料理なら教えられると思う」

実はその前の週に、単発のモンゴル料理教室でモンゴルのお正月に食べるという皮からつくる蒸し餃子の作り方を教えてもらっていた。
みんなでコネコネする作業は楽しそうだし、意外と安くできるのでいいかなと思っていたのだが、一つ大きな問題があった。


重要なスパイスの一つが何か分からないのだ。


これは私が聞き忘れたとかの問題ではなく、料理を教えてくれたモンゴル人の先生も分からないという、料理教室としてどうなの!?問題なのである。

餃子の種となるひき肉(本来ならラム)を小麦粉で作った皮で包むという、日本の餃子とほぼ一緒の作り方だったため、それをモンゴル料理たらしめるのは、ひき肉に入れるモンゴルスパイスだけなのだ。
料理教室では、モンゴルで売っているという小袋に入ったスパイスを使ったのだが、これを日本で売っているのを見たことがないと先生は言うし、「私はいつもモンゴルに住む母親に送ってもらっている」という、じゃあ私たちはどうすればいいの?には答えてくれなかった。

スパイスの袋に書かれた植物の写真を頼りに、受講生が推理したところ複数のスパイス名が上がったがその時点で正解は誰にも分らない。

ということで、私がモンゴル料理を教えるには、そのスパイスが何なのか探し当て入手するという高めのハードルをクリアしなくてはいけない。ただ、この時点で3月15日まで一月以上あったし、何とかなるだろうと思っていた。

その結果が「コロナに助けられた→スパイス未だ分からず」ということなのである。モンゴル料理家として生徒たちに指導する日が刻々と迫る中、見つからない謎のスパイス。正解の味すらもう忘れてしまった。

そんな中で昨日、豊島区の公共施設から一本の電話が。
「コロナが流行っていて、イベントが軒並み中止されてますけど、かもめさんのイベントは続行の予定ですか?」と。

そう。たった5人の調理実習でさえ、団体として登録し施設を借りているということは、向こうとしたらイベント扱いなのだ。

暗に「中止してください」と言っている施設職員に「いや、何がなんでもやります!」とは言えない。というか本当は助かった。ありがとう。

コロナで大変な思いをしている人がたくさんいるなか大きな声では言えないが、鍋と苺とモンゴル料理の会は無期延期ということで、私はホッとしている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?