シャニマス×サカナクション「kikUUiki」の同人誌のあとがきをいまさら書き上げた
はじめに
この文章は2022年10月16日に開催されたアイドルマスターシャイニーカラーズオンリーイベントSSF05にてサルーシが頒布した同人誌「kisEiiki」のあとがきであり、その本のインスピレーション元であるサカナクション4thアルバム「kikUUiki」について語るものです。
本を読んでないという方はpixivにて公開していますので、これを読む前に本編を読んでいただけると嬉しいです。
https://www.pixiv.net/artworks/107783992
ていうか最悪読んでなくてもサカナクション聴いて!kikUUikiを!せめて目が明く藍色を!やっぱり全曲聴いて!!!!!
サカナクションの曲は限定販売の音源分以外は各種サブスクで配信中、目が明く藍色など一部楽曲はYou TubeにてMVが公開されています。
本のコンセプト
kikUUikiは「汽空域」と書き、汽水域という言葉を元にした造語になります。汽水域は淡水と海水が混じる場所のことで、豊かな生態系が生まれやすい環境です。汽空域は水を空間に置き換え、本来相容れないもの同士が混ざるときの良い違和感を求めるところから名付けられたそうです。
なので、今作「kisEiiki」では主役に置く浅倉透およびノクチルと、その他283プロに所属する人々が混ざりあう話を、kikUUikiの楽曲に併せて作っていくことにしました。曲は知らなくても楽しめるようにはしていますが。
kikUUikiには楽曲が12曲収録されていますので、12話で構成されています。内容は、ノクチルの4人が他ユニットの面々と交流する話が2つずつで計8話、交流していくことに対する透を描写したものが4話になります。
ここで原作シャニマスについての話ですが、最近のpSSRのフェス衣装が、ノクチル登場時のコピー「さよなら、透明だった僕たち」にあるように透明から遠ざかり、それぞれのイメージカラーに寄ってきていると言われています。
それについて私は、それぞれの色を見つけていくことはもちろんいい事だけれども、本人、特にLPにおいて安らぐ場所を一つ失った透は、4人一緒にいた自分たちに戻れなくなってしまうことを恐れてしまうのではないかと考えました。そうして、私の思うこの不安への答えを描くことにした次第です。
タイトル「kisEiiki」は混ざるものを「声」、つまり対話を表したいというもの。また「i」が4つあり、一つは「E」に隔てられていることから円香・小糸・雛菜と対する透を表せるように「i」に色を置き、不安への答え(Energy)に飢える様子(Empty)という意味も持たせられるよう「E」を透明を示す柄にしました。
こんな感じで実は色々考えて作ってます。ここから先は各話の解説に入ろうと思います。ちなみにユニット越境分の組分けですが、透は全ユニットと関わることを前提に、プレゼン・フォー・ユーとも違う振り分けになるよう考えました。普段見ない組み合わせができるとどんな会話をするのか想像が楽しいので皆さんもやってみましょう。
intro = 汽声域
原曲「intro = 汽空域」
アルバムの最初の曲で、ボーカルは入っておらず、フィールドレコーディングがミックスされた音源です。原曲同様に本(アルバム)のコンセプトを伝えるような内容になっています。
表紙絵と繋がるように考えていて、「21.3」「Structure-borne sound」「明々に僕らは」でも透に対して3人のポジションは同じ位置関係にあるようにしています。いつも一緒にいた3人が振り返るといない、というのはとても恐ろしいと思います。
透GRADで出てくる潟は汽水域で、海出のコミュタイトルにも汽水域という言葉が出てきます。円香はDARSコラボ、小糸は明るい部屋、雛菜は283をひろげようを元に描写しており、混ざるということを定義していきます。シャニマスくん越境コミュいっぱいちょうだい。
透の感覚で言葉を紡いでいくのは大変でした。ちなみに当初は「僕らは希釈されるのだろうか」の「僕ら」を「聖域」とルビを振ることを考えていました。「希聖域」です。流石にくどくなってしまうと思ったのでやめましたが、「希釈される聖域」が「希望の聖域」になるように話を膨らませていきました。
ジェイケーストリーム
原曲「潮」
華のJK共が姦しくしているのを見ていたい。くだらないことにムキになってるところを見ていたい。
歌詞は「自分の考えだと思っているそれは、人の考えに流されてるものではないのか」みたいな感じの解釈。そこから流行り物に対して円香はどう思うかな〜という発想で話を構築、人選です。
めぐるも愛依も円香にとって善人すぎて気が抜けると思うし、からかって遊んでほしいです。
タイトルは潮→ストリーム、女子高生組、ついでにフリーサイドジェイケー。
――激しく胸打つ思想に 踊らされ生きてた――
サカナクション「潮」より
else if
原曲「YES NO」
ひなじゅりをよろしくお願いします。実は以前参加させていただいた樹里総受け合同でもひなじゅりを描いてます。https://www.pixiv.net/artworks/101948303
歌詞は「ゆっくり考えたくても社会が急かすし、慣れてしまった自分もいるなぁ」みたいな感じかな……。
雛菜は「時間をかけないとちゃんと考えたことにならないの〜?」といった発言が過去にあるのでどうしようかと考えた結果「else if」に。これはプログラム書くときに出てくる記述の一つです。
説明下手なので詳しくは皆さんに調べてほしいんですが、今回の話で言えば、
質問「ユアクマが好きか」に対して【NO】のとき、さらに質問「雛菜がユアクマが好きであることを知っているか」をする
みたいな感じで、「じゃないときの追加の分岐」をするのが「else if」なんですね。
冬優子は自分の好きなものが理解されにくいと思ってるし、真乃は好きなものを共有する喜びを知ってるし、樹里ちゃんはかわいいので雛菜にもいい影響があったらいいな〜。
――すぐに答えを出す癖がついてた
もっと悩める夜に 帰りたくても帰れないから――
サカナクション「YES NO」より
ぐるぐるぐる
原曲「アルクアラウンド」
突如始まる己の語彙力テスト。だって言葉遊びしてるとこ見たいもん。
歌詞は「漠然と不安は付きまとうけど、自分の答えを探し続けよう」的な……?「アルクアラウンド」が「歩く」「around」=「歩き回る」、「a look around」=「見回す」なので「回る」をテーマに。
結華も凛世も言葉遊び好きそうだからね、駄弁って欲しかった。にちかは振り回すと楽しい。意外とみんな「回る」にまつわることしてるんだな、と描きながら思いました。
ちなみに凛世「水色感情」や透「まわるものについて」もある(というかそっちが真っ先に思い浮かんだ)けれど、乙女の秘密にしてたらかわいいよね!
あ、そういえば「グル」の語源は諸説ありますけど、少なくとも日本語であるのは間違いなくて「グループ」の略ではないんだって。
――嘆いて 嘆いて 僕らは今うねりの中を歩き回る
疲れを忘れて――
サカナクション「アルクアラウンド」より
らしくないこと
原曲「Klee」
みこいとください。レッスンルームで育まれる交流があるはずなんです。
歌詞は「評価を気にして無くしかけてた初心・自分らしさ」について。題名「Klee」は作詞の山口一郎氏が尊敬する画家「パウル・クレー」の他に、「休みをくれー」という叫びが混ざってるそうな。身長くれー。
小糸ちゃん対応、ちょこ先輩は緊張ほぐすの上手いし、咲耶はわんこであるのに気づけば早いと思う。美琴はまあ美琴なんだけど努力してる人に対してちゃんと敬意を持てる人なので。
とにかく、美琴に褒められて「えへへっ」する小糸が求められているのです!美琴に褒められて「えへへっ」する小糸が欲しくて描いた話なんです!e○zaマガジンの誤植は関係ありません!
――だから綺麗でなくていい 僕らしさ見つけたら
それが全て 全ての始まりです――
サカナクション「Klee」より
21.3
原曲「21.1」
インストのダンスミュージックです。曲自体はとてもかっこよく踊れるサウンドになっているのですが、アルバムはここから深く潜っていくので、話も起承転結の承となるようにしました。
歌詞のない曲ですが、この話はアルバム最後の曲「目が明く藍色」からいくつか引っ張ってきています。この話において「藍色」は中学生の、一度バラバラになることを経験したときの嫌な記憶・感情としています。藍色の制服を着てしまえば小糸の姿が曖昧になるようで、自分でもゾワゾワしながら描いてました。また、目が明く藍色には「メガアカイイロ」という歌詞もあり、これを炎が瞳に反射する様子として透LPを演出しました。いずれも透には繰り返したくない思い出だと思います。
タイトルはノクチル除くアイドル21人と樋口・小糸ちゃん・雛菜のことを原曲をもじって。混ざることへの怯えを感じてもらえてたら嬉しいです。
ノートとペンと君
原曲「アンダー」
これが悪い子の姿か……? かわいすぎるだろ……。
歌詞は「生活の中で曖昧になる自分を、どうにか定義し証明しようとする」という風に解釈。「アンダー」ということで小糸ちゃんが年下に接するときの態度を見たいのが本音。
「らしくないこと」の智代子とは違い摩美々は小糸に普通に警戒されてて欲しいし、良い子バレして懐かれて欲しい。果穂は太陽。ハナマルあげる。
背理法というネタを思いついてからはスルスル描けましたね。小糸先生が見たかったんです。【なつやすみ学校】福丸小糸は持っていません。チクショー。
――書きかけのノートに 線を引いてみたんだ
そこから下が新しい僕としました――
サカナクション「アンダー」より
数億年分の深愛を
原曲「シーラカンスと僕」
透が人でないものに言う「おまえ」が好きです。
歌詞は「自分の心の奥底を探り続けるのは辛いけど、自分を表現するために続けていくんだ」みたいな具合。シーラカンスは深海(心の奥底)でずっと生きてきた象徴とされている。「孤独」も要素の一つだけど、透をひたすらに寂しくさせるのは嫌だったので今回の話では他の深海古代種と併せることに。
執筆中はアルバムを繰り返し聴いてたんですけど、執筆前と比べて一番好きになったのがこの曲です。巨大感情を抱えて描いてたので4ページに収めるのが大変でした。
自分のユニットのメンバーが大好きな皆さんが好きです。甜花も灯織もあさひもユニットメンバーの話をするときは笑顔でいてほしいです。
好きです。
――どうか僕が僕のままあり続けられますように――
サカナクション「シーラカンスと僕」より
Partner in crime
原曲「明日から」
千雪とか霧子みたいなタイプって雛菜が懐きそうな感じしません? 僕はします。
歌詞は「やりたいことがあっても始めることすらできず、一人で言い訳しながら時間だけが過ぎてしまっている」って感じで、原稿中一番耳が痛かったです。解決策は「みんな」で行動することになるのかな。僕のケツを叩いてくださった方々、ありがとうございました。
「Partner in crime」は直訳で「共犯者」、転じて「親しい仲間」という意味。TOEICで240点(3択、4択問題なのに1/4以下)を取ったことのある私が必死にググって見つけました。
霧子が悪い子してるところを見たい。雛菜と千雪は元々悪い子です。それぞれ身近な悪い子を真似してたらかわいいと思いました。
膝枕は絶対に必要です。
――僕らは流されていくよ 「明日から」って何もかも捨てて――
サカナクション「明日から」より
やくそくは夜を越えて
原曲「表参道26時」
パワータイプに負ける円香はおいしい。いや恋鐘と夏葉のパワーに甘奈の妹力が加わってしまったら勝てるやつおらんのとちゃうか……?
歌詞は「関係が冷えてきたカップルの表面と心境」についてなのかな。この曲は山口一郎氏が他バンドの知人から影響を受けてフィクションで歌詞を書くことに挑戦したものらしいので、これまでの曲のような内省的なものとは若干毛色が違うように感じます。今回僕が話を作るにあたって苦労したものでもあり、
歌詞の意味から作るのは難しい→タイトルから連想するか→いや未成年が26時に外出すなー! 寮いけ寮!!! という感じでした。
そこから夏葉はメニスクでお天気お姉さんしてたし、甘奈はジャーニーで流星群見てたな〜って具合で作られたため、元の歌詞とはだいぶ離れてしまってる感じがしますが、フィクションで作られた歌詞という点ではむしろ一番元に近いかもしれません。
話のタイトル「やくそくは夜を越えて」ですが、ひらがなで「やくそく」としたのは、そうですね。【パーティーのやくそく】福丸小糸です。持っていません。チクショー。
――つまらない夜に 話し始めたのはなぜ
意味もないのに 左手で書いた名前――
サカナクション「表参道26時」より
Structure-borne sound
原曲「壁」
アルバムの11曲目です。
この曲について山口一郎氏は自殺の歌だと語っていて、歌詞も孤独を強く感じさせるものになっています。この曲における「壁」は、他者との間にどうしても感じる「壁」、そしてそれを感じ築き上げてしまっている自分自身こそが「壁」という表現をされています。
今回の話において壁を築いているのは透です。これに対してどう解決しようか考えたときに至ったものが「Structure-borne sound」、日本語で「固体伝搬音」です。これは空気の振動で伝わる通常の音と違い、物体が振動することで伝わる音で、例えばマンションの騒音トラブルの原因になるようなものです。
壁を破壊するような、例えばハンマーなども考えましたが、人と交流するには適度な壁は必要であり、透が築いた高い壁は透自ら分解して欲しいと思いました。ならばそれを為すには、本誌の鍵である「声」「音」であり、壁を伝い存在を伝える「Structure-borne sound」が適役だと感じました。
プロデューサー・はづきさん・天井社長が円香・小糸・雛菜に問うこの話を描く際、天檻での彼女たちの姿勢に大きな刺激を受けています。「透先輩は行っちゃうよ」という言葉はとても衝撃でした。そして、この本の中で透が抱えたような不安は、何も問題なく解決できるんだなと感じました。
「私たち/わたしたち/雛菜たち」のところは当初「幼馴染」とする予定でしたが、天檻を読むうちに幼馴染で収めてはいけないと思いこのような形になりました。このコマには透と事務所も描いており、意味として「浅倉透∩樋口円香∩福丸小糸∩市川雛菜∩283プロ=ノクチル」を表すことを狙いました。「∩」は積集合の記号で「○○かつ△△」という意味になります。実は本誌の裏表紙もこの積集合を表す絵になっています。また、「∩」は「kikUUiki」、および「目が明く藍色」を読み解く鍵になるものだそうです。
ちなみに話中に透が映画を観たと推察されている場面がありますが、何の映画を観たかは厳密に決めておりません。ただ、私がこの本を描くにあたってきっかけとなった要素として、2021年に行われたサカナクションのオンラインライブ「SAKANAQUARIUM アダブト ONLINE」を観たことが挙げられます。このライブでは舞台上にサカナクション以外に役者が登場し、まるで映画を観ているかのような感覚になりました。Blue-ray、DVDが発売中なので興味ある人は是非。
――僕は壁さ 立ち向かう事すら出来ぬ壁さ――
サカナクション「壁」より
明々に僕らは
原曲「目が明く藍色」
「kikUUiki」の最後を締める、リード曲でもあるこの曲は7分弱という長めの構成になっており、解釈の余地が大きな歌詞で彩られています。正直私も完全に理解したなどとは到底言えない段階で、「亡くなった人への思い」だとか「前を向き直して再び歩き出す決意」だとか、「あらゆる対立する概念も本当は一続きのものである」といったものまで、様々な解釈を参考にさせてもらいました。ただ、曲も芸術作品であり、作者が正解を言わない限りは感じるままに受け取っていいと思います。
本の内容ですが、透が交流の中で抱えた不安を解消する糸口は、「ぐるぐるぐる」「数億年分の深愛を」で交流した6人にもたらされる形にしています。今回は代表して、LPにて「音」の話をしていたあさひに誘導していただきました。
そこから透は「声」によって4人の輪郭を取り戻します。「目が明く藍色」の歌詞「藍色の空が青になる」ときに、「いつだって僕らは」の歌詞「希望の音」が聞こえるような。
「明々に僕らは」というタイトルですが、「いつだって僕らは」をベースに、原曲と共通する「明」の字を用いています。「明々に」は「めいめいに」と読み、はっきりしているさま、とても明るいさま、心が晴れ晴れしているさまを表します。
また、タイトル「目が明く藍色」にはギミックがあり、アルバム名「kikUUiki」で大文字になっている「U」を消すと、歌詞で出てきた「メガアカイイロ」になります。(なお、この「U」は積集合「∩」の対になる和集合「∪」の意味も兼ねているらしいです。)
本誌のタイトルは「kisEiiki」であり、「E」を「明々に僕らは」から消すと「耳に僕らは」となって、透が不安を抜け出す鍵となった「声」を聴くための「耳」を表せるようにしました。「E」は4つの「i」を妨げる「壁」でもありましたし。
こんな感じで色々考えて作ってたんですよって言いたくなりました。めちゃくちゃ蛇足で無粋だけど、やっぱり伝わってほしいので。
――君の声を聴かせてよ ずっと――
サカナクション「目が明く藍色」より
Paradise of Shiny
原曲「Paradise of Sunny」
「kikUUiki」は12曲といいましたが、あれは半分ウソです。初回限定盤には13曲目としてこの曲が入っています。ですので、SSF05での頒布時にはポストカードを一緒に渡しています。これはpixivなどネット上にあげることはありません。持ってる人、レアですよそれ。
イラストの中身は表紙絵をアレンジしたものになります。本を読んだ後に見たらアレンジの意図も分かってもらえるんじゃないかと思います。
おわりに
こうやって今になって描いた本を振り返ってみると、色々考えて頑張ってたんだなと思います。そりゃめちゃくちゃ俺の好きな本が出来上がるわけだよ。「kikUUiki」と透、ノクチル、シャニマスが混ざった結果として良いものを作れたんじゃないかと思います。
実はこの本を作るきっかけはもう一つあります。それは透を中心に描かれているanishibeさんのイラストです。本当にありがとうございます。こちらanishibeさんのTwitterです。https://twitter.com/anishibe_?t=nTOomMQukxt5PKo0zoEZ8Q&s=09
おそらくこの本を読んだ人は透やノクチルが好きな人が中心でしょうから、この本をきっかけに他ユニットのアイドルを好きになったり、サカナクションを好きになってくれる人がいたらいいなと思います。逆にサカナクションが好きな人がシャニマスに興味が湧いたりしたら嬉しい限りです。っていうかみんな本当にサカナクション聴いて!!!お願い!!!!!
このような長文を読んでいただき本当にありがとうございました。皆さんもアルバム合わせ、楽曲合わせの本を作ってみませんか?
\ありがとうございました/(マイク不使用ライブ締め大声挨拶)