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ウォン・カーウァイ監督幻の傑作『若き仕立屋の恋』

2022年は「ウォン・カーウァイ4K」5作品(『恋する惑星』『天使の涙』『ブエノスアイレス』『花様年華』『2046』)と、『欲望の翼』で改めてウォン・カーウァイ監督作品の熱狂を目の当たりにしたわけですが、ここで短編『若き仕立屋の恋』の特別上映が決定!
しかも2005年公開時の44分に未公開シーンを12分加えたロングバージョン特別編です。
『若き仕立屋の恋』は2005年公開のオムニバス映画『愛の神、エロス』の3篇の短編の内のひとつで、ウォン・カーウァイ監督『若き仕立屋の恋』(〈エロスの純愛〉)、 スティーヴン・ソダーバーグ監督〈エロスの悪戯〉、ミケランジェロ・アントニオーニ監督〈エロスの誘惑〉で構成されていました。
なんとも豪華な顔ぶれ。
共通テーマは「エロス」、メインテーマ曲はカエターノ・ヴェローソの「ミケランジェロ・アントニオーニ」でした。(カエターノ・ヴェローソといえば『ブエノスアイレス』冒頭シーンの「ククルクク・パロマ」ですね!)

『若き仕立屋の恋』あらすじ
1960年代、香港。仕立屋見習いの若者チャンは美しい高級娼婦のホアと出会い魅了される。チャンは彼女のため何年間も服を作り続けるが……。

配給会社資料より

コン・リーが極上、チャン・チェンが至高、ウォン・カーウァイが変態で最高

これはコン・リーの映画といっても過言ではない。

高級娼婦のホアは美しく魅力的であることを自覚していてプライドが高い、しかしどこか焦っていて脆さのある女。
コン・リーは美しいだけではなく生々しさを表現できる女優だと思っていますが、本作ではにじみ出る色気が本当に魅力的です。
そのコン・リーの美しさをさらに引き立たせる旗袍(チャイナドレス)!
『花様年華』『2046』でも登場した美しい旗袍。今回は娼婦が纏う、自分を着飾るためだけのものとして登場します。
シースルー素材に刺繍、スパンコールをあしらった、シックだけれども華と品のあるデザインの数々。
これをコン・リーが身に纏う極上を是非スクリーンでご堪能いただきたい!
やがて堕ちていく悲哀もまた美しさを引き出してしまう、業の様なものを感じました。

ヨーロッパの至宝がモニカ・ベルッチならアジアはコン・リーで間違いないです。

コン・リーを相手に会心の演技をみせるチャン・チェン!

この映画でコン・リーと共演したことにより、俳優としての心構えへの影響を受けた、と後にインタビューで語っています。
ホアの中で次第にチャンの存在が希望で支えになっていく様を、説得力のある至高のビジュアルで演出。ポマードで整えられた髪型とクラシカルなスーツで、少年から大人への成長と、深くなっていく愛情を読み取ることができます。
極端にセリフの少ないチャンという役で、目線、息遣い、表情、佇まい、動きの一つ一つがホアへの純粋で一途な恋心を表現しており、この役を通じてチャン・チェンが俳優として一皮むけたような気がしました。
特に最後のシーン、まるで夢から醒めたような一瞬の表情に凄みを感じます。
『2046』の出演シーンが少なすぎて不満に感じていたところ、『若き仕立屋の恋』のおかげで相殺どころかプラスに上方修正!

チャン・チェン『2046』では嫉妬に駆られ恋人を刺殺、『グランドマスター』では一度優しくしてもらっただけで一方的に恋心を抱くなど、一途で愛が重過ぎる為、様子のおかしい男を演じがち。早く幸せになって欲しい。

60年代3部作(『欲望の翼』『花様年華』『2046』)を濃縮して煮詰めたようなウォン・カーウァイ最高濃度作品!

『若き仕立屋の恋』は短編のためか、これまでの作品のような含みがあったり時系列や場面があやふやなシーンが少なく、ストーリーもシンプルで比較的わかりやすい作品なのではないかと思います。
それゆえウォン・カーウァイらしさがダイレクトに、高濃度で作品全体に充満していますので、見ごたえと満足感は長編以上かもしれません。
ロングバージョン特別編として追加されたシーンは思わず引いてしまうくらい最高でした。食べ物こんな風に使う?
ホアが他の男のために着るチャイナドレスを、ホアのために精魂込めて仕立てるチャン。残酷なようで高揚感をも観客に感じさせる撮り方は流石。
ヌードシーンや直接的な官能描写がなく、触れたいという欲がギリギリのところで抑えられている、これがウォン・カーウァイにとっての「エロス」なのだと思いました。
ウォン・カーウァイ監督また短編撮って欲しい。

今回も土砂降りシーンは健在。
香港てそんなに大雨の日が多いのか気になって調べたら、6/20~6/29の10日間毎日雷雨でした…。

『2046』との関係について考察

コン・リーが『2046』で演じるスー・リーチェンは常に手袋を着けていて、その理由は謎のまま。どうやら彼女の過去と関係があるらしい、との描写があります。
『若き仕立屋の恋』の原題は「The Hand」で、物語も手が重要なポイントになっています。
2作品に共通する「手」。スー・リーチェンの過去は『若き仕立屋の恋』ホアかもしれない…などと考えてしまいます。どこかで分岐したマルチバース的な。
こんな、そうかもしれないしそうじゃないかもしれない、とあれこれ場面を拾っては色々と考えさせてくれる懐の深さが、ウォン・カーウァイ作品の魅力のひとつだと思います。

マルチバースって便利な言葉かも!?

DVDが廃盤になり、長らく観ることの難しかった幻の傑作を是非劇場でご覧ください!
(なお、先日発売された『2046』4Kレストア版のBlu-rayに特典として入ってます。)
昨年の「WKW4K」で改めてウォン・カーウァイに魅了された方、初めて作品を観た方も必見です。
ご来場お待ちしてます!!

『若き仕立屋の恋 Long version』
6/23~6/29 ①12:25~13:25 《1週間限定上映》

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