第6章 03 地域に新しいチャレンジを創出する
定期マーケットはプラットフォーム 前編
定期マーケットに長年関わる中で、色んな人にその意味を話す機会がありました。学生に講義をしたり、自治体やJCに呼ばれて講演をしたり。
そんな中、近畿大学教授の宮部さんが、「かとちゃんがやってるマーケットってこういうことだよね?」っていう図を作ってくれました。
それにタイトルを付けたのが「定期マーケットはプラットフォーム」です。
プラットフォームを形作る5つの要素を以下で説明したいと思います。
まず、定期マーケットにインプットされる要素が2つあります。それは「未来のお客さん」と「新しいチャレンジ」です。
この2つがインプットされることで、プラットフォームが正常に機能するという意味では定期マーケットの前提となる2つの要素です。
その1 未来のお客さん
定期マーケット10か条にも書きましたが、1割のお客さんが残りの9割を集客します。定期マーケットを検討するにあたっては、目的に加えて「誰のために?」というのが最も大切です。
マーケットがプラットフォームであるためには、「未来のお客さん」を継続的に集客することを常に意識して取り組む必要があります。そして「未来のお客さん」は集客したとしても、全体の2割以下であることも常。全体ではなく常に少数。
だけど彼らが来たいと思う店舗構成と空間、全体のイメージを創り出すことで、残りの9割が訪れているのです。
ただし、毎月開催する中で集客が出来ていないと心折れることもあります。暑いときから寒いときまで、いろんな場面を経験しているからこそ同情しますが、安易な方向に動いてしまいたい気持ちも分かります。
良くあるのが子どもたちを集客できるようにすれば、両親も祖父母も来場してくれるんじゃないか?という発想です。「未来のお客さん」を集客することにリソースの大半を割く必要がある中で、集客出来てないときに他にリソースを奪われることは、意思決定の基準を無視した行為であり、マネジメントになっていません。
歯を食いしばって、集客したいお客さんを集客していくにはどうしたらいいのか、そこを考え抜くのがマーケット運営者に求められています。それ以外にも音楽ステージや芸人等の客寄せパンダにリソースを使いたくなる気持ちもわかるのですが、「未来のお客さん」以外にリソースを割くのは、余裕が出来たときです。
上手に運営できているマーケットは「未来のお客さん」を毎月の開催の中でしっかりと捉えて、その後の広報PR等にもつなげ、結果残りの9割が来場するという仕掛けを作っています。
お客さんを拒む必要はありませんが、こちらがえこ贔屓する顧客を設定して、彼らのために実施していることを理解してもらうことが定期マーケットをプラットフォームとして機能させるためには必要になります。
その2 新しいチャレンジ
定期マーケットが地域に変化を起こす仕組みになりえると思ったのは、別にイベントやPRが好きだからというわけではなく、むしろまちづくりの取り組みとして行っているイベントやPRにかなり否定的であったからだと思います。
商店街での集客イベント、奇を衒ったPRと、今流行っていても、そのうち忘れ去られ、地域を全く変えないだろう取り組みを、しかも税金やみんなの時間、企業CSRと称して限られたリソースを一所懸命投入して行っていることに、辟易していたわけです。
なぜなら地域が衰退している本当の理由は、地域に求められている価値が変化したから。つまり、地域が提供している価値そのもの自体に、多くの人が用が無くなってしまった。元気の無い商店だらけの商店街になっているから、地域が衰退しているわけではないのです。それは表面的な現象で根本的な原因では無い。
地域を見渡すと元気の無いお店が多い。商店街を歩くと、やる気があるのか無いのかわからないお店が多い。それが原因と見立てると、今ある店舗を元気にしたら地域が元気になるという論理となり、集客イベント等で今のお店が元気になるような取り組みをしてしまう。
しかし、衰退している原因が、地域に求められている価値が変化したからなんだと見立てると、新しい顧客を創造できるような地域の新しい価値をつくりださないといけない。
けれど、新しい価値が何であるかなんて、誰にも分からない。だから、仮説を立てて実証していく必要があります。「地域の新しい価値」はなんなのか、誰が「地域の新しい顧客」になるのか。この2つの仮説を検証できる仕組みが必要になります。
その仮説を検証するのに有効なのが月1回の定期マーケットとなるわけです。
未来における地域の価値が何であるかなんて誰にも分からない。だから、いろんな新しいチャレンジが生まれる仕組みがあれば良いと思います。毎月1回開催のマーケットにはたくさんのチャレンジが生まれます。
そのチャレンジは玉石混交だけど、毎月たくさんのチャレンジが継続的に生まれることで、価値のあるチャレンジが次に繋がり、再びチャレンジが生まれる。
マーケットの出店者は、出店者同士で磨かれ、お客さんである来場者がいろんなことを出店者に教えてくれます。サルトが関わるマーケットでも、本当によく聞くのが、この「お客さんが自分を育ててくれる」というもの。実際にお客さんに自分の商品を売ってみて初めて、本当のニーズに気がつく。
何が足りなくて、何が必要ないのか。それは調査しても悩んでもダメで、実際に顧客に出会うことで気が付き、育てられるのです。
マーケットの出店料は、実際にお店を出店したり、改装したりする金額に比べたらノーリスクも同然の金額。マーケットの存在によって、各店舗の新しいチャレンジのハードルをぐんと下げることができます。
そのことで、地域に多くのチャレンジが起こる仕掛けをつくり、新陳代謝が機能する状況が出来上がります。
マーケットでの新しいチャレンジは小さなリスクですが、小さなリスクに挑戦して、成果を得て、また次のリスクに取り組むことができる。たくさんのチャレンジが連鎖的に起こることで、何か新しいことが始まるかもしれないという地域の空気感も出来上がります。
次に2つのインプットを受けて、2つの効果が現れてきます。それが「モチベーションの可視化と共有」と「市場の見える化と場のメディア化」です。
その3 モチベーションの可視化と共有
元気の無い、衰退傾向にあるエリアの中で商売人が直面する現実があります。それは、自分自身の努力が本当に報われるのだろうかという不安です。
なぜなら、まちが衰退していくと、自分のお店の向こう三軒両隣、空き店舗という状況も出てきます。
周辺がどんどん空き店舗になっていく、後継者が帰ってこない、むしろ継がせたくない、店舗がロードサイドに移転する、元気の無いまちには負の連鎖が起こりまくっています。
そんな中では、自分自身が続けてきた大切だと思っている仕事の流儀も揺らいでしまいます。本当にこのままでいいんだろうかという思いと共に、モチベーションが低下していってしまうのも仕方のないことだと思います。
しかしひとたび定期マーケットに出店すると、向こう三軒両隣、すべての出店者が新しいチャレンジを繰り返しているのです。
自分のお店の周辺では見ることが出来なかった状況です。かつそれは、単なる年1回の話ではなく、日常のごとく毎月毎月目の当たりにする光景になるわけです。しかも出店者は多様です。
年代もバラバラ、お店の経歴もバラバラ、なんならまだお店の無い人もいる。けれど出店者の多くは月1回の定期マーケットに向けて毎回新しいチャレンジを仕掛けてくる。
そして出店者はそんなに入れ替わらないので、同じ出店者がどんどん進化していく姿も見ることができます。
やっぱり商売人であればこそ、ほとんど同じ大きさのブースで毎月出店していて、他の店舗と同じお客さんが自分のブースにも来ているのであれば、誰よりも売上を上げたいのが性だと思います。
そして集客しているお客さんは地域の方がメイン。もちろんですが、定期マーケットで認知されると、その後すぐに実店舗にも効果が現れます。
以前にも書きましたが、近くの喫茶店に入れないのに遠くのスタバに入れる症候群であるまちの人は、店舗は知っていても入れない、入ってもどうかわからないと、入店ハードルが高いだけなので、そのハードルを下げることができれば、自然とお店に流れていきます。
緊張してお店に入るけど、その後店主とは、先日のマーケットで購入して、美味しかったんです!という会話がしやすくなる。店主も嬉しい。
そのことは、商売人が自分自身が取り組んできた努力への自信へとつながり、守るべき技や味、流儀がまちに担保されることで、地域の魅力(第4章「多様性を担保し生み出す」で書いた「まちの奥行き」)を育てていくことにつながるわけです。
出店者のモチベーションが可視化・共有されることで、商売への自信や実店舗への来店動機を回復したりと、様々な効果が現れ、地域商業の新陳代謝が加速することにつながることも、定期マーケットが持つ仕掛けの大きな意義だと考えています。
その4 市場の見える化
次に「市場の見える化」について話をしたいと思います。
当初定期マーケットをすることで想定していたのは、実際に店舗をオープンする前段階をローリスクで試行錯誤できる場所としての活用でした。実店舗オープン前のステップアップをしてもらえたらという思いです。
もちろん、そのようにしてマーケットを活用してくれる出店者さんも数多くいるのですが、実際には、この「市場の見える化」があってこそ、リスクを背負って実店舗をオープンしてくれることになることがわかりました。
というのも、すでにまちの価値が失われてしまっていて、用のない場所に成り下がってしまったエリアにおいては、当たり前だけど、地域に実店舗を出すことのリスクはとっても高いと感じてしまうのが起業家側の気持ち。
いくらマーケットで売上が上がっていても、元気がなくて衰退しつつあるエリアで、実際に店舗を経営するとなると、また違ったリスクや不安があります。普段、ほとんど誰もまちを歩いていないのに、当たり前だけど、店舗を出しても成立しないんじゃないかと思うわけです。
ではなぜリスクが高いと感じるのか。それは「地域の期待値」が低いからなのですが、この期待値というのが重要です。
もし空き店舗が多くても、既存店舗の売上が芳しく無くても、まちがハード的に劣化していても、期待値が高いと心理的なリスクは下がり、投資が生まれます。
そこで、「地域の期待値」という視点から元気の無い地域の状況を考えてみます。元気が無い地域というのは、役割を終え、まちの価値が失われてしまったからですが、その状況に陥ると、「地域の期待値」がとても低くなってしまいます。
ではそもそも、期待値が高い状況というのはどんな状況なのでしょうか
昔の「地域は期待値」が高かったと思います。地域には魅力的なものがたくさんあって、しかも新しい動きもたくさん出てくる。そして、人口が増加傾向にあり、もっともっとたくさんのお客さんが来てくれる、もっともっと儲かるという感覚です。これが、期待値が高い状態。
一昔前の都市計画・まちづくりで都市空間整備、つまりハード整備ばかりしていたのは、地域の中心は魅力的で、その魅力がもっと増していくような期待感(新しいお客さんがもっと来るという感覚)があったからこそ、ハード整備をすれば良かったわけです。
新たなハードを作って、エリアをキレイにさえすれば、お客さんがやってきた時代。これは結構簡単で、お金さえあればできます。日本全国アーケードができ、道路が美装化され、駅前がキレイになりました。
地域のコンテンツは充実していて、新しい市場は増えていく。人口増加時代は、商品を置けば売れる時代で、重要な2つのこと、「地域のコンテンツ」と「新しい市場」を考えなくてよかったからこそ、単純にエリアをキレイにする・飾るハード整備で良かった。
おそらく年1回の打ち上げ花火のようなイベントも、都市空間にハレの場をつくる意味でほとんどハード整備の延長線上。
だから、年1回のイベントで、何万人集まりました!とか言って、それが大きな税金を使うような社会実験と名前を変えたって、貴重なリソースを消耗している地域がまだまだ多い。似非成功体験から抜け出せない。
この右上がりの時代と同じように、ハード整備でエリアをキレイにしても、地域は元気になりませんし、打ち上げ花火でまちは変わりません。
なぜならば、地域の中心に本来あるべき魅力的なコンテンツは劣化・減少していて、新しい市場の創造は人口減少時代では困難だからです。
地域はもう多くの人にとって価値が無くなってしまったのだから、ハードがキレイになったからといって行く理由にはなりません。なんでも新しい方がいい時代っていうのも終わったし、そもそもキレイなハードを有難がらない時代になった。エイジングに価値がある時代だと思います。
このような状況において、地域を元気にするために一番重要なのは、地域の魅力的なコンテンツを守り、足りない部分は新規に追加しつつ、新たな価値を創造することですが、それをするのは相当の労力を要します。
つまり地域の期待値が低いと、投資をするのは大きなリスクなのです。
地域にとって一番重要なのは魅力的なコンテンツが増えていくことです。魅力的なコンテンツが出てくるためには、「地域の期待値」が上がって、心理的な投資リスクが下がる状況が必要です。
つまり、新しいお客さんが来てくれる可能性を示す必要がある。
でもこの縮退時代に、いきなりお客さんをまちで増やすことは相当困難です。そこで、月1回の定期マーケットを行い、これまでこのエリアに来ていなかった層(未来のお客さん)を集客できることを証明していくわけです。
年1回ではなく、毎月1回、ある一定層がリピート率高く訪れてくれる状況。これこそが「市場の見える化」です。このエリアには、自分の商売の未来のお客さんになってくれる層がまだまだいるんだということを仮想的に見せる。
ではエリアに来て欲しい層をどうやって決めるのか。それが未来のお客さんであるとどうして分かるのか。
つまり、誰が「地域の新しい顧客」になるのか。この、「誰が」を決める時に重要なのは、地域にあるコンテンツ(要素)を見渡して、誰がこの地域にあるコンテンツを好きになってくれるのかを考えること。
そのためには地域に存在するコンテンツのポテンシャルに気づかないといけない。今ある地域の要素を未来に変換できる能力が求められます。
地域の未来は、「新しい顧客」を創造でき、かつ、「地域のコンテンツ」と親和性の高いものから生まれることが最も良い。
親和性が無いものを持ってきたら、それは別の地域でもできる。駅前再開発をして、どこも似たような店舗が入ると、結局墓標になり衰退が加速する可能性が非常に高まる。
地域が持っている潜在的な魅力に気がついて、地域の未来に共感し、この地域を好きになってくれる人。自らどんどん地域の良いところを探しだして、自分の言葉で多くの人にその魅力を伝えてくれる、「未来のお客さん」。
この層をまず決めてからマーケットを行い、検証します。
こちらが想定した層が、毎月1回しっかり来てくれるかどうか。そして、もしその層が来てくれているのであれば、それによって9割が続き、それが集客となり「市場の見える化」になります。
たくさんの人がただ集まっている、客寄せパンダにつられて来ている何万人では意味が無い。
枚方宿くらわんか五六市。枚方宿では開催から5年程度で約30店舗の実店舗が増えました。このうち五六市に出店していたのは約3割程度です。あとの7割は、マーケットには出店していなくて、実はこの「市場の見える化」によって、この地域で商売できそうだなと思ったわけです。
マーケットを毎月開催することで、これまで来ていなかった層が地域に毎月訪れる。しかもその層は、未来のお客さんになってくれそうと感じることができる。「市場の見える化」が繰り返されることで「地域の期待値」が上がっていき、出店したいなと思うようになる。
「地域の期待値」が上がると、自らリスクをとるのではなく、他の多くの人たちがその新しい動きに気がついて、リスクテイカーが現れる。
自分がとれるリスクの何倍、何十倍、何百倍もの威力になる。だから地域が変化する。このリスクテイカーは何も外からだけではなく、内からも出てくる。
既存店舗でも、いままで渋っていた投資が行われる。例えば「未来のお客さん」に合わせて自分の店舗を改装する。改装することによる投資リスクが、「市場の見える化」が繰り返されることで心理的に下がっていく。
未来のお客さんをつかめるんじゃないかと思うから投資する。
地域は、ハード的に整備してキレイになったわけでも、定住促進とかいって人口が増えたわけでもない。地域の見た目は全く変わらないのに「地域の期待値」が上がると投資が起こる。
その状況をつくるために、毎月1回の定期マーケットがその威力を発揮するわけです。
次回はプラットフォームたる所以の最後、5つ目の「起業家の継続的な発掘」についてお話したいと思います。
この本全体の目次
第1章 21世紀の都市計画家
・自己紹介
・枚方宿くらわんか五六市
・ダーコラボラトリLLP
・株式会社ご近所
・一般社団法人リイド
・株式会社サルッガラボ
・ビーローカルパートナーズ
・STAY local
・株式会社THE MARKET
・ポップベイパートナーズ
第2章 まちづくりとは
・そもそも、まちづくりって?
・まちづくりの誤解
・対処療法は熱しやすく冷めやすい
・まちが衰退する原因
・変遷するまちの役割
・まちには兆しがある
・未来は今ある真実から生まれる
・オススメの作法
・まちづくりとは何か
第3章 これまでとこれから
・未曾有の人口縮退
・みんなという幻想が成立した時代
・個性、能力、才能を活かす時代へ
・人口が減る時代を楽しく生きる法則
第4章 都市計画とは
・都市計画は時代に合わせた処方箋
・21世紀の都市の在り方
・都市の多様性
・しなやかで反脆い都市へ
・多様性を担保し生み出す
・都市経営課題とリソースの問題
・都市計画の主導権は民間へ
・限られたリソースを最大限活かす
・時と共に最適化する仕組み「アジャイル開発」
・人にフォーカス 未来のお客さんを想定する
第5章 少数派がまちを変える
・まちが衰退する原因の裏側で
・身銭を切ってまちを面白がる少数派
・少数派から多数派へ
・「絞って愛情深く」でファンを増やす
・ファンがファンを増やす時代
・ゴールはみんなのために
第6章 地域に新しいチャレンジを創出する
・答えのない時代に答えを出すには
・まちの期待値を高める定期マーケット
・まちの新陳代謝昨日を活性化させる
・定期マーケット10か条
・定期マーケットはプラットフォーム
・【コラム:衰退プロセスと根源治療】
第7章 ご近所を素敵に変えよう
・ご近所のイメージ
・天王寺まで自転車で10分
・バイローカルとは?
・良き商いを守り育てる
・「どっぷり昭和町」
・バイローカルの日
・365日バイローカルマップ
・期待されるまち、選ばれるまちへ
・THE MARKETのおいしい革命
・ご近所の変化、現在進行形のTHE MARKET
第8章 新しい都市計画(序論)
・日常の自己肯定感の低い日本
・大阪の人は京都が嫌い、京都の人は大阪が嫌い
・試行錯誤する上での羅針盤
・建てないことが正義へ
・複合・混合・多様へ
・自分・少数派へ
・行動しながら変化へ
・しなやか・反脆さへ
・小さい(身銭を切る)へ
・内を意識へ
・目に見えないものへ
・未来ありき(playful Driven)へ
・新しい都市計画