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11月27日の日記は、事実に基づいたフィクションです。
空からバサバサと雨が降っていた。
天気予報では、雨の予報になっていた。お天気お姉さんの正解。このお姉さんを信用している私は、予報が当たるとわかっていたのに、レインコートを持たずに仕事に行った。おかげで、帰りに雨に降られ、コートがびしょ濡れになった。
雨の中、自転車で信号待ちをする。
「あ、あの」
私の左側で、女性の声が聞こえた。私が左に向き直ると、ロングヘアの女の人が立っていた。左手で傘をさし、右手にはキャリーケースを持っている。
私はチラリと、その女性に目をやった。
そしてすぐに、顔を前に向けて信号を見た。
左側では女性が一所懸命に、私に話しかけている。
「今日は2万歩、歩いてるんです。このひらひらしたスカートだと、歩くのが大変ですね。どうして大変かというと、雨が降っているからなんです。薄いスカーとだから、足にまとわりついちゃって、すごく歩きにくくって。ものすごく歩きにくいですね。ほら見てください。少しスカートが濡れているでしょ」
変な人だな、と思った。でも、あまりに話しかけてくるので、無視するのもはばかられ、ついつい私は、その女性に話しかけてしまった。
「確かに、歩きにくそうですね。でも、わざわざ雨の中、キャリーケースを転がしながら2万歩も歩く必要がありますかね。それに、知らない人に話しかける必要も。あなた、何かを隠していませんか?」
女性の目が泳いだのが、私にもわかった。
「か、隠す?何をですか?」
「キャリーケースに、“何か“をですよ」
女性が小さくため息を吐いたのが、私にもわかった。雨がザアザアと音を立てて、アスファルトを叩いてる。ため息は雨に呑まれアスファルトに叩きつけられると、そのまま側溝へと流れていった。
女性は、私を手招きした。
私は女性について行く。本当は、ついていくべきではないと思った。素性を知らない、それに一方的に話しかけてくる女性についていくなど、どう考えても危険でしかない。しかし、好奇心には勝てなかった。
キャリーケースの中身が、私はどうしても見たかったのだ。
私と女性は、古びれたビルで雨宿りをした。
女性は、ゆっくりとキャリーケースを開けた。
中には、黄色いふわふわしたものがぎっしり詰まっている。そして、ぴよぴよとかわいげな顔をこちらに向けていた。
ひ、ひよこ🐣?
女性は、その中から一羽のひよこを手に取ると、そっと私に手渡した。私はひよこを手に乗せる。
ふ、ふわっふわ!🐥
私の表情が緩んだのを感じたのか、女性の右の口角が上がった。
「これは、ひよこに見えるかと思います。しかし、30分後には、パン粉をまぶした揚げる前のチキンカツになります。1キロ相当です。価格は1,000円。今夜の晩ご飯にいかがですか?」
私は右手に乗せていたひよこを、左手に持ち替えた。そして空いた右手でポケットからスマートフォンを取り出した。
「バーコード決済でも、大丈夫ですか?」
女性は、ゆっくりと頷いた。
「もちろん」
そして、女性は一言だけ、私に条件を伝えた。
「ただし、今日中にお召し上がりください」
帰宅すると、ポケットに忍ばせていたひよこが、揚げる前のチキンカツになっていた。私はフライパンに油を入れ、中火を保ち、チキンカツを揚げる。チキンカツからはジュワジュワと気泡が出て、こんがりと狐色に変わっていく。
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こんがりと揚がったチキンカツを食卓に出した。チキンカツは、意外なほど美味しかった。さっぱりとした胸肉のチキンカツ。カリカリとしていて、息子たちも美味しそうに食べている。
「これ、あまる?」
長男が私に尋ねてきた。
「三個ぐらいあまりそうやね。弁当にすると?」
「うん」
長男は、嬉そうに笑っている。
私は、「じゃあ、明日はこれで弁当を作るね」と答えた。
しかし、長男は明日の昼、チキンカツ弁当を食べることができるのだろうか。私は、今日中にお召し上がりくださいと伝えてきた女性の意味を図りかねた。もしかすると、長男が弁当の蓋を開けた時、そこには体のないひよこの頭部が、入っているのかもしれない。
これは、事実に基づいたフィクションです。
昨日は、「エッセイにフィクションはアリなのか?」という日記を書いた。
たくさん読んでいただき、コメントもたくさんいただいた。
今回のこの記事にいただいたコメントは、記事を読んでくださった皆様のエッセイに関する色々な考え方だった。それは非常に興味深く、大変、勉強になった。未読の方は、私の記事はさておいても、コメントだけでも見に行ってほしい。マジでぜひ!
エッセイってこうだよね、みたいな話を日常生活ですることがないので、すごく新鮮だったし、コメントを読みながら、皆さんにビールをついで回りたいと思った。座敷で瓶ビール。
そして、今日、Xでももまろうめこさんとフィクションのエッセイに関してもお話をさせていただいた。その会話の中で、「事実に基づいたフィクション」というフレーズを教えていただき、「なるほど!」と思った。書けないこともあるけど、基本は事実だよというフィクション。それなら、私でも書けそうな気がする、と。
ということで、事実に基づいたフィクションを書きたいなと思って、今日、書いて見たのが、上記の日記だ。ちょっと「事実に基づいた……」の趣旨と違う気もするが、個人的な好みの内容なのでご容赦いただきたい。
ちなみに、キャリーケースを持った女性に雨の中信号待ちで話しかけられ、2万歩だとかひらひらのスカートだとか言われたのは事実だ。ちょっと意味がわらかなくて、しかも、ちょっと雰囲気がおかしかったので、私は信号が青になったのと同時に、逃げるようにダッシュした。
そして、晩ご飯がチキンカツも事実。胸肉で作って、カリカリで美味しかった。
詰まるところ、よくわからないひよこの件はフィクションです。妄想はノンフィクションなので、ある意味全てがノンフィクションです。
昨日いただいたコメントを読んでいて感じたのは、フィクションであれノンフィクションであれ、書いたことには自分で責任を持って書くというのが、皆さんのスタンスのように感じ、すごく嬉しいなと思った。フィクションであっても、信用できるな、と。
私は、自分の記憶に全く自信がないので、エッセイにフィクションを混ぜると、どれが嘘かほんとか、わからなくなる気がする。明らかに現実味を帯びてないと、流石に妄想だとわかる気がするので、気兼ねなく書けるけれど、絶妙にリアルだと自分でも困惑しそうなので、書ける気がしない。それなら多分、フィクションの小説にしそうな気がするなぁと感じた。
まあ、いずれにしても、創作に関する諸々を考えるのは、楽しいなと思ったので、昨日今日と読んでいただいた皆様、コメントをいただいた皆様、ありがとうございます。創作って、可能性が無限大!