武尊は試合できるのか?

ONEは試合直前の体重制限で、リカバリーは5%までとしているらしい。計量は試合何時間前かは不明。秋山選手がそれを大幅にオーバーしていたのは一目瞭然。厳重注意のみのペナルティは形骸化しており、その範囲内で演出は自由ということになる。演出とは勝敗の事。

ボクシングでもMMAでも、海外では賭博の対象であるのが当たり前で、日本のように真剣勝負に拘るような牧歌的な国はむしろ特殊だろう。だからゴロフキンも村田諒太に最大限の尊敬を示した。また、選手が真剣であったとしても、背後ではビジネスに徹したやり取りが行われていることは想像に難くない。その手の書籍を齧ってみると良いだろう。

今回、武尊は体重を指定され、それを了承したので本人は文句を言えない。55 kgで試合していた時代があったとは言え、想像を絶するトレーニングの結果、60 kgに肉体改造して王者になった。通常時の体重はその筋肉量から考えれば 60 kg後半から70 kgに達すると思われる。ファンの為にも自分の為にも、試合実現の為に譲歩した。

武尊は那須川天心戦の体重が決定するまでに、新生K-1スーパーフェザー級の頂上決戦であるレオナ・ペタス戦に勝利している。レオナは屈強な体力の持ち主で、ラグビー出身で武尊の練習パートナーである大岩選手も負かすほど。武尊のフレームはこの階級では大きいほうではないから、徐々に筋肉量を増やして体を作り上げた。

レオナ戦に勝利して、約一年後に那須川天心戦が決定し、契約体重が決定したのが2022年3月。新コロ騒動もあって、環境が安定しない中、武尊は壮絶なトレーニングを継続していた。契約体重とほぼ同階級の軍司泰斗とのエキシビションでは互角の戦いを見せ、順調な仕上がりもアピールした。

だが、大きな問題が待っていた。4月の会見で、RIZIN榊原社長の口から衝撃的な発言があった。ゴング格闘技熊久保記者からの質問への返答で、「(戻し62 kgの)計量時刻は試合3時間前」と言うものだった。通常なら前日の午前中に58 kgのリミットをクリアすれば、翌日の夜の試合時間までに約一日半で十分なリカバリーが行える。

ところが天心戦の場合、3時間しかない。そうするとほぼ満足な回復は不可能で、もしかすると点滴しなければ試合できない状態も考えられる。

前日計量から試合3時間前までに4 kgの戻ししか許可されていない。通常なら平常時体重に近いところまで戻せるのだが、試合3時間前の時点で62 kgと制限されている。試合直前まで地獄のようなウェイト管理を強いられる前代未聞のハンディキャップマッチ。これがどれだけ不利な事かファンには知っていて欲しい。

ONEだってオリンピックだって同じような事をしてるじゃないかと聞こえてきそうだが、同じではない。ONEは水抜き禁止を標榜してはいるが、冒頭で述べたように「厳重注意」や、反則行為を重ねても段階的な罰金ペナルティーがあるだけだから、PPVで取り戻したり、負けて自分の商品価値を落とす事との天秤にかけて反則を選べる余地がある。

ONEは青木、秋山が表現した通り、僕の予想通りの結果となった。ルールから見ても、そのようにする余地が残されている以上、選手はその中で出来ることを選ぶのは当然だと思う。結果至上主義でなければ、負けを選んでも結果的に損をしないシナリを考えるようになる。

武尊はこれまで、決して有利ではない状態でも、それを跳ね返して勝利し感動を生んできた。今回もそのお膳立ては十分すぎるほど整っている。武尊がこれまでのように奇跡的な勝利で国民栄誉賞に輝く選手となるのか、ふらふらの状態で那須川天心に倒されるのか。

悲劇だけは見たくない。


追記、2022年4月10日15時23分、当日計量の時刻を15時と誤記していましたが、読者の方から教えていただき、「試合3時間前」に修正しました。ご指摘、ありがとうございます。


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