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逆さ富士七転八倒【毎週ショートショートnote】
日本一美しい逆さ富士が拝めるという地で、僕は立ち尽くしていた。逆さ富士が見えない。
「なんで?」
「くっくっく」
背後から薄気味悪い笑い声。振り返ると仙人のような老人が立っていた。
「そう簡単に拝めるわけなかろう。自ら切り拓くのじゃ」
早朝からここまで来てそそくさと帰る選択肢はない。意地でも逆さ富士を拝んでやる。
夜が明けようとしていた。丸一日這いずり回った僕は全身傷だらけになっていた。
獣に襲われ、空腹を満たすため食した木の実で腹を壊し、方角を見失い不安に押し潰されそうになった。
「たどり着いたか。さぁ、六桁の数字を言え」
老人の声。ここまで肉体的にも精神的にものたうち回ってきた僕にまだ難題を課すのか?
「それが答えじゃ」
あぁ、そういう事か。
「七、一、〇、八、一、〇」
僕は夜明けとともに、日本一美しい逆さ富士を拝んでいた。感動は苦の先にある。ただ……。
「これ、割に合ってる?」