サルのショートショート3【とある機長の航空日誌】

 今にも潰れそうな古本屋で、古びた一冊のノートを見つけた。
 表紙には「機長の航空日誌」と丁寧な文字で書かれている。パイロットを夢見ていた時期のある僕はワクワクしながら、そのノートを開いた。


 4月10日「始動の日」
 はじめまして、機長です。本日、初フライトであります。緊張しますね。このノートには私の飛行記録を記帳していこうと思います。それでは宜しくお願いします。

 7月16日「七色の輝き」
 こんにちは、機長です。本日は離陸前に虹を見る事が出来きました。素晴らしい、の一言。まさに吉兆。

 9月4日「九死に一生」
 こんばんは、機長です。本日は積乱雲の中を飛行しました。通常であれば積乱雲は避けるのですが、今回ばかりはどうしようもありませんでした。自身初体験です。とても貴重な体験となりました。

 11月29日「良い服」
 おはようございます、機長です。本日より制服が新しくなりました。紺色が好きな私は、この紺色を基調とした新制服がとても気に入りました。身の引き締まる思いであります。

 12月31日「逸材」
 どうも、機長です。本日が本年最後のフライトとなります。それも自身、九十九回目のフライトです。私、思わず「クック」と笑ってしまいましたよ。副機長も一緒に「クック」と笑ってくれました。彼は私の同期なのですが只者ではありません。それでは、よいお年を。

 1月4日「意思表明」
 あけましておめでとうございます、機長です。新年初フライトが自身百回目のフライトとなりました。本年もさらなる飛躍を遂げる所存であります。

 ──「機長の航空日誌」より一部抜粋。


 読み終えた僕は「これは凄いや」と、変に感心してしまった。
 毎回、日付のあとにタイトル、そして挨拶と「機長です。」という書き出しから始まり、ダジャレを組み込んできている。それに最初から最後までブレる事なく丁寧な文字でビッシリと書き込まれていた。
 この機長さんの性格は、たやすく想像出来る。実に……。

 几帳面。

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