涙鉛筆【毎週ショートショートnote】
人間は、鉛筆だ。
これはディスイズペンソー師匠の言葉である。師匠は鉛筆教の教祖だ。
「どういう事ですか?」
「君たちは若い。つまり頭が柔らかく、生み出すものは非常に濃い」
「良い事では?」
「それは芯の柔らかさを表している。その柔らかさは時にブレる。つまり未熟という事だ」
師匠が手でくるっくる回していた鉛筆を握り直すと、私たちに先端を向けた。
「良いか? 濃さ、というものは時に線を誤魔化す。そして時に汚してしまうものだ。芯は強くあれ。それが洗練されたものを生み出す」
「どうすれば強くなれますか?」
「人間は涙の数だけ強くなれる」
ありきたりな言葉に、どこか陳腐さを感じた。しかしそれは大きな間違いであった。
様々な局面を乗り越え、そのたびに涙を流してきた私は、芯の強い人間になれたはずだ。
鉛筆を眺める。刻印された文字を見て、師匠が伝えたかった真の意味が脳裏に浮かんだ。
人間は、エッチだ。
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