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円グラフに脅されて『はい』と言った【ミリの妄想日報】
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仕事で資料を作成していた。
円グラフと棒グラフを駆使して、伝えたいメッセージに説得力を持たせる作業だ。公開されている社会調査のデータを引用し、青色のトンマナに合わせた、「はい」が大多数を占めるパックマンみたいな円グラフを作成する。
小学生の時、クラスメイトに「鈴木くん」という男の子がいた。
当時の担任の先生はとても怒りっぽく、大切な給食の時間も、黙って食べさせられたり、理不尽に怒鳴られることも多かった。今思えば20代中頃くらいのまだ若い先生だったのだけど、当時の私たちは鬼でもみたように怯えて過ごしていた。
そんな中、「鈴木くん」だけは違った。間違ったことには「違う」と主張する、映画の中のヒーローのような子だった。ある日理不尽に怒られた鈴木くんは「俺、先生と戦ってくる。」と言い残して、席を立った。しばらくして戻ってきた彼は、目を真っ赤に腫らしながらも、「あいつ、むかつく」と涙を拭い、咽び泣いていた。その横顔は、とても勇敢でかっこよかった。
大学時代に一度だけ、彼と偶然再会し、お茶をしたことがある。
彼は驚くほどまっすぐと成長していて、ぐにゃりと曲がり始めた私の背骨をパンクロックと禅の修行をミックスしたような思想で反対側から刺激した。
「『人間失格』、読んだんだ?あれはさ、あとがきまで読まないと読んだことにならないから」
と彼に言われ、急いで家に帰って本を開いたことを今でもよく覚えている。それ以来、彼と会うことはなかったけれど。
視線をパックマン円グラフに戻した。
鈴木くんは、どんなにこの鋭利な円グラフに恫喝されても、「はい」とは言わないだろう。
脅しに屈した人を一瞥し、「あいつらしょうもねえ」とか言って、堂々といいえの側で胡座をかくに違いない。
今の私は怖ず臆せず鈴木くんと対面できるだろうか。
砂糖菓子のようなまやかしの道徳的正義が私を包み込もうとする時、脳裏にあの時の鈴木くんが現れて、ほんの少し立ち止まらせてくれるのだ。
木川田みり(きかわだみり)
1996年生まれ。東京都在住。作家、イラストレーター、UIUX デザイナーとして活動中。ザ・チョイス年度賞優秀賞受賞。2022年に初の個展『熱いお湯で洗濯したら縮んじゃった』を開催。近年は、触れ合った言葉から妄想を繰り広げた「妄想絵日記」を日々手にする「レシート」の裏に描き、instagram や X にて毎日更新している。https://www.instagram.com/sarasaranokami
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