本気で好き。なのかな(1)
私は、輝きのある人が好きなだけかもしれない。
あの人が音楽に触れて、自信に溢れている姿が、私は眩しく感じたんだ。
そんな深い理由は、ない。はずだ。きっとないさ。
いや、どうかな。
やる気に満ち溢れていた去年の春。入学早々部活見学というものが始まった。
「私は演劇部に入るんだ。」と、ずっと前からそう決めていた。だから部活見学には興味がなかった。
「さらり〜一緒に吹部行かない?」
同中の吹部仲間からのお誘いだった。
「いいよ。」遊びに行ってもいうて悪くない。
この高校の配置はややこしい。なんで吹奏楽は単独で建物があるのだろうか。
「経験者です。コントラバスの。」
楽器愛は誰よりも強い気がする、だから迷いなく真っ先にコントラバスを体験しに行った。女の先輩だった、前に歩いて部屋まで連れてくれたのが。
「失礼します…っ」
って!中庭演奏の時のかっこいい人じゃん!!高校で知り合ったばかりの人とかっこいいよねって話して盛り上がったその人、間違えなく今目の前にいるこの先輩である。
そうか、ベースはコントラバスが担当するもんね。なんで忘れていたのかな。
先輩を見てぼーっとしていたら、クラスと名前を聞かれた。
「7組です。」
「国際か、俺も7組。おそろいだね。」
ドキッ
おそろい…ね。そんなリラックスして話してくれるんだね。中学校の先輩から聞いた話と違うな。
この先輩、とてつもなく話しやすい。
…
先輩、優しい。
…
先輩、面白い。
「…先輩、明日また来ます!」
「待ってるね」
覚えてくれるかな。
「私は演劇部に入るんだ。」そんなことは忘れてはいけない。
それでも、私は次の日も吹部に行った。
「コントラバスが弾きたいです。」
どういっても二度目ではある。だから部屋へ行く道はわかっていた。
「先輩、こんにちは!」
今日は先輩が練習した曲を弾いて遊んでいた。やっぱり話しやすいし、他の部屋と違って変に緊張しない。
この先輩、いいな。
早くも部結成の日がやってきた。
「私は演劇部に入るんだ。」そんな意思はもうどこにもない。私は吹部に入ることにした。
3棟4階の音楽室で集まって、全体で自己紹介をした。そしてパート別で集まることになった。
「君、譲ってくれないかい。」同級生で同じコントラバス狙いな人がいた。彼からそう話しかけられた。
嫌だ。私もそのために入ったのだから。
「やだね」でもオーディションも嫌だ。絶対負ける。この人、上手そうだもん。私より何十何百倍も。
「まず自己紹介しようか。」先輩は座って壁にもたれかかって、ぶどう味の炭酸っぽい飲み物を飲んでいた。
初めてみた。先輩のマスク外した顔。
かっこいい‥いや、かわいい。あの雰囲気とのギャップで思わずガン見してしまった。先輩も目線を感じたのかその姿勢のまま私を見てきた。慌てて目をそらし、自己紹介を始めた。
“一目惚れってこういうことなのかな。”
気づいたらもう先輩が自己紹介をしていた。初めて聞いた名字で、かっこいいなと思った。
いや…でも紅一点か。どう見ても気まずくなりそうな配置だ。何より二人は初対面と思えないような仲良さだったから、やはりこの位置は私が譲るべきでしょうね。
そんなこと考えているうちに女の先輩が入ってきた、男子二人に話しかけた。
気まずいな。
そう思いながら、鏡越しで観察していた。そう、この部屋には向かい合って二面の鏡がある。しかも私の身長に合わせて配置されたように高さがちょうどよかった。不気味さを感じた。
私は浮いている。初日からそう思ってしまった。
その思いがこれからもずっと残っていくとは思わなかった。
入部してから一週間経った。今日も楽屋に3人こもって話していたら、すごくいいお知らせを聞いた。「コントラバスは2人採るらしいよ。」って。安心感が半端なかった。中学校みたいに先輩が選ぶ流れが私は怖かったんだ。その場合私はきっと放棄されてしまう。だから2人でよかった、本当によかった。
少なくとも私も先輩の元で部活することができるんだって、嬉しかった。
この部屋の空間はどこよりも平和だ。
女の先輩が割り込んでこない時は。
私は部活メンバーとしてできるだけ多くの人と繋がりを持つようになりたい。と勝手に思っていた。だけど何故かその女の先輩からは自動的に排除されていた。何度も話に合わせたことがあったけど、見向きもくれなかったんだ。さすがに最低限の空気は読めるからいい加減黙った。明らかに喜んでいた。
はあ、苦手だ。でも男って意外とこういうタイプに捕まえられやすい。見る目ねえ。
先輩はその1人でないことをただ願うことしか、私にできることはなかった。