なんてことない日常
こんなに長く海外へ行く事ができなくなるとは思っていなかった。
台湾、特に台南という街の沼にずぶずぶと足を取られ始めていた私には、この状況はもう苦痛でしかない。それは皆同じだとは思うけれど。
よく「ストレスは貯めすぎるとよくないので適度に気分転換をしましょう」などというアドバイスを見るけれど、私にとって台湾旅行(を含む海外旅行)はその気分転換の最たるものだった。
「海外に行けないなら国内のどこかに行けばいいじゃない」とベルサイユの王妃様は言うだろうけれど、帰ろうと思えばすぐに帰れてしまう国内旅行は、私にとって残念ながらあまり気分転換にならない。
理由はあるけれど、長くなるので省く。
美味しい物を食べたりちょっと外出したりなどという、ささやかな気分転換も、おなじことが原因で「解放感」を味わい切れない。
…なんて、自分ではどうにもならない事を愚痴っていても仕方ないので、台湾から取り寄せた繁体字の原書(読めない)をめくったり、自分が過去に台南で撮った写真を眺めたりして自分を宥めている。
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意外にも、台南に行けなくなって一番「懐かしい」「恋しい」と思ったのは、あの安くて美味しい小吃でも大好きな廟でも老街でもなく、街角のなんてことない日常風景だった。
大通りに並ぶ店やその前を走るスクーター、裏通りの軒にぶら下がった洗濯物、屋台で食事をする家族や市場で買い物をする人々の姿。
適当にパシャパシャと、映えなど一切狙わずにスマホで撮った画像を眺めている時間が、一番優しい気持ちになれる。
先日Instagramに和緯黄昏市場での写真を投稿したら、図らずも似たような事を感じていらっしゃる方がコメントをくださり、なんだかますますしみじみしてしまった。
この風景の中に再び自分が身を置けるようになるには、あとどれくらいかかるのか。先が見えないだけにもどかしいけれど、そのもどかしさを「待つ楽しみ」に変えて、あとは1日でも早くその日が来るように祈るだけ。