この゙ゲイ狩り”を世界は止められるか―『チェチェンへようこそ ─ゲイの粛清─』スタッフブログ
スタッフブログ
チェチェン共和国というとソ連崩壊後、ロシア連邦への編入を拒否するチェチェン人とロシア中央政府との激しい紛争に発展し、イスラム系の過激派によるテロ活動の活発化、2度に渡る紛争、首都グロズヌイのロシアによる占領を経て、現在のカディロフ政権はプーチン大統領の強力な後押しのもと、国内を専制的に統治している状況にある。
世界でも有数な専制統治を行うカディロフの悪名はこの映画の前から広く知れ渡っているところですが、最早狂信的とさえ思える国内の純化政策を推し進め、ゲイに対する弾圧を2017年ごろから始めた、とされています。
弾圧の手法は、警察がゲイを拘束し、拷問の末仲間の名前を聞き出す。家族にはゲイの殺害を含めた社会的な抹殺を促す。これを繰り返すことで連鎖的にゲイを国内から消滅させよう、という恐るべきもの。
現首長のラムザン・カディロフはインタビューのなかでこうした弾圧を否定し、「チェチェンにゲイは存在しない」と言い放つ。
カディロフの絵に描いたような前近代的専制が可能となった原因は、ひとえに連邦大統領ウラジーミル・プーチンの強力な後押しによる盤石な体制づくりにあります。
カディロフはプーチンに忠誠を誓い、その代わりにカディロフ個人に国内のほぼ全権を集中させることで、一筋縄では統治困難なチェチェンを支配下に置いてきた。
ウクライナへの侵攻で、プーチンのロシアが法治国家にあるまじき国内支配を行っていることが改めてクローズアップされていますが、チェチェンやオセチア、クリミア半島の例を出すまでもなく、プーチン的手法の実態は既にいくつもの事例で充分に明らかとなっている、といえます。
チェチェンにおけるゲイをはじめとするLGBTへの迫害は、ナショナリズムの過剰な称揚により、性的マイノリティを社会から消し去ろうというジェノサイドに他ならない。
この映画で登場するゲイやレズビアンの人たちは顔を知られないようにデジタル技術で顔を別人のように加工されており、声も変更することで国家や親族からの追及を不能にしている、とのこと。
またそうした人々をロシア国外に逃がそうとする活動家の人たちの自らの危険を顧みない行動には驚きを禁じ得ません。
ある意味で当然といえますが、ロシアの人々の中にもこうした活動に身を捧げる人も居るのだ、ということがこの衝撃的なドキュメンタリーの中で僅かばかりの希望ともなっています。
ちなみにロシア国内でこの問題を初めて報じたのは昨年編集長のドミトリー・ムラトフがノーベル平和賞を受賞した「ノーヴァヤ・ガゼータ」とのこと。
この件を報じたジャーナリストは身を隠したとのことなので、やはりこうした問題に関わることのリスクは想像を超えるものがあるのだろうと思います。
この映画がサンダンス映画祭で公開されたのが2020年1月、それから2年が経ち、チェチェンにおけるLGBTへの迫害の状況がどうなっているのか?続報は探してもなかなか見当たらないのですが、ウクライナ侵攻により西側との航空路の多くが遮断され、ロシア人の国外出国手段が限られたり、西側への出国そのものが難しくなっている状況下で、それまでのように保護されたLGBT関係者の国外退避が難しくなっているのではないか?との懸念が拭えません。
本作で扱われているテーマはチェチェン一国のみの問題ではなく、ロシアという国が抱える暗部を象徴する出来事なのだと、認識を新たにするのでした。
映画『チェチェンへようこそ -ゲイの粛清-』上映時間
2022/4/1(金)~4/14(木)まで上映
4/1(金)~4/7(木)まで
①12:05~13:55
4/8(金)~4/14(木)まで
時間未定 決まり次第公式HPにて掲載