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ティルダ・スウィントンがひとり芝居で魅せる30分!『ヒューマン・ボイス』

入り口にスーツケースが置かれた部屋で女が一人、恋人の帰りを待つ。いつまでたっても戻らない恋人を待つうち、女は絶望に打ちひしがれ、理性が崩壊していく・・・

ジャン・コクトーの戯曲『人間の声』をもとにペドロ・アルモドバルが翻案。
プーランクのモノオペラ『人間の声』の初演はコクトーが演出と舞台美術を担当したとのこと。
30分と非常にコンパクトな小品ですが、細部まで練り上げられた美術とファッション、彩度の高い映像の美しさはアルモドバル的世界が最高濃度に濃縮された珠玉の逸品。

恋人に棄てられたことをどうしても理解したくない女の憔悴をティルダ・スウィントンの一人芝居で見せる。
ただ待つことしかできないもどかしさ、僅かな期待と絶望が交錯する内面の狂乱をさまざまなバリエ―ションで見せるテンションの高さは圧倒的で、美しい映像と相まって一瞬たりとも弛緩することがありません。

(C)El Deseo D.A.

冒頭のホームセンター(ただのホームセンターがなぜかくも美しく、色彩に満ちているのか!このへんからしていかにもアルモドバルらしいところ)に斧を買いに行く場面以外は基本的に女の部屋の場面ですが、元が戯曲ということもあるためか、女の部屋はセットとして作られていて、セットの外のスタジオまでもそのまま見せるつくり。
女のモノローグと相手の声の聞こえない携帯での会話だけで描かれる女の内面世界の描写は『トゥルーマンショー』や『惑星ソラリス』のような、ごく限定された世界の具象化であり、このスタジオだけが女の世界のすべてである、ということを表しているようでもある。

女は恋人との会話の中で抑えきれなくなった怒りを爆発させ、突飛な行動に出る。
それをきっかけに、女の中で何かそれまでに感じなかったある感情が沸き起こるのですが・・・そこから先は観てのお楽しみ。
この僅かな時間の中での大きな転換の妙味が原作の戯曲由来なのか、それとも監督の翻案なのか分かりませんが(少なくともプーランクのオペラとはちょっと違うエンディング)、その鮮やかな締めくくりを見届けて、改めてこの濃縮された30分の素晴らしさを実感するのでした。

『ヒューマン・ボイス』
11/4~11/10連日①13:00 ②18:25
11/11以降上映時間未定