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Goodbye クリシュナ, Hello カリ・ユガ

第一巻第十五話 パーンダヴァの昇天

ー ウグラシュラヴァスは話し続けた ー
クリシュナとの別離に憔悴しきったアルジュナは、ユディシュティラから嵐のように質問を浴びせられた。しかし、アルジュナは主への思いで涙が溢れ、まともに答えることができなかった。主の友情や慈悲、善意を思い出し、嗚咽しながらわずかに言葉を絞り出した。

「命を失えば肉体が死体と呼ばれるように、彼と一瞬でも別れたなら、世界は忌まわしいものとなります。ドラウパディーのスヴァヤンヴァラ(婿選び)、インドラとの戦い、カーンダヴァの森をアグニに捧げ、マヤの会議堂を手に入れ、ラージャスーヤで属国から貢物を得たこと、ビーマによるジャラーサンダの殺害、プラマタへの王子たちの解放、ドラウパディーの髪をつかんだ者たちの討伐、聖仙ドゥルヴァーサスを使ったドゥルヨーダナの罠、シヴァとパールヴァティを驚かせてパーシュパターストラ(世界や時間や空間をも破壊する武器)を授かったこと、肉体を持ったまま天国へ昇りインドラと王座を分かち合ったこと、全てが彼のおかげでした。けれども、そのお方に私は欺かれてしまったのです。
クルクシェートラの戦場で、彼を味方にしたからこそ私は戦えたのです。御者として私の前に座り、ただの一瞥で敵の生命や心を奪い、ドローナやビーシュマ、カルナらの矢を浴びても傷一つ負わなかった。彼の冗談や優しい笑みを思い出すと動揺します。私の愚かさや無知を、彼はずっと我慢してくれていました。ああ、兄よ、あの偉大なる方が地上を去ってしまいました。私は彼の奥様たちを守ろうとしましたが、悪人に襲われ、惨めに敗走してしまいました。ガーンディーヴァ(カンダヴァの森をアグニに捧げたことでもらった弓)も矢も、戦車も馬も、そして私自身も、外見は変わらないのに、彼を失った今、すべてが一瞬で無価値になってしまったのです。

ああ、王よ、ドワーラカーの親族はブラーフマナの呪いで理性を失い、まるで異邦人のように殴り合い、全滅してしまいました。互いに助け合っていた者たちが殺し合うとは、これが主の遊戯でなければ何なのでしょうか?海では強者が弱者を食らい、大きなもの同士は共食いをして生きています。悪しきドゥルヨーダナたちをヤドゥ族によって滅ぼし、そのヤドゥが地球の重荷となると、今度はヤドゥ族が自らの手で滅びたのです。
ゴーヴィンダ(牛を守る者,クリシュナ)の言葉は、いつも時と場所に相応しく、どんな苦しみも適切に癒してくれました。このことを思い出すだけで、今も私の魂は彼に魅了されてしまいます。」

ー スータは言った ー
アルジュナの心は徐々に冷静さを取り戻し、主への深い思いによって心の汚れが浄化されていった。激情から離れ、彼は現世的な活動と時の流れによって忘れかけていた戦場の最前線で主が説いた福音(ギーター)を思い出した。ブラフマンを悟ったアルジュナは、マーヤー(幻想)を払い、トリグナ(サットヴァ,ラジャス,タマス)を超越した。相対的な観念という幻想は消え去り、彼の微細な身体(スークシュマ・シャリーラ)は消滅し、すべての悲しみを克服して、ついにサンサーラ(輪廻)から解放された。

ユディシュティラは、主の天界への旅立ちとヤドゥ族の滅亡を聞き、心の平安を得て天国へ昇る決心をした。母クンティーもこの出来事を知り、アドークシャジャ(超越した者,クリシュナ)に心を結びつけ、この世に背を向けた。
主クリシュナは、舞台俳優が役を終えるように、地球の重荷を和らげるために用いた肉体を捨て去った。ムクンダ(解放を与える者,クリシュナ)が素晴らしい物語を残し肉体を去ったその日、人々をアダルマ(非道)へと導くカリ・ユガが始まった。
国中に、家庭に、人の心にまで、貪欲や偽り、裏切り、暴力などの悪が増大するのを見たユディシュティラは、カリ・ユガの始まりを悟り、この世から離れる準備をした。
彼は孫パリークシットを自分に匹敵するダルマを持つ者として、ジャンブードゥイーパ(世界の中心に位置する大陸)の帝王に任命した。さらに、マトゥラー(悪王カンサからクリシュナが解放した生誕地)では、ヤーダヴァ族で唯一生き残ったヴァジュラ(アニルッダの息子)をシューラセーナ族(クリシュナの祖父の一族)の王として戴冠させた。ユディシュティラはプラジャーパティ(創造主)に供儀を捧げ、出家した。
美しい衣服やバングルを残し、「私のもの」という思いも放棄して現世の絆を完全に断ち切った。彼は自分の言葉を心に帰入させ、その心をプラーナ(気息)へ、プラーナをアパーナ(骨盤周囲の生命エネルギー)へ、アパーナを排泄機能とともにムリティユ(死,ヤマ神)へ、ムリティユを五種の粗大な要素(パンチャ・マハーブータ,空,風,火,水,地)からなる肉体(ストゥーラ・シャリーラ)へと帰入させた。
肉体は死そのものであると悟った王仙は、肉体をトリグナへ帰入させ、トリグナを根源的な唯一のものプラクリティ(根本物質)へと帰入させた。
さらに、宇宙の大原因であるプラクリティをジーヴァ(個の魂)へ、そして最後に、ジーヴァを不滅のブラフマン(宇宙の魂)に帰入させ、この現象世界はブラフマンそのものであると悟った。

※※※
ヒンドゥー教の時間のサイクル、調べてみると本当に興味深いよ。この「カルパ」というサイクルは、四つの時代(ユガ)から成り、それぞれが終わると「プララヤ」と呼ばれる大破壊が起こり、新たな創造が始まって再び最初のサティヤ・ユガに戻るんだ。時間は直線的ではなく、円環的に回り続けるという宇宙観が特徴。

最初の時代、サティヤ・ユガは「真理(サティヤ)」と調和が支配する黄金時代。物質的欲望や争いは一切なく、人々は神々とビビビっと直接コミュニケーションを取れ、瞑想やヨーガで神聖な力を感じていたんだって。この時代はなんと1,728,000年も続いたらしい。
次のトレータ・ユガになると、道徳が少しずつ衰退して、四つの徳「真理、慈愛、犠牲、規律」のうち「真理」が失われ、残る三つ(トレータ)だけが保たれた。この時代、英雄ラーマが正義とダルマ(正しい道)の象徴として活躍し、彼の物語『ラーマーヤナ』が生まれた。この時代も1,296,000年という長さ。
ドヴァーパラ・ユガになると、四つの徳のうち残るのは「真実」と「義務」の二つ(ドヴァー)。道徳がさらに低下し、戦争や争いが増加。神々とのつながりも薄れ、宗教も形式的な儀式に変わってしまった。この混乱の中、クリシュナが登場し、『マハーバーラタ』の戦いでアルジュナに「正義を貫け!」と教える。この時代は864,000年続いた。

そして、ついにやって来たのが、現在のカリ・ユガ。混乱と堕落の時代は、紀元前3102年2月18日、クリシュナがこの世を去った日からスタート。今や神々とは完全に「圏外」状態。Wi-Fiも切れちゃって、いくら祈っても届かない感じ。私たちはこのカリ・ユガのど真ん中を生きてるけど、未来を想像すると、バットマンのゴッサムシティのように利己主義がはびこり、悪党たちが自由にやりたい放題。ペンギンが市長選に立候補しても、誰も驚かないくらい腐敗してる状況。ジョーカー級の悪党が「標準装備」になり、正義はもはやレアなキャラクター‥
このカリ・ユガが終わるのは426,000年後。そう、西暦428,299年。先が長すぎて、もう気が遠くなるけど、それがカリ・ユガ。
まだまだ、この混沌に付き合うしかないんだよね。

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