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美しき停滞の夜【ミリの妄想日報】


2024年12月15日(日)の妄想絵日記

高円寺の「北中夜市」というイベントに出展した。高円寺駅前の通りで月に一度、夕方から夜にかけて開催されるマーケットのような催しだ。

イベントが終わり、参加のきっかけとなった同じく出展者である書店の店主、Iさんを誘ってお疲れ様会を開いた。座敷の席にL字型で腰掛けながら談笑していると、話の流れでIさんが「それって、美しい停滞ってことですよね」と口にした。その瞬間、心の中が感嘆符で埋め尽くされた。「美しい停滞」という言葉が鮮やかな余韻を残し、私はその響きを何度も頭の中で反芻しながら家路についた。

12月の寒さの中、野外で行われた「北中夜市」。夜風がひんやりと頬を撫でるたびに、立ち止まって深呼吸をしたくなる心地よさがあった。常連も多い出展者たちが広げたブルーシートの上に並ぶ手作りの雑貨や古書は、使い込まれた温もりをまとい、時の流れを拒むように静かに佇んでいる。チャイティーを提供する屋台からは、ほんのり甘いシナモンの香りが漂い、風に溶け込むように鼻をくすぐる。それはどこか懐かしさを感じさせる香りで、周囲の喧騒もまるで絹に包まれたように柔らかく感じられた。

通り全体が時間の流れを忘れているかのようだった。今という瞬間が無限に続くような感覚。 その静かな停滞を「美しい」と形容することに、誰も恥じらいを感じない。この夜市そのものが、まさに「美しい停滞」の縮図のように思えた。

忙しさや進歩ばかりを追い求めるのではなく、立ち止まり、味わい、そこにあるものを慈しむ。それは、一見すると停滞かもしれないが、そこには確かに美しさがある。


木川田みり(きかわだみり)
1996年生まれ。東京都在住。作家、イラストレーター、UIUX デザイナーとして活動中。ザ・チョイス年度賞優秀賞受賞。2022年に初の個展『熱いお湯で洗濯したら縮んじゃった』を開催。近年は、触れ合った言葉から妄想を繰り広げた「妄想絵日記」を日々手にする「レシート」の裏に描き、instagram や X にて毎日更新している。https://www.instagram.com/sarasaranokami
https://twitter.com/makimakinokami


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