ブックレビュー 私を離さないで カズオイシグロ
ノーベル賞作家であるカズオイシグロさんの2005年の作品です。
原題は「NEVER LET ME GO」。
最初に
私の受けた印象を最初に言います。
「これ本当の話なんじゃないの?」
全身寒気がしてぞっとしました。
村上春樹さんもそうですが、世界で読まれる小説家というのは、人々の集合無意識にアクセスし、真実を探り当てて作品にしているのではないかと思います。だから多くの人から共感され読まれるわけです。
登場人物
キャシー 主人公。ヘールシャム出身。のちに介護人となる
ルース キャシーの友人。トミーとカップルになる。のち別れる
トミー ヘールシャム出身。癇癪持ちでいじめられていた。ルースとカップルになる
エミリ先生 ヘールシャムの主任保護官
ルーシー先生 ヘールシャムの先生。ヘールシャムの教育方針に疑問を呈する。トミーの心を支えた恩師
マダム 時折ヘールシャムを訪れる謎の女性。子供たちの作品を集めていた
超簡単なあらすじ
イギリスにある、とある施設ヘールシャム。ここには子供達が集められ教育を受けながら養育されていた。
この子供達は普通の子たちではなく、「誰か」のクローンであった。
そして卒業後は臓器を何度か「提供し」、そして一生を終えることが決められていた。
そのためこの子らには子供を作ることはできないと説明されていた。
しかしカップルになるのは問題なかった。
マダムは時折ヘールシャムを訪れるが、子供たちに対する愛情はなく、むしろ蜘蛛でも見るような目つきで見ていた。その行動を見てキャシーは
「自分たちと外部の人間は違うのだ」
と感じ、深く傷つく。
ルーシー先生は
「この子たちはまだ十分に本当のことを教えられていない」
と憤り、その後ヘールシャムを辞職した。
トミーは癇癪持ちの少年だったが、ルーシー先生との出会いを通じて落ち着いて来た。またキャシーとは話ができる間柄だった。
ルースとトミーはカップルとなった。
卒業後、ヘールシャムからコテージという場所に移ったキャシー。
そこではヘールシャム以外からも卒業生が来ていた。ここでしばらく過ごした後、それぞれ職業訓練を受け、巣立って行く。
コテージで、ヘールシャムは特別な施設で生徒は特別扱いを受けられるという噂が立つ。
「本当に愛し合っているカップルは、提供を待ってもらえる」
という噂である。
ルースがキャシーに対し告白する。自分は本当はトミーを愛しているのではなく、ただキャシーとトミーの間を妬んで引き裂きたかっただけだと。二人は別れ、トミーとキャシーはカップルとなった。
その時点でトミーは二回提供をしていた。そしてキャシーは介護人として働いていた。
介護人とは、提供者たちの心と体の世話をする仕事であった・・・
のちにヘールシャムとは本当に特別な施設であることがわかる。生徒たちを得体の知れないクローンとしてではなく、愛を与えて普通に育てるという、今までにない人道的な教育をする施設であった。
クローンにも魂があるのだと、愛を与えて育てれば感受性ゆたかな人間に育つのだと、世界に示すための運動をエミリ先生やマダムが行なっていたことが明らかとなる。
しかしヘールシャムは寄付者がいなくなったことで閉鎖となった。
最後に
イギリスは寄宿舎や孤児院の話が実に多い。
ハリーポッターもそうですね。
キャシーの視線を通じて、ヘールシャムの雰囲気を感じ、彼らの幼少時代や青春時代を一緒に歩みながら、一瞬普通の青春物語のようで、恐ろしい逃れられない運命の輪を感じる。しかしその中でも人生を精一杯生きる。
そんな体験のできる小説でした。