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ヴィシュヌのスタートアップ:宇宙創造のパーツ組み立て講座

第二巻第十話 バーガヴァタが持つ十の特徴

聖シュカは語り続けた。
「サルガ、ヴィサルガ、スターナ、ポーシャナ、ウーティ、マンヴァンタラ、イーシャーヌカター、ニローダ、ムクティ、アーシュラヤ。これらがバーガヴァタ・プラーナで説かれる主題です。真の知識を持つ者は、最初の九つの項目は、最後のアーシュラヤを示すためだけに論じられていると語ります。この結論は、物語中のいくつかの詩句やその趣旨を深く熟慮することで導き出されました。
神の意によりプラクリティの平衡が乱れ、変異が起こることで、以下が創造されます。
粗大な要素(ブータ):空・風・火・水・土
微細な要素(タンマートラ):音・触・色と形・味・香り
知覚器官、行為器官、心(マナス)、自我意識(アハンカーラ)、マハト・タットヴァ(宇宙理性)
これが「サルガ」(神による世界の創造)と呼ばれる創造であり、さらにブラフマー神による身体の創造が「ヴィサルガ」(放出,解放,分配)と呼ばれます。主によって創造された生物が自らの義務を守ること、これを「スティティ」(スターナと同じ:存在の仕方)と呼びます。また、主が信者に慈悲を与えることを「ポーシャナ」、マヌが徳に基づく行為を行うことを「マンヴァンタラ」(人類が支配する時代)、生物が私心を持つ行動を起こし、束縛を生じさせる欲望を「ウーティ」(創造•起源)と呼びます。
シュリー・ハリの様々な化身や、主の信者たちの物語や逸話は「イーシャーヌカター」と呼ばれます。「ニローダ」(徹底的に止めること)とは、主がヨーガニドラー(創造と破壊の間における深い瞑想的な眠り)の状態に入り、宇宙全体を一時的に沈黙させることを指します。このとき、ジーヴァ(個の魂)はその能力(身体や感覚器官など)や属性(グナ:サットヴァ•ラジャス•タマス)と共に主の中に吸収されます。この状態において、ジーヴァは物質世界から解放され、無に近い静寂の状態に至ります。ジーヴァが自分を行為者だと思う執着を捨て、「自分はブラフマン(宇宙の真理)と同じである」と悟ることを「ムクティ」(魂の解放)と呼びます。また、この宇宙の創造、維持、破壊を起こす根源を「アーシュラヤ」(土台•庇護•根拠•目的地)といい、聖典ではそれを「最高のブラフマン(パラブラフマン)」や「至上の大霊(パラマートマー)」と称しています。
自分を感覚器官と同一視するジーヴァ(魂)は、実際にはその感覚器官を支配する神としての側面も持っています。しかし、感覚器官の主体であるジーヴァと、それを支配する神を分けている身体は、ジーヴァに制限を課すウパーディ(仮の属性や制約)として作用します。
感官の主体(アーディヤーミカ•ジーヴァ)、感官を支配する神(アーディダイヴァ•ジーヴァ)、肉体(アーディバウティカ•ジーヴァ)、これらのうちどの一つが欠けても他の二つを知覚できないのは明らかなことで、このことより、これら三者を知るものがアーシュラヤ、つまり全ての支持者であると理解され、それは主(パラブラフマン)以外には存在しないのです。

卵の形をしたこの宇宙から現れた主の宇宙体ヴィラート・プルシャは、そこから離れると、立つための足場を探しました。純粋な意図を持つその存在は聖なる水を創造しました。最高者から発生したため、これらの水はナラ(神聖で清浄なもの)と呼ばれました。その水の上に神々の時間で千年住んだことから、ナーラーヤナ(ナラに住む者)として知られるようになりました。
粗大な要素(空•風•火•水•土)、カルマ(行為)、カーラ(時間)、スワバーヴァ(本性)、ジーヴァ(魂)、これらは主によって存在し、主が無関心になれば、たちまち消滅してしまいます。唯一なる主ナーラーヤナは、深い瞑想的な眠りのヨーガニドラーの恍惚状態から目覚めると、ご自身を増殖しようと決意し、その光り輝く身体(ヴィーリャム•ヒランマヤン)を、マーヤーの力によって三つに分けました。それは、アディダイヴァ(器官と心を支配する神)、アディヤートマ(十の器官と心)、アディブータ(器官の対象)です。
パリークシットよ、統一された主のエネルギーがどのようにしてこれら三種に分けられたのか、これから詳しく話します。どうか心を傾けて聞きなさい。

主の宇宙体は、最初に自分自身を奮起させ、その身体の空間から感覚の鋭さ(オージャス)、精神の力(サハス)、肉体の力(バラ)を生み出しました。そして、これらの力から気息の中で最も重要なプラーナが生じたのです。王の従者が王に従うように、すべての生き物の器官はプラーナの働きによって活動しています。プラーナが止まった瞬間、それらの器官は機能を失うのです。
プラーナが自由に動き始めると、宇宙体は空腹と渇きを感じ、何かを食べ飲もうとした瞬間、口が生じました。そこから味覚を持つ舌が発生し、さらに味覚で経験する様々な味と、それを支配する水の神ヴァルナが生まれました。このようにして、器官の座、器官を支配する神、そして器官の対象が次々と創造されていったのです。
彼が話そうとした瞬間、その口から発声器官、これを支配する火の神アグニ、そして発声行為が生じました。その後、主の宇宙体は非常に長い時間、水の中で呼吸を調節しながら留まっていました。
しかし、出口を求めた呼吸に押し出されて、彼の顔に一対の鼻孔が出現しました。香りを嗅ぎたいと願った瞬間、その鼻に嗅覚が宿り、さら嗅覚を支配する風の神ヴァーユと香り生じました。
暗闇の中で、自分自身や周囲を見たいと願った瞬間、彼に一対の眼と、太陽神スーリヤ、視覚、その対象である形や色が同時に生じました。こうして宇宙体は見る能力を持つようになったのです。
ヴェーダが宇宙体を目覚めさせるために神聖なマントラを詠唱し、彼が聴こうとした瞬間、一対の耳とディグデーヴァター(方位と聴覚を支配する神)、聴覚、その対象がその身体に発生しました。そうしてその宇宙体は音を知覚するようになったのです。
宇宙体が硬さや柔らかさ、軽さや重さ、暖かさや冷たさを知覚したいと願った瞬間、皮膚が生じました。その皮膚の上には毛(触覚と痒みを感知)と、それを司る神「木」が現れました。同時に、触覚を支配する力が生じ、それは風の性質と結びつきました。さらに、宇宙体が触覚の対象に意識を向けたとき、皮膚の内外は触覚で満たされました。
宇宙体が様々な行為をしたいと願った瞬間、二本の手が生じ、同時に、物をつかむ能力と、それを支配するインドラ神が現れ、「物をつかむ」という行為が生まれました。
宇宙体が自由に歩きたいと願った瞬間、二本の足が生じ、同時にそれを支配する神ヴィシュヌと、供儀の材料を得るために必要な移動能力が現れました。
宇宙体が子ども、性の喜び、不死(子孫を残す)を願うと、陰茎と生殖能力が生じ、それを司る神プラジャーパティと性交の喜びが現れました。次に、糞便を排泄しようとすると肛門と排泄能力が生じ、それを支配する神ミトラと排便行為が生まれました。
宇宙体が肉体から移動したいと願うと、臍が生じ、アパーナと呼ばれる気息と、それを支配する死の神が現れ、この後にアパーナからプラーナが乖離すると死が訪れるようになりました。食事と水を願うと、腹腔、腸管、動静脈が生じ、腸管を支配する神々()と血管を支配する神々()が現れ、満足と栄養が生まれました。マーヤーを瞑想しようとすると、心臓と心が発生し、心を支配する月の神が現れ、意思と欲望が生まれました。
「地」「水」「火」から宇宙体の構成要素(ダートゥ)の、体液(ラサ)、血液(ラクタ)、筋肉(マーンサ)、脂肪(メーダス)、骨(アスティ)、骨髄(マッジャ)が生じ、「空」「水」「風」から気息が生まれました。
感官は対象へ向かうが、その対象も宇宙体のアハンカーラ(自我意識)から生まれました。心(マナス)は不健全な感情の宿る場所であり、理性(ブッディ)は対象の本質を明らかにします。
壮大な主の姿についてあなたに説明しました。その主は自身の外側を自我意識(アハンカーラ)、マハト・タットヴァプラクリティ(物質原理•トリグナによって表現される)からなる八つの層に覆われています。
さらに、この姿の奥には、非顕現で無属性、始まりも終わりもなく、その中間すらない、永遠で、心と言葉が届かない主の最も微細な姿が存在しています。

以上の壮大で精妙な主の姿は、すべて主のマーヤーによる創造です。ゆえに、賢者はこれらの礼拝を拒みます(真の実在を求め瞑想や知識の探究を重視する)。主は自ら活動せず、マーヤーを通してのみ働きます。また、主はブラフマー神の姿を取り、言葉とその意味を顕し、多くの名称や形態、活動を生み出します。
プラジャーパティ(被造物の主)、マヌ、神々、リシ(聖賢)、祖霊(ピトリ)、シッダ(完成者)、チャーラナ(天界の吟遊詩人)、ガンダルヴァ(天界の音楽家)、ヴィディヤーダラ(半神)、アスラ(悪魔)、グヒヤカ(神秘的な存在)、キンナラ(天界の音楽家)、アプサラス(天界の妖精)、ナーガ(竜)、キンプルシャ(半神)、蛇、マートリカー、ラークシャサ(羅刹)、ピシャーチャ(食人鬼)、プレータ(死霊)、ブータ(亡霊)、ヴィナーヤカ、クーシュマーンダ、ヴェーターラ、ヤートゥダーナ、グラハ(惑星)、鳥、爬虫類、他の動物の餌食となる生き物、その他の動物、木、山――これら宇宙に存在するすべての名称と形態は、ああ、王よ、主がその姿を変えて顕れたものなのです。
胎生、卵生、湿性(虫など)、植物、そして水中、空中、土上に生きるものを含む一切の生物は、それぞれの魂が過去の行為に応じて現れた、善、悪、その混合した姿です。
サットヴァ、ラジャス、タマスのいずれかが優位であるかによって、魂は、神々、人間、地獄の住人、または人間以下の生物として生まれます。この三種の運命は、どのグナが他のグナに影響を及ぼすかにより、さらにそれぞれ三種に分類されます。
主は世界を維持するためにヴィシュヌとして降誕し、動物、人間、神々の姿を取って宇宙を守り続けます。そして、時が来るとルドラ(シヴァの破壊神の側面)として現れ、宇宙崩壊の炎の中で、ご自身が創造したこの宇宙を雲を吹き払う爆風のように消滅させるのです。

主は想像を超えた力を持つ存在ですが、賢者は主の本質をこの姿だけに限定しません。主はさらにそれを超越した存在だからです。主は宇宙の創造やその他の活動において行為者ではありません。シュルティ文献(聖典:啓示され聖仙が聞き取った真理)では、それ(主が行為者であること)を否定するために、あえてこれら(宇宙の創造や他の活動)を主に帰属させていますが、それらはマーヤーによって主と重ねられている(主が行為者のように見える)にすぎません。
ブラフマー神に関係するマハーカルパ(大カルパ)とヴィカルパ(小カルパ)について話しました。マハーカルパ(ブラフマー神の寿命が終わり大帰滅の後に始まる)では、すべての創造が完全に新しく行われます。一方、ヴィカルパ(ブラフマー神の夜明け後に始まる小カルパ)では、動くものや動かないものの身体だけ(生物や山や川など)が創られます。時の長さやカルパの分類については、後の物語で詳しく説明します。それでは、パードマ・カルパの物語を話しましょう」

ー 聖仙シャウナカが尋ねた ー
スータ(吟誦者ウグラシュラヴァス)よ、ヴィドゥラ(パーンダヴァ兄弟の叔父)が親族を離れ、地上の聖地を巡礼した話(第一巻第十三章)を語ってくれた。彼はどこでマイトレーヤと信仰について語り合い、その聖仙からどのような真理を聞いたのか?ヴィドゥラに関する物語を詳しく話してほしい。

ー スータが答えた ー
かつてパリークシット王も同じ質問をした。私は偉大なる聖仙シュカが彼に答えて語った物語を、今から話そう。

ー バーガヴァタ・プラーナ 第二巻終了 ー

※※※
『バーガヴァタ・プラーナ』――つまり「至高の神の物語」ですが、サンスクリットの文法的な構造とかはさておき、親しみを込めて「バーガヴァタム」と呼ばれています。「バーガヴァタム」、若者風に言うなれば「アノ神様のヤバい話」ってとこですかね。

この聖典、10のテーマを扱っていますが、その核となるのは、神の栄光と信仰の喜びを高らかに謳い上げることにあります。そして哲学や倫理、物語を通じて、多層的な学びを提供してくれるのです。
第2巻第10話では、シュカが「さあ、パードマ・カルパの物語を語りましょう」と宣言します。が、一方でナイミシャの森のシャウナカたちはというと、「いやいや、ヴィドゥラの話を詳しく聞きたいんだけど?」とウグラシュラヴァスにリクエスト。いや、これがどう繋がるのかと首を傾げたくなる展開です。結局、どちらの話も行き着く先は同じ――神の栄光、宇宙の秩序、そして守るべきダルマを教えてくれるわけですが。
ここで気づくのは、これはどうもインド哲学の「高等戦術」ではないかということ。あれこれと複雑に物語を絡め、謎を散りばめ、学び手を撹乱しつつも、どこかで真実(ブラフマン)に辿り着かせようとする壮大な作戦です。その途中で生まれる疑問や混乱も含めて、「学び」として吸収させる仕掛けになっているようです。ただし、この作戦にはひとつ問題が……いや、時間がかかるんですよ。壮大すぎて。最近、ようやくそれを理解しました。だから、焦らず一歩ずつ進むことが大事なんでしょうね。だって、真理って簡単には手に入らないものですから。
padaṁ padaṁ 、一歩ずつゆっくりと。

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