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吃音の情報とバイアスの罠

はじめに

吃音に対する理解を深めるため、多くの人々はインターネットや誰かの話を情報源として利用します。これらは吃音者自身やその家族、関心を持つ人々にとって重要な情報源となっています。
しかし、その情報の質は大きく異なることがあり、正確さや科学的根拠に基づいていない情報も少なくありません。また、情報選択におけるバイアスの発生にも注意が必要です。今回はこれらについてまとめます。


バイアスとその影響

バイアスとは、特定の方向へと偏った考えや判断の傾向を指します。
情報を得る際、人々はしばしば無意識のうちに自分の信念や期待、感情に合致する情報を選びがちです。
吃音に関する情報も例外ではなく、情報収集において、
確証バイアス
・真実性の錯覚
・感情バイアス
などが働くことがあります。これらのバイアスは、適切な治療法や支援を見つける上での障壁となり得るため、吃音者や支援者はこれらの傾向を意識して情報を評価することが重要です。

確証バイアス

確証バイアスの定義と心理学的背景

確証バイアスは、自分の信じていることや期待に合致する情報に注意を向け、記憶し、解釈する傾向のことです。
これは、心理学における認知的不協和理論と関連があり、個人が自身の信念や自尊心を保つために情報を選択的に扱うとされています。
吃音のような複雑で個人的な問題において、人々はしばしば自分に都合の良い情報を選んで信じることで、安心感を得ようとします。

吃音情報における確証バイアスの例

  • ネット上で「成功した治療法」に関する情報だけを検索し、その他の情報や批判的なレビューを無視する

  • 研究結果や統計を自分に都合の良いように解釈し、自身の信じたい方法を正当化する

  • 「吃音は改善しない」という信念を持っているか場合、改善の可能性を示唆する情報や治療法に対して否定的な姿勢をとり、これらの情報を無視する傾向が強まる。

これらの例は、吃音情報における確証バイアスがどのように作用するかを示しています。吃音者やその支援者は、これらのバイアスに注意しながら情報を扱う必要があります。確証バイアスに陥らないためには、異なる視点を意識的に探究し、情報の質を批判的に評価し、多様な情報源からの情報をバランスよく取り入れることが重要です。

確証バイアスへの対策

  1. 多様な情報源: 情報は一つの情報源に依存せず、多角的な視点から集める。専門家の意見、科学的研究、経験談などをバランス良く検討する。

  2. 反対意見の探求: 自分の信念に反する情報や意見も積極的に検討する。反対意見を理解し、それに対する自身の立場を再評価する。

  3. 客観的評価: 情報の出典を確認し、その信頼性や科学的根拠を評価する。情報の質に注目し、エビデンスに基づいた決定を心掛ける。

  4. 自己反省: 定期的に自己の思考パターンや情報処理方法を振り返り、確証バイアスに陥っていないか自問自答する。必要であれば、他者の意見を求めることで客観的な視点を獲得する。

真実性の錯覚

真実性の錯覚の定義と心理学的背景

真実性の錯覚は、情報が繰り返し提示されるほど、その情報が真実であるとの信念が強まる現象です。人々は馴染みのあるもの、繰り返し遭遇する情報をより信頼しやすいと感じます。吃音に関する情報も例外ではなく、特定の理論が何度も言及されることで、それが真実であるかのように受け入れられるリスクがあります。

吃音情報における真実性の錯覚の例

  1. メディアでの繰り返し: 一部の改善法や成功談がメディアやフォーラムで繰り返し紹介され、それが効果的であるとの印象が強化される。

  2. 個人的な繰り返し: 同じような吃音体験を探していると、自分が期待する情報に何度も遭遇し、その情報が真実であると感じるようになる。

  3. 社会的な繰り返し: 吃音に関して特定の見解が社会的に広く受け入れられていると、新しい情報や反対意見が見過ごされやすくなる。

真実性の錯覚の影響

  1. 非効果的な治療の追求: 真実性の錯覚により、特定の治療法や成功談が何度も繰り返され、それが効果的であるとの印象が強化されます。これにより、吃音者は非効果的かもしれない治療に時間やお金を費やすリスクが高まります。

  2. 科学的根拠に乏しい情報への依存: 1つの情報や理論が繰り返し提示されることで、それが真実であると認識されやすくなります。

  3. スティグマや誤解の強化: 特定の偏見やスティグマを含む情報が繰り返されることで、それらが真実として広く受け入れられます。これは吃音に対する一般的な理解と受容を妨げる原因にもなり得ます。

  4. 改善の機会損失: 吃音を「受け入れるもの」として捉える考え方自体は肯定的であり自己受容を促すものですが、真実性の錯覚によってこれが絶対的な信念となり、改善の可能性や新しい改善法への開放性を失うことがあります。吃音者が自己受容と改善の機会のバランスを見つけることが重要です。

真実性の錯覚は、吃音に関する情報を処理する際の重要なバイアスの一つです。吃音者や支援者がこのバイアスに対して警戒し、情報源とその繰り返しに気を付けながら、批判的思考を養い、多様な情報源を探究することが、より良い理解と適切な選択へと繋がります。

真実性の錯覚への対策

  1. 情報源の多様化: 情報はさまざまな信頼できる情報源から得る。一つのメディアや個人の意見に頼らず、科学的研究や異なる視点を含む幅広い情報にアクセスする。

  2. 批判的思考の養成: 提示される情報に対して常に疑問を持ち、その出典、根拠、文脈を考慮する。一見すると説得力がある情報でも、その裏にあるエビデンスや論理を検証する。

  3. 自己のバイアスの認識: 自身がどのような情報に反応しやすいのか、どのような情報を信じやすいのかを自覚する。その上で、意識的に異なる情報にも目を向け、バランスの取れた理解を目指す。

  4. 社会的検証: 他者と情報を共有し、議論することで、自分の考えを広げ、検証する。特に専門家や経験豊富な人々との対話は、真実性の錯覚を見抜くのに役立つ。

感情バイアス

感情バイアスの定義と心理学的背景

感情バイアスとは、個人の感情が情報の収集、解釈、記憶に影響を与える現象です。人々は自分の気分、感情的な経験、または特定の情報に対する感情的反応に基づいて情報を処理し、判断する傾向があります。吃音に関しても、個人の恐怖、希望、失望などが、関連する情報の受け取り方やそれに基づく行動決定に大きな影響を及ぼすことがあります。

吃音情報における感情バイアスの例

  1. ポジティブな情報の選好: 吃音者が希望や楽観に基づき、成功談や楽観的な治療結果に強く惹かれる。

  2. ネガティブな情報の回避: 失敗談やネガティブな結果に対して強い恐怖や不安を感じるため、これらの情報を意識的に避ける。

  3. 経験に基づく偏り: 個人的な吃音の経験が一般化され、他の人の吃音体験や改善法に対しても同じだと感じる。自分の体験が全ての人に適用されると誤信することがある。

感情バイアスの影響

感情バイアスにより、吃音者は情報を不完全に、または歪んで受け取るリスクがあります。これは、不適切な選択、過度な期待または無用な恐怖を生む可能性があるだけでなく、吃音に対する理解や他者とのコミュニケーションにも悪影響を及ぼす可能性があります。また、感情的な偏りは、社会的なスティグマや誤解を深めることにもつながります。

感情バイアスへの対策

  1. 感情の自己認識: 自分の感情を認識し、それが情報処理や判断にどのように影響しているかを考える。

  2. 情報の客観的評価: 情報を受け入れる前に、その情報の出典、根拠、論理的整合性を評価する。感情に流されず、客観的事実に基づく情報を重視する。

  3. 感情コントロールの技術: ストレス管理、リラクゼーション技術、認知行動療法などの技術を学び、感情のコントロール技術を習得する。

  4. 社会的サポートと対話: 信頼できる友人、家族、専門家との対話を通じて、自身の感情や思考を共有し、フィードバックを得る。外部の視点は感情バイアスを緩和するのに役立つ。

感情バイアスは吃音に関する情報収集や意思決定に大きな影響を及ぼします。吃音者やその支援者が感情バイアスに気をつけ、それを管理する技術を身につけることで、より健全で客観的な情報に基づいた意思決定が可能となり、結果的に生活の質の向上につながります。

まとめ

吃音情報における確証バイアス、真実性の錯覚、感情バイアスは、情報収集と処理の質に大きな影響を及ぼします。これらのバイアスを理解し、自身で認識することは、偏りのない情報を得て、より良いサポートの選択をするための第一歩です。自己の感情や先入観が情報にどのように影響を与えているかを常に考え、客観性を維持する努力が求められます。

参考
1)一般社団法人 日本経営心理士協会 確証バイアス
2)Academic Accelerator 幻想的な真実の効果 Illusory Truth Effect
3)Theories 感情バイアスとは|人々の意思決定や判断が「感情」によって影響を受ける認知バイアス


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