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真実に光をあてるためにどれだけのものを失う覚悟があるのか―『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』【スタッフブログ】

『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』スタッフブログ

オハイオ州の企業防衛の専門弁護士ロブ・ビロットは化学企業の弁護を担当していたが、1998年、故郷のウェストバージニア州の農家ウィルバー・テナントから、汚染物質で牛が次々に死んでいく原因はデュポン社の廃棄物にあるとして調査を依頼される。デュポンの内部資料と米国環境保護庁の調査結果の開示資料を検討したロブは、デュポンが隠蔽している驚くべき事実に行き当たる・・・

専門弁護士としてデュポンの重役ともつながりのあったロブはそのコネを使い、テナントの調査依頼にあまり深い考えもなく応じたように見えますが、デュポンの疑惑が濃くなっていくに従って次第に本気モードに入っていきます。

その過程でロブの入手した資料の中に出てくるPFOAこそが本作の重要なカギ。

劇中でも明らかにされていますが、PFOAはテフロンのフライパンなどで使用されるフッ素化合物の一種(ペルフルオロオクタン酸 Per Fluoro Octanoic Acid)で、昨年沖縄県の意向を無視して米軍基地から放出された界面活性剤PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸 Per Fluoro Octane Sulfonic Acid)と類似の化学物質です。

今でこそ飲料水のPFOA/PFOSの含有については問題となっていますが、フッ素化合物の健康被害は、発がん性や催奇形性など多岐に亘っており、水に溶けず、自然界や生体内での分解が殆どないために、蓄積されると危険性が増すこと、極微量であっても危険性のある危険物質である、とされています。

沖縄にとって、この問題は“今そこにある危機”といえます。

物語は20年以上にも亘るロブ・ビロットの告発の模様を描いていきますが、有害物質の指定がされていない法律の抜け穴を使い、デュポンがその毒性を知りながら隠蔽してきたこと、大企業の法廷戦術として意図的に訴訟を煩雑化させるなどの遅延工作、和解による責任追及の回避、行政や化学者の囲い込みといった利益最優先のなりふり構わずの企業体質を浮き彫りにしていくのでした。


予想より遙かに長い期間を描写しているので、出来事の間どうなっていたのか?といったことを観る者は脳内で行間を埋めていく作業が必要になるのですが、製作者の描きたいテーマがしっかりしているためもあって、最後まで高いテンションで観続けることができます。

なによりフッ素化合物の有害性が明らかになるまで想像を超える期間を要し、その間非常に多くの人々に、中には人命に関わるほどの健康被害を及ぼした事案として戦慄を覚えるのです。

ロブ・ビロットの告発がなければこの事実は今なお隠蔽されていたかもしれない。

また、今後も有害物質の指定を受けていない内分泌攪乱化学物質などの化学物質が環境に放出され未知の健康被害の元となっている可能性はきっとあり、その有害性は何らかの健康被害が出て初めて認知されることを考えれば、ここで描かれるテーマは決して過去のものとはいえない恐ろしさがあります。

またその情報を秘匿し、黙殺する企業体質が温存されているならば、こうした事例は繰り返されることになるでしょう。

この映画ではストイックに、抑制された描き方に終始しており、この問題を等身大の、今の時代と地続きなリアルとして描いていることが、むしろ現実味を帯びて感じられるのでした。

『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』上映情報

2022/1/14(金)~1/20(木)まで
①10:00~12:10
②14:30~16:40

(C) 2021 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.