これはないものねだりなんかじゃない

少し前は夜が好きだった。脚本家を目指し、動画制作のサークルにも入ってた私は夜は絶好のものづくりの時間だった。人の意識が圧倒的に少なくなってる時間帯、私の感覚は研ぎ澄まされ、上手く自分の周りに自分の世界を構築する事が出来た。
今は夜が嫌いだ。気付きたくない事に気づき、考えない方がいい事を考えだす。
幼少期から「普通」に憧れていた。この普通は大人から聞いていた「青春」というものだ。
明るく挨拶すると友達が出来るらしい。
この問題は難しいからみんなで解くといいらしい。
このくらいの運動はみんな出来るらしい。
これはおそらく、この年齢では出来ないらしい。
みんなが出来る事は出来なくて、みんなが出来ない事だけが出来た。
そこには共感も共有も共通もなかった。
親は言った、「お前は結果を残さないといじめられる」
間違いなかっただろう、親には感謝している。

みんなに追いつくには一つ一つやり方を構築していくしかなかった。
やり方は簡単、まずは出来ている人を真似る。そしてそれが上手くいかなかったら、ダメな部分をわざと大幅に修正し、塩梅を調べる。あとは経験を積み、修正とパターンを手に入れれば自分用の正攻法が完成する。
友達の作り方、授業の受け方、人の話の聞き方、喋り方、走り方、縄跳びの飛び方、人に教えをこう態度、質問の仕方、共有のやり方、共通の見つけ方、共感の為の必要なもの。
「俺これ、なんか出来ちゃうんだよね」が昔から嫌いだった。なんか出来ちゃう事は少なかったし、私のなんか出来ちゃうは自慢すれば他人からは鼻につく。

就活が始まった。人生で最も嘘をついた期間だ。嘘も上手くなれた。
他人と違うと評価されるらしい。個性だという。笑わせる。個性のないお前に個性の何がわかるのか。
大人が言っていた夢を持つと良い、個性的なのが良い。確かに良いのだろう。それは大衆が作り出した理想だから。
ただそれは理想、そこに行き着く人は限りなく少ない。そして行き着く人には行きつかない道はなかったと思う。強制的にそこにいさせられたのだ。
そこはとても孤独で普通はなくて、私は求めたくなかった。

普通を目指した。普通に追いつきたかった。共感し、共有し、共通の事で人生を謳歌したかった。
普通に追いつくために普通以外の特技で追いつこうとした。
違うものを有効活用し、追いつく方法は広く一般的で良しとさせている方法だ。
みんなの輪に入れる様になった。入れていたのかな?勘違いかも。
少なくとも友達はできた。
ただ恋愛だけは手に入らなかった。人を愛して、愛される事は全く追いつけなかった。
普通の中でも難しい分野らしく、上位層の普通が行う競技らしい。
普通が酷くダメな私にとってそれは全く届かない場所だった。

恐らくこの就活でまた一つ普通から離れる。
羨ましいらしい、羨ましいだろう。別に欲しくはなかったが。普通が過ごせるなら。

望む結果が手に入らないのは全て当人の実力不足。
これは全くあっている。
本気で普通になる覚悟がないのだ。方法はいくらでもある。後戻りは出来ない方法しか残されてはないが。
また遠く、夢もある。理想もある。叶える力もつくだろう。でも憧れるのは「普通の青春」。
雲の様に掴めない、なんとも眩く、美しく、儚い、残酷な普通色の人生。青くて、春の様な、心躍る、幸せの普遍的な形。

掴めない煙を吸い込み、吐き出して、瞬間雲の様な形になり、そして見えなくなる。

今が人生の岐路? 違う。ただ一本道を歩いているだけで、進めば進むほど、憧れはいなくなる。

誰か私を助けて欲しい。そんなに難しい事じゃない。誰もが手に入るものなんだ。そうらしいよ、

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