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『香川1区』問われたのは一人ひとりの民主主義【スタッフブログ】

映画『香川1区』

『香川1区』スタッフブログ

『なぜ君は総理大臣になれないのか』の大島新監督による2021年10月の第49回衆議院議員選挙の香川1区での小川淳也をはじめとする候補者の選挙戦を巡るドキュメンタリー。


映画の冒頭、小川は50歳の誕生日に際し、これまで「50歳を過ぎたら引退する」と公言してきたことに対する見解を配信するかどうかで悩む様子を映し出す。

精力的に活動してきた政治家であればあるほど“50歳で引退する”ということが現実には難しいと考えるのが世間一般の認識かと思いますが、そうしたことを公言し、またその年齢に達したときに素通りを潔しとしない姿勢がいかにも小川淳也らしいところ。

そうこうするうちに衆議院は任期満了が近づき選挙戦がスタートする。

大島監督は今回小川陣営だけでなく、平井陣営でも取材を敢行、平井卓也その人にもインタビュー。

平井卓也は『なぜ君は総理大臣になれないのか』は観ていないとしながらも、映画の趣旨に対して理解を示し、政治に関心を持ってもらうことは良いことだと発言。

東京五輪・パラリンピックの健康管理ソフト“オリパラアプリ”の発注に絡み、NECを標的とした“脅し発言”がリークされたこともあり、大島監督はこの点について平井卓也の見解を質しますが、「役所内での発注業務の姿勢を問題にしたもので当事者向けの発言ではない」「既得権益との闘いの中で出た発言である」との釈明。

とはいえ、「NECには死んでも発注しない」「象徴的に干すところをつくらないとなめられる」「脅しておいた方がいい」などといった上意下達の姿勢が露わな発言内容からしても、失言の釈明としてはいかにも苦しい。

先の選挙での平井卓也の苦戦は、映画での小川人気に加えて、いわばオウンゴールによる自滅の結果が招いたものであるのは明白でしょう。

ただ、この映画の面白いところ、というか、最大の関心どころは、結果の見えている選挙の行方にあるのではなく、どこの選挙区にもある、強固な地盤を有する与党の世襲議員に野党議員が挑むことの困難さを抉り出す、定点観測的なドキュメントとしての価値にあります。

小川は選挙運動の準備期間がいつもより長いことを利用して、平井支持者のところにも足を延ばす。

支持者の発言の中に、事業を行う者として自民党支持であることが必然的に求められていることを窺わせることなど、候補者の資質以前に与党議員であるというだけで票が集まる事情がクローズアップされていきます。

小川陣営としては、それまでのように愚直に目指すところをアピールするよりほかない。

野党が多数に分裂し、巨大与党と小選挙区で争う、という野党に決定的に不利な選挙システムの中ではそれ自体が野党議員にとってハンディであることは明白といえます。

こうした中にあって、公示直前に日本維新の会より町川順子が香川1区から立候補することが明らかになる。

突然の“第三極”の出現は小川に大きな動揺をもたらす。

当事者でなければ量りかねる選挙のプレッシャー、なんとしても選挙区で勝たなければならないと自身を追い込む小川の切羽詰まった事情からくるその様子は、ある意味で人間小川淳也の等身大の姿をありのまま映し出します。

この小川の“直談判”騒動を巡る動きと普段の小川らしくない様子は前半の大きな見どころのひとつ。

一方で選挙が進むにつれ、平井陣営に微妙な変化が訪れます。

街頭演説で平井卓也は『なぜ君は総理大臣になれないのか』を「フェアではない、一方的なPR映画」と断じ、あからさまな敵意を剥き出しにする姿勢に転換。

映画は更に平井陣営のなりふり構わずな、グレーゾーンと思える選挙活動の実態を明らかにしていきます。

巨大与党が企業の協力を得ながら自党に有利な集票システムを構築するという選挙の本来あるべき姿を歪めている実態は小川一人ではなく、強力な地盤を有する与党議員に対抗する野党議員の多くが直面する困難さといえるでしょう。


そのうえで小川淳也が悲願ともいえる選挙区での勝利を手にしたという事実は、敵失という思いがけない追い風があったにしろ、映画によって知名度が上がり、小川淳也その人の主張や人格に対する有権者の評価が平井卓也を上回ったという明確な結果に他ならない。

そういう意味で、個人がその主張の浸透や知名度を上げるための努力をしなければならない他の野党政治家よりも際立って恵まれていたことは確かですが、そもそもの話、その人が投票するに値するだけの評価を得られていなければ、投票結果に結びつけることはできないのです。

有権者が政治に関心を持ち、候補者を正当に評価する機会が与えられれば、結果は自ずとついてくる、ということなのだと思います。

香川1区に象徴される出来事は、この選挙区のみに特異な出来事というわけではなく、他の選挙区でも一般化されうる、という点において、選挙制度や個人の投票行動、政治改革や政権交代といった問題を考えるうえで非常に重要なポイントを示唆している、と思います。

やはり、根本的に重要なことは、有権者が棄権することなく投票に行き、組織や縁故によってでなく、個人の自由意志で候補者を選択する、そうすることによって、民主主義が形骸化することなく、有効な政治システムとして機能するのだ、ということだと考えます。(ラウペ)

『香川一区』静岡シネ・ギャラリー上映時間

2022/2/4(金)~2/17(木)まで上映

2/4(金)~2/10(木)まで
①9:50~12:30
②12:20~15:00

2/11(金)~2/17(木)まで
①9:50~12:30
②12:40~15:20

【特別料金設定】
当日一般1,900円 その他は通常料金