キヤノンのハイエンド画質とは

最大エントロピー法を使用した月面の写真は数十年程前に登場していたと思います。その画像は従来の月面写真よりクッキリとクレーターなどを表現していて驚いたものです。

これを光学的に実現しようとすれば十倍の投資額、十万円を百万円にしても不可能でしょう。一千万円なら可能かもしれませんが。

とは言え、それは計算で求めた画像であり、現実のものではありません。

デジタル写真のRAW現像を経験した人はこれと似たような経験をしているでしょう。テクスチャ、シャープ、明瞭度、かすみ除去、AIノイズ除去等の機能を使用すれば高級レンズやフィルターを使用しなくても解像感やヌケの良い、これまでレンズに求められていた高性能が簡単に入手可能になります。

オーディオでも同じようで、僕はそれには数十万円しか使用した事がありませんが、二桁、三桁違う金をかけた高級オーディオシステムとの違いは、ハイエンドの加工技術を含めた時の表現の自由度なのでしょう。

一度、有名な研究者の方のオーディオルームで真空管アンプでドライブするシステムを聴かせていただいた事があります。なぜか、その時の音楽はクラッシックのオーケストラなどではなく、薬師丸ひろ子でした。その事に驚いてあまり気の利いた感想を言えなかったのですが、非常に個性がなく、メリハリや明瞭感など何も感じない味気ないもの、と言うのが率直な感想でした。今考えると楽器の音ではなく、美しい肉声のボーカルに注目すべきだったのかもしれません。

これを写真の画像で言うなら16 bitのRAW画像を現像無しの状態で見ていると言えば、ピッタリな感じがします。もちろん最低限の条件を与えなければ画像としても音としても確認出来ないことは言うまでもありません。ただその状態で画質や音質を判断する事は僕にはできそうもありません。

結局、高級オーディオシステムもハイエンドカメラシステムも階調性豊かな情報をキャプチャして再現する道具に他ならないのだと思います。情報量が豊かであれば加工の自由度が高まるわけです。

求める画像が豊かな情報量でなくても加工の巧みさで十分可能にする場合もあります。良い例がi-phoneなどの小さなセンサーでも非常にキレイな画像を優秀な加工技術で得ている事です。安いオーディオもドンシャリメリハリの利いた音のほうが良い音に聞こえる事があるのに似ています。

ですからi-phoneと同じ事をRAW現像ソフトでやれば高級システムで撮影された写真よりもぱっと見、見栄えがする画像が得られるようになるのです。

現代のデジタル技術と従来のハイエンドアナログ写真の違いはどの程度のものなのでしょうか?中判や大判のフィルムをドラムスキャナーでデジタイズしたファイルを従来のハイエンド印刷技術でポスターにしたものは非常に高い画質を持っていました。あのくらいの画質があればそれ以上が必要なのかと言う程の画質でした。

あの画質に匹敵するような画像は現代のフルサイズデジタルカメラではまだ出せていないように思いますがどうでしょうか。比べた事が無いので不明ですが、同じような解像感や明瞭感をソフトで演出する事は可能だと思います。それであればコスト的なメリットは計り知れないものがあるとは思います。

それほどハイエンドな画質が必要かと問われれば、不要な気もします。
同時にそれを求める人がいても良いと思います。
プロの現場ではコストが重視されるのですから、逆にコスト無視のアマチュアハイエンドにその需要がむしろあるのではと思われます。

今、キヤノンの最上位機の画素数がハイエンドプロ機として相応しいかどうかが議論されています。僕はその画素数で十分だと思っています。実際にキヤノンのプロ機はこれまでも2000万画素程度でも、そのボディは大きく頑丈で、防塵防滴などの信頼性を最重要視したものでした。

対するソニーは画素数やスペックではキヤノンを軽く凌駕しているものの、使い勝手や信頼性は発展途上と言うよりも、ハイアマ機としての条件を満たしたものと言うべきカメラのように感じます。談合とまでは言いませんが、キヤノンやニコンとは意図的に客層をずらしているように思います。

5000万画素にすれば感じられるローリングシャッター歪みも、半分の2400万画素ではほとんどの動きモノで気になる事は無いでしょう。ただ、この歪みは単に変形だけなら問題は少ないのですが、数画素程度ではあるもののノイズのような毛羽立ちが出ることが最大の問題です。必ずしもどの画像でも確認できるものではありませんが、出る事は事実です。昨年、今年とEOS R6 Mark IIでそうした画像を量産してしまいました。

この毛羽立ちのような歪みが1画素について、数画素以上伸びて出ると言う事実は修復が困難な上、事実上解像度を数分の一にする事に他ならないと言う事になります。ですから、プロ機を名乗るのであれば一刻も早く、この歪みを解消すべきなのです。

これが存在する以上、プロ機やハイエンドを名乗る事は許されないと思います。オーディオなら意図せぬノイズが聞こえるなんて、数万円のスマホほどの価値も無い事になってしまいます。


いいなと思ったら応援しよう!