吃音研究紹介~A clinical training model for students: intensive treatment of stuttering using prolonged speech~
この記事では、「A clinical training model for students: intensive treatment of stuttering using prolonged speech」という論文を簡単にまとめます。
研究背景
教育ガイドラインと臨床教育の現状
ブルガリアの言語病理学の学生は、吃音治療に関して十分な訓練を受けておらず、治療に対する自信も不足していることが明らかになっています。本研究の主な目的は、ブルガリアの大学における言語病理学修士課程の教育の質を向上させることです。
具体的な目的は以下の通りです。
修士課程プログラムが国際的な基準を満たしていることを示すこと。
集中治療プログラムの結果を報告すること。
日常生活における成人吃音者の活動制限を評価すること。
研究方法
参加者
本研究には、12名の成人吃音者(AWS)が参加しました。参加者は、18歳から29歳までの男性10名と女性2名でした。
治療プログラム
治療はProlonged Speechを基にしたもので、以下の3つの段階に分けられます。
確立段階(3日間)
Prolonged Speechの導入、その他流暢性技術の習得 など
移行段階(2日間)
被験者によって作成された発話状況の階層作成と練習 など
維持段階(7週間、週1回のフォローアップセッション)
セルフマネジメント戦略の指導(自己監視と自己評価)
親や友人の関与 など
学生の関与
治療は、12名の修士課程学生と1名の博士課程学生によって行われました。学生は、治療前に流暢性障害に関する60時間の学部レベルのコースと、吃音管理に関する60時間の修士課程のコースを修了しました。
結果
吃音率(%SS)の測定
吃音率(%SS)は、以下の5つの異なる発話状況で評価されました。
クリニック内モノローグ(一人語り)
クリニック内会話
自宅での電話
自宅での会話
結果は、治療前と治療後、および11ヶ月後と18ヶ月後の時点で比較されました。吃音率はすべての状況で大幅に減少しました。
※( )内は標準偏差
スピーチの自然さの評価
スピーチの自然さは、9段階の尺度で評価され、治療前、治療直後、11ヶ月後、18ヶ月後のスコアが比較されました。自然さの平均スコアは以下の通りです(低いほど自然である)。
自己評価
参加者は、治療の第3段階直後に自己評価を行いました。また、Prolonged Speechを使用した他の研究結果との比較を行いました。
※1~4は低いほど良く、5~6は高いほど良い
治療終了時には、自己評価も向上していることが確認され、他の研究と同程度尾結果となりました。
考察・結論
本研究は、ブルガリアの修士課程の学生が行った吃音の集中治療の短期的な成果を報告しています。学生が行う治療でも、結果を保証できることが示されました。
研究の限界
サンプルサイズの小ささ:
本研究では、参加者が12名と比較的小規模でした。小規模なサンプルサイズは、結果の一般化可能性を制限する可能性があります。
フォローアップ期間の制限:
研究では、11ヶ月および18ヶ月後のフォローアップが行われましたが、さらに長期的なフォローアップが行われていないため、治療効果の長期持続性については不明です。
単一の教育機関での実施:
本研究はブルガリアの単一の大学で実施されたため、他の地域や教育機関での再現性については確認されていません。
参加者の自己選択バイアス:
研究に参加した成人吃音者(AWS)は、自発的に治療を求めて参加した可能性があり、一般の吃音者全体も同様とは言えない可能性があります。
研究の注意点
文化的および地域的な要因:
本研究はブルガリアで実施され、文化的および地域的な要因が治療の受け入れや効果に影響を与える可能性があります。
自己評価データの限界:
自己評価は参加者の主観的な評価に基づいており、客観的なデータとは異なる結果を示す可能性があります。
監督の影響:
学生が治療を提供する際に監督者の存在が大きな影響を与える可能性があり、実際の治療環境では監督者がいない場合に同様の結果が得られるかは不明です。
サラリン的解釈
ここからは私個人の解釈になりますので、信じず適当に流してください笑
本研究では、吃音についてまだあまり詳しくなく、臨床に対する自信もない学生が、吃音についてしっかり学ぶことで、患者の吃音を改善することができたことが示されました。
ここで私が思ったのは、「私たち吃音当事者であっても、吃音についてきちんと学び、治療法への理解を深めることで、自身の吃音管理および吃音改善ができるのではないか」ということです。
もちろん専門家の足元にも及びませんが、学ぶことで現状を打破できる可能性はあると思いました。
参考文献
Georgieva, D., & Stoilova, R. (2018). A clinical training model for students: intensive treatment of stuttering using prolonged speech. CoDAS, 30(5), e20170259.