マジックアワー
ちっちゃんという幼馴染がいる。
小学一年生から高校卒業までずっと同じ学校で、
何度か同じクラスになったこともあるけれど、教室ではほとんど話したことがない。
性格だって、服装だって、学校で行動を共にする友達のタイプだって、私たちはまるで似ていなかった。
それでも、おそらく人生で一番長い時間を過ごした友達はちっちゃんだ。
お互い両親が共働きで、土日も働いていたため、よく私の家で休日を過ごした。
朝来て、夜帰ることもあったし、そのまま泊まっていくこともあった。
ちょうど小学校高学年の頃、ちっちゃんのお父さんが亡くなって、
その後もたくさん辛いことが続いてしまった。
ちっちゃんは学校ではいつも笑顔で、優しくて、穏やかで、皆から好かれていた。
でも、どう考えたって子供に抱えきれる量の辛さではなかったはずだ。
私たちの苦しさは全く違うものだったけれど、お互いに一度だって比べなかったし、
「ここではないどこかに行きたい」という感覚を誰よりも共有していた。
朝までいろんな話をした。
クラスメイトがどうだとか、先生がどうだとか。
二人ともラルクアンシエルが好きだったから、いつか二人でバンド組んだりしてさ!なんて笑うこともあった。
ちょうど私の肘の骨がポキッとなったから、バンド名は「POKI」だね、なんて言って。
夜が更けるにつれ、お互いの心の内を打ち明け合って、励まし合うでもなく二人で泣くこともあった。
そうしていると暗かった窓の外がうっすら明るくなってくる。
私の部屋の窓から見えるのは、やっぱり山だ。
窓を開けて、山の向こうの空が色づくのを眺める。
空が完全に明るくなる直前、一瞬だけ紫に染まる瞬間がある。
私たちは何十回も一緒にその紫を見た。
その瞬間を好きだとか言いあったことはないけれど、お互いにとって間違いなく特別な時間だった。
大人になって知ったのだが、朝焼け直前の空が紫に染まる瞬間を「マジックアワー」と呼ぶそうだ。
ちっちゃんと私は別の大学に進学し、少しずつ会う時間が減っていった。
就職して、もうほとんど会えなくなった。
そうしている間に、ちっちゃんが結婚した。
誰一人知り合いがいない結婚式で、友人代表のスピーチをさせてもらった。
結婚式のエンドロール、参列した友人たちへのメッセージが流れる。
どれもキラキラ輝いていて、ちっちゃんが大好きな人たちに囲まれて過ごした日々に想いを馳せては幸せな気持ちになった。
私にはどんなメッセージをくれるんだろう。
ワクワクしていると、友人へのメッセージの最後、満面の笑みで肩を組む二人の写真が映し出される。
写真の隣に、「これからもよろしく」と、たった一言。
ブフッと鼻から変な音がして、涙も鼻水も止まらなくなって、
その日初めて会ったちっちゃんの友人たちに背中をさすってもらった。
ちっちゃんは今では二児の母だ。
伝説のバンド「POKI」が実現することはないし、もう一緒に紫の空を見ることもないだろう。
それでも、これからもよろしく。