Prolonged Speech(吃音改善トレーニング①)
吃音改善において、言語・認知等、さまざまな方向からのアプローチが必要になります。こちらについては下記記事にて解説しております。
この記事では、言語面に当たる流暢性トレーニングであるProlonged Speechについて、イギリスの言語聴覚士さんのウェブサイトや論文等から得られた情報をまとめていきます。
Prolonged Speech
Prolonged Speechは、各音声を通常よりも少し長めに伸ばす流暢性テクニックです。
力みのない発話パターンを身に付けることがメインの目的となります。
はじめはゆっくり行いますが、時間をかけて練習することで、自然な話し方に聞こえるようになります。これは、吃音を軽減する最も効果的な方法の1つとされています。
※SNSなどで「ゆっくり話すのは不自然だ」との指摘が多々見受けられますが、最終的には自然な速度に戻していくので心配ないかと思います。
習得の鍵は集中的な練習で、この方法を日常生活で使える準備ができたと感じられるまで、1日に数時間練習することで、上達する可能性が高くなるとされています。
(さすがに数時間は難しいですが、隙間時間にはなるべく練習するのがおすすめかと…)
読書や1人で話すときなどの簡単な場面から始め、対面や電話での会話など、より難しい場面へと徐々にステップアップしていくことが重要です。
研究例とエビデンス
「そんなことでよくなるわけ無いだろ!」と思う方もいらっしゃるかと思いますので、ここで研究とエビデンスを紹介いたします。
Speech Outcomes of a Prolonged-Speech Treatment for Stuttering
Prolonged-Speech治療を受けている12名について、2~3年間のプログラム全体を継続した12名の被験者は、吃音がゼロに近い状態を達成しました。被験者の大部分は、治療後の期間中、診療所内外を問わず、会話の自然さのスコアに退行傾向は示されませんでした。また、不自然な話し方にならないで、吃音が解消されたことも示された。
Cross-linguistic generalization of fluency to untreated language in bilingual adults who stutter
この研究はバイリンガルの吃音者を対象に、1つの言語でのProlonged speechによる訓練が、もう一方の治療されていない言語における流暢さにどのように影響するかを調査しました。その結果、Prolonged speechを訓練した言語での吃音の減少が、訓練されていないもうひとつの言語にも影響されることが明らかになりました。これはProlonged speechの効果が言語を超えて広がる可能性を示しています。
Measurement of phonated intervals during four fluency-inducing conditions
この研究では、Prolonged speechを含む条件下で、話の途中での停止のような間(ブロック)が減少し、これが吃音の減少と関連していることが示されました。これはProlonged speechが特定の発声パターンの変更を通じて吃音を減少させることが示唆されました。
上の3つは適当に目についたものを取り上げましたが、まだまだ研究はたくさんあります。
Prolonged speechの練習方法
続いて、Prolonged speechの練習方法について解説します。ここからはイギリスのサイトより引用した内容をまとめますので、英語での例が示されています。そこで、「日本語ではこんな感じ」というのも併せて載せていきます。
①特定のフレーズで練習
メトロノーム(アプリでも可)を毎分60拍にセットし、次のフレーズを各音節を1秒ずつ伸ばして言ってみます。メトロノームの拍子を目安にしてください。
※海外のサイトを参考にしておりますので、そのまま英語の例を書きます。
“Good mor - ning”
[1秒] [1秒] [1秒]
下記のようになるかと思います。
“Gggoooooodddmmmooorrrnnniiinnnggg”
各音節の間に単に間を入れるのではなく、実際に音を伸ばしていることを確認します。
"I'll see you later "というフレーズはこのように聞こえます。
"III'lllll'ssseeeeeYYYYOUU LLAAATTEERR"
“I’ll……see……...you….….la…......ter……...”
↑ このようにならないようにしてください。
このように話すと、たいていの場合はほとんど吃らないと思います。
日本語の場合は1音1秒の早さでOKです。
例:お疲れ様
”お~ つ~ か~ れ~ さ~ ま~”
[1秒][1秒][1秒][1秒][1秒][1秒]
イメージ的には
”ぉぉおおっぅうくぁああるれええすぁぁあんまぁああ”
のような感じです(音の始まりは小さい音で出すとベター)。
②その他のフレーズで練習
やり方が分かったら、他のフレーズで練習します。挨拶でも名前でも何でも構いません。
例:ありがとうございます、おはようございます、こんにちは、お先に失礼します、失礼します、お電話ありがとうございます、など。
③録音してチェックする
これらのフレーズや他のフレーズを自分で録音してみます。聞き返して自分のテクニックをチェックし、1秒間に1単語ではなく、1秒間に1音節であること確認します。
④言葉を視覚化する
Prolonged speechの有効なテクニックとして、言葉を視覚化(書き起こす)してから発音する方法があります
例えば、"better late than never "は次のようになります。
”bbbeeettteeerr lllaaattteee ttthhaaannn nnneeevveeerr”
①で書いたような感じですね!
⑤文章の音読
最初は1分間に約60音節のスピーチをしますが、慣れてきたら1分間に90音節、120音節、160音節とスピーチの速度を上げていきます。
前のステップと同じように、録音して注意深く聞き返します。これは、自分が正しくテクニックを使えているかを確認するための重要なステップになります。
⑥モノローグ練習
1分間に60音節の音読に自信がついたら、モノローグ(一人会話)で60秒間話してみます。モノローグとは、台本を読まずに自然に声に出して話すことです(話す内容はなんでもOK)。これも録音して聞き返し、自分のテクニックをチェックします。
⑦自分に合った長さを見つける
1分間に60音節の音読やモノローグに自信が持てるようになったら、1分間に90音節、120音節、160音節の音読で上記のステップをもう一度行ってください。
発話速度を上げると、より自然に聞こえるようになります。最終的には、少し長めで、適度に自然に聞こえる話し方を目指します。平均的な発話速度より少し下を目指すと吃音が少なくなります。吃音が出始めたと感じたら、話す速度を遅くし、もう少し伸ばす必要があるというサインになります。
⑧会話で使えるようになる
モノローグで長めの発話ができるようになったら、次は会話で使ってみます。気の合う人と一緒にこの方法の練習をしたいことを説明します。簡単なトピックを選び、会話と同じように少し長めに話すようにします。
最初はとても難しいと思いますが、どんな方法でも会話で使えるようになるには長い時間とたくさんの練習が必要です。
※実際に病院の言語訓練でも、継続や習慣化できなかったり、日常生活でうまく練習・応用できないことが挫折の一因となるようです。
訓練期間について
上記の練習をどのくらいやれば良いの?という疑問があるかと思いますが、これは人それぞれとなってしまいます。
症状や1日に練習できる時間などは人それぞれですので。
ただ短期集中(1日3時間以上)で行えば、数週間の内に効果があるようです。
※もちろん症状にもよります。
そこまで時間が取れない場合は、数ヶ月または数年は見積もっておくと良いかもしれません。
研究を読むと、習慣化できず途中で挫折し、吃音が軽減しない人が結構います。
1年間継続できている人は、多くがかなり改善されています。
また、「般化」と呼ばれる、日常生活で使用していく工程がかなり難しいです。
力んだ話し方が定着していたり、人前だと頭が真っ白になってしまったりと、冷静にProlonged speechを使用することは難易度が高いです。
これらは自分との闘いになってきますが、習慣化のテクニックを使ったり(これも機会があればまとめたいと思います)、誰かと協力、支えあいながら取り組むことが重要です。
まとめ
Prolonged Speechは発話訓練の中核のようなトレーニングで、多くのエビデンスや実績のある有効な方法です。
しかし、一朝一夕では改善するものではなく、粘り強く訓練を継続することが非常に重要になります。
参考
1)STUTTERING THERAPY ONLINE
2)Bothe, K., Davidow, J.H., Bramlett, R.E., & Ingham, R.J. (2006). Stuttering treatment research 1970-2005: I. Systematic review incorporating trial quality assessment of behavioural, cognitive and related approaches. American Journal of Speech-Language Pathology, 15(4), 321-341
3)Max, L. & Caruso, A. J. (1997). Contemporary techniques for establishing fluency in the treatment of adults who stutter. Contemporary Issues in Communication Science and Disorders, 24, 45-52
4)A Packman , M Onslow, J van Doorn Prolonged speech and modification of stuttering: perceptual, acoustic, and electroglottographic data
5)K. Priyanka, Santosh(2019) Maruthy Cross-linguistic generalization of fluency to untreated language in bilingual adults who stutter
6)Jason H Davidow, Anne K Bothe, Richard D Andreatta, Jun Ye Measurement of phonated intervals during four fluency-inducing conditions
7)Mark Onslow, Leanne Costa, Cheryl Andrews, Elisabeth Harrison and Ann Packman Speech Outcomes of a Prolonged-Speech Treatment for Stuttering
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