
めっちゃピンチ【ミリの妄想日報】

仕事が忙しい。
やることが多い上に、リングの向こうにいるヘビー級チャンピオン的な大企業を相手に、週に何度も打ち合わせで説明しなければならない。説明と質問の応酬、沈黙の圧力、そのたびに前頭葉がじんわり溶けていく。
その夜、同居人と半ば投げやりに足を転がすように近所を歩いていた。激務でふらつく思考を散らすように空を見上げると、街灯に照らされたアパートの2階のベランダが目に入る。
そこにはピンチハンガーが2つ、何も干されていないままぶら下がっていた。
「これは…何かのメッセージに違いない」
「2つのピンチハンガー、ダブル・ピンチ・ハンガーか…」
「頭文字を取ってD・P・Hとすると…うーん、ダブル・ピンチ・ハゲ?」
…そうか、めっちゃピンチで、禿げそうってことか。
自宅にも同じようにピンチハンガーが2つあるのを思い出す。
そうだ、ピンチのときはベランダにピンチハンガーを吊るしておこう。誰かが気づいて私たちみたいに笑ってくれるかもしれない。
木川田みり(きかわだみり)
1996年生まれ。東京都在住。作家、イラストレーター、UIUX デザイナーとして活動中。ザ・チョイス年度賞優秀賞受賞。
2022年に初の個展『熱いお湯で洗濯したら縮んじゃった』を開催。近年は、触れ合った言葉から妄想を繰り広げた「妄想絵日記」を日々手にする「レシート」の裏に描き、instagram や X にて毎日更新している。
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