真剣・うつわ選び 〜鎌倉・もやい工藝
久々の器買いについ真剣になってしまった記録です。お店は、ずっと訪れたかった鎌倉の「もやい工藝」さん。
ここ1~2年、通販での買い物に慣れてしまい、実店舗で器を買うのは久しぶりです。悔いのない買い物をしようと最初から買う気満々。店に入った瞬間、獲物を探すモードになりました。
「もやい工藝」どんなお店?
もやい工藝は鎌倉駅の西口から歩いて12分ほどです。海側の鎌倉駅から、切通しを抜けると空気が一変し、木々の香りに変わる瞬間がありました。そんな坂の上の静かな住宅街にあります。
店内には日本各地の選び抜かれた手仕事の品が並びます。興奮で目が泳ぎますが、まずはカウンター付近にリュックを置き、身軽になって散策開始です。
今年は10月に入ってもまだ夏みたいですが、店内は風が抜け居心地が良いです。
さりげなく置かれた非売の品にも、つい目が留まります。
カウンターに置かれたコイントレーの風合いが素敵で「これは陶器ですか?」と店員さんに尋ねたら、「先代がどこかの古道具屋で見つけてきた下手(げて)の物(根来塗)なんです。長年お客様の手が触れることで漆が剥げて、自然とこの風合いになりました」と教えてくれました。
「下手(げて)」とは、粗雑な作りの素朴で大衆的な器物をいい、これに対して精巧なもの(高級品)を「上手(じょうて)」と言います。ただ、昔の下手が現代では上質に思えるから不思議です。
選んだ器の紹介
ここからは、選んだ器を紹介します。この日は8点購入しました。
①器の風格(砥部焼/なずなリム皿)
砥部焼・中田窯のお皿です。
手に取り、なるほど「石だ」と思いました。
陶器の原料は土、磁器の原料は石。ゆえに磁器は「石もの」とも呼ばれ、陶器より高温で焼かれるため硬いのです。ずっしりと手に感じる頼もしさ。絶妙な角度、深さ。そして古物の様な風格。
良い器だなぁ。
手持ちのロイヤルコペンハーゲン(22cm)と一緒に使うため、小さい方の19㎝皿を購入しました。
写真 ■が今回買った器
②どの角度も絵になるか(瀬戸焼/麦藁手)
瀬戸の麦藁手は、白洲正子さん愛用でも知られる焼き物です。時代を超えた愛らしさがあります。
1筆1筆、均一な線が器の内外に描かれ丁寧な仕事です。どの角度から見ても絵になります。この「どの角度も」という点を私は必ずチェックします。
理由は、食卓の写真をInstagramや記事に使いたいからです。少なくとも真上、横の2方向は撮影します。昨今Instagram等のSNSに料理や食卓の写真を投稿する人は数万といるので、器は使うだけの物でなく見せる物になってきていると感じます。
さて、この美しい麦藁手を幾つ購入しよう。「茶の茶碗」か「黒の深皿」の2択です。
結局、一客ずつ買いました。こうしたサイズ違いや色違い買いを時々します。器にもよりますが、同じ物を揃えるより好きな買い方です。同じ予算で2種類買えた方が組合せのバリエーションが広がるという、コーディネート好きの発想です。
③フチを見ています(小石原焼/打ち刷毛目皿)
ネットの商品画像では目に留まらなかった器に、実物を見て惹かれました。小石原焼・太田哲三窯のお皿です。こういう予想外が起きるところも、実店舗での買い物の面白さです。
惹かれたのは、フチ部分のカスレ。質感が版画の様です。
日ごろから器はフチのニュアンスに左右されると思っています。料理を盛った際に目に入るのは、中央でなくフチ周りだからです。使ったら映えそうな期待感たっぷりだったので、買ってみる事にしました。
④民藝の無名性(小石原焼/手無しカップ)
また、同じ作り手のカップも購入しました。取っ手が無い形で、収納スペースを少しだけ有効に使えます。
ところで、もやい工藝は商品棚に作り手や工房の名前を表示していません。扱う商品全般に、作家名や工房名は入っていないと思います。器の裏に刻印があったとしても「小鹿田焼」「龍門司焼」など焼き物名だけです。
理由は、無名性を重んじる柳宗悦氏の「民藝」の考え方に忠実だからと、勝手に解釈しています。民藝では、個人・自我の表現としての美ではなく、共同体で生み出される美、無心の美を良いと考えるのです。
それでも不思議と、作り手がどなたか意識しなくても結果的に同じ作り手の品を選んでいる事はよくあります。このカップもそうでした。
⑤買いどきの判断(小鹿田焼/飛びカンナ鉢)
この日の店内は、小鹿田焼が充実していました。入荷したばかりのようです。気に入った飴色の鉢があったので、購入する事にしました。
ずいぶんホイホイ買うなぁ。
と思われるかもしれませんが、手作りの器を買う際には、買いどきを逃さないのも重要です。それは補充の見通しが立ちにくいからです。
手作りの工房では、窯焚きの頻度が限られています(工房により年1~5回程度)。つまり、気に入った品は在庫のある内に買わないと、次はいつ入荷するか、同じ品がまた焼かれるかわからないところがあるのです。
また、再入荷の見込みがあっても、登り窯という火力の強い窯を使う工房の場合は更に注意が必要です。窯焚きのたびに焼き上がりが違うのです。
同じデザインでも、その窯焚きでの置き場所や火の当たり具合で、色合いや雰囲気の異なる物が焼き上がることは普通にあり、そこが登り窯の魅力とも言われます。
この事を知らずに失敗した経験談も記事にしていますので、ご参考まで。
ということで、小鹿田焼も購入。
この鉢も、器の内外に飛びカンナという彫り模様の入った、どこから見ても絵になる器です。直径15㎝は、我が家ではよく使うサイズでお刺身丼、牛丼、親子丼、おでんの取り鉢などに活躍します。
⑥育つ器(瀬戸焼/菊紋小皿)
最後に、小皿を2枚選びました。
一枚は、瀬戸焼・瀬戸本業窯の菊紋皿です。貫入と呼ばれるヒビ模様の美しい「育つ器」です。使っていくうちに貫入に食材の色が沈着して味わいが増すと言われています。小皿で挑戦してみようと思いました。
⑦力強いデザイン(有田焼/輪紋皿)
もう一枚は、有田焼・大日窯の輪紋皿です。シンプルでいて力強いデザイン、小さくても存在感があります。和洋に似合い、食卓に清涼感を添えてくれそうです。
もし、気になるデザインがあっても初挑戦だから使いこなせるか不安…と感じた場合は、小さいサイズから取り入れてみるのもおススメです。
食器は大きさに比例して値段が上がるからです。小さければ失敗しても痛手が小さくてすむし、収納スペースも少なくて済みます。2枚目で本命サイズに挑戦、という段階的な取り入れも一つの方法だと思います。
おわりに
実物を手に取り、財布の紐は緩みましたが、本気の器選びを堪能しました。あとは使ってみての良し悪しだと思います。
もやい工藝さんは、良い器がどんなものかを学べる場所に思えました。鎌倉へお出かけの際は、ぜひ立ち寄ってみてください。
通販での器選びも記事にしていますので、ご参考まで。
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