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『 I を生き抜くための牙を』 アイボリー/田所あずさ

はじめに

田所あずささんのオリジナルミニアルバム『Ivory』が2024/7/30に発売されましたね!

そのリード曲である『アイボリー』が、発売に先駆けて2024/6/22から先行配信されていたのですが、もうめちゃくちゃにゾッコンで。アーティストとしての田所あずささんを知ったのはつい最近なのですが、配信されてから約一ヶ月間、そしてアルバムが発売されてから、もう1週間経ってるのですが、聴かない日は無いほどにハマっています。

自分の好きな曲調がジャズやR&Bだったりするので、軽快なサウンドに跳ねるジャズピアノが心地よく、サビで入ってくるエレキのカッティングもカッコよすぎで、一聴惚れしてしまいました。
そして、特に刺さったのは歌詞です。
音楽知識が乏しすぎるので、結局は歌詞で音楽を聴くことが多いのですが、この曲の歌詞がめちゃくちゃ好みで、田所あずささんの持つキャラクター性に添いつつも、現代を生きる我々の「牙」を研いでくれる。ある種の人間讃歌のようなテーマを感じました。

この記事では、歌詞に重きをおいて『アイボリー』の持つ魅力を、分解しながら自分なりに深読み、考察していきたいと思います。
全て個人的な解釈・考察になります。ご容赦ください。


Aメロ

秘めたアイボリー
憂鬱はメリゴーランド 眠れない夜に
星仰いだり羊数えたら
いつかきっとまるくなって馴染めるかな

歌い出しですが、この曲のタイトルにもなっている「アイボリー」というワードが早速登場します。直訳すると「象牙」ですね。余談ですが、象牙は材質が美しく加工も容易であることから、古代から芸術や工業品や製造業において、様々なものを作るために重宝されてきたそうです。
この曲中では、「自分らしさ」や「行き場の無い感情」のメタファーになっています。
会話での発言や、思想、好きなモノ、嫌いなモノ、または将来のビジョンなどでしょうか。それらにおいて、生活の隅々で感じる他者とのズレ。価値観のズレ。現代で生きていると、他者とのズレにおいて頭を抱えることも少なく無いでしょう。そんな憂鬱に振り回されて寝れない夜もあったり。

喰らえアイロニー
隣の芝生も わたしの思いも
熟れないラズベリー ずっと青いまま
角が立って尖りきっていがいがする

2番Aメロでも同様の思いが歌われています。
隣の芝生=周りの人達を気にしていたり、自分の未成熟な思いについて吐露していたり。
どうしようもない、自分だけの感情が燻っているのです。

けれど、そんな他者とのズレも、日々の流れに任せて、社会に揉まれれば、次第に無くなっていくでしょう。全て常識通り、ある程度決められている正解が世の中にはフワフワ浮いてますから。それに従えば、だんだんと馴染んでくるはずです。

ですが、それで本当にいいのでしょうか。

Bメロ

チープなレッテル貼られて
ニーズにフィットした君の
シンプルな夢が売れる
打ったら響く伽藍堂
コンマで返せるリアクション
知ってる花火が上がる

1番のBメロでは、I を失ってしまったモノと、他者に決めつけられた I によって失ってしまったモノについて話しています。
I というのはわたし。自分らしさ。アイデンティティー。("アイ"ボリーも掛かってたりするんですかね…?)
つまり、私を私たらしめるモノです。
大衆受けに走り、I を蔑ろにしてしまった人。
外の世界から得たもので固めてしまい、内側の I が詰まっていない心。
それらしさによって決められたやり取り、既定路線の結末。
らしさが全てではありませんが、らしさが無いとその人そのもの、人間味が見えてきません。
しかし、定義づけされた I に縛られ、思うようにならない時もあります。
これに関しては、2番Bメロでも触れられています。

8つのタイプに分かれる
診断結果がはぎ取る
大切にしてた気持ち

すごく現代的な歌詞だと思います。
性格診断テストはらしさを定義づけしているモノの代表例とも言えます。
その人を枠にはめ、定義づけし、グループ分けする。そうすると、その人のらしさではなく、グループ単位でのらしさで測られてしまう。
外界から定められた I に囚われ、自分自身の I を見失ってしまうわけです。

サビ/Cメロ

I らしくいたいでも壊してもみたい
すこぶるジュラシックな波が来てるし
甘噛みでごまかしてきた アイボリー
飽きるまで闘りあって また明日を迎えたい

I らしくいたいより壊してみたい
誰かのクラシックなんて歩けない
スキはキライ綯い交ぜになったメロディー
シンプルじゃなくていい
幾億のニュアンスとともに

1番サビの歌詞です。ラスサビにも共通してくる部分なのですが、なんてカッコいい意思表示なんでしょうか。
人間賛歌、と言うよりも自分賛歌と言った方がいいかもしれません。

わたしらしくいる為に、わたしの想いの為に、囚われない。型にハマらない。枠に収まらない。
誤魔化してきた思いや、報われなかった感情ともとことん向き合う。そうやって生きていきたい、と。

You 通りに生きれない Ah この声には
数え切れない哀しさが混じる
甘く遠く擦り切れそうなメロディー
孤独を知った誰かの
その牙をその愛を鳴らせ

陽のあたることのない
長い話が残る
聴かせてよその歪さが
生きることだから

2番サビ(上)の歌詞ですが、大木さんのこういった細かい言葉遊びが堪らないですよね…。
自分自身の言う通り、思う通りにならない→あなたの通りに生きれない→『You 通りに生きれない』という変換。歌詞カードを見た時に気付く楽しさ。
そして、そんな『You』、つまり私たちに寄り添ってくれる後に続く歌詞。
誰しもが、誰に見せるでもないそれぞれの時間を歩み、孤独に抱える思いがある。
誰の目にも触れないけれど、確かにそこには在るということを、肯定してくれる。
型にハマることの無い「歪さ」、それこそがあなただと。 I を生きていることだと言ってくれているのです。

落ちA/ラスサビ

秘めたアイボリー
憂鬱はメリーゴーランド 眠れない夜は
研いでシャープに やりききれない思いを
角がたって尖りきった今の先に光がある

ここで落ちAに持ってくる構成がめちゃくちゃ面白いです。
1番Aメロでは、ただ眠れずにモヤモヤしていただけでしたが、ここではあなたの持つその「牙」を、あなたらしさを燻らせてはいけないと言ってくれています。

I らしくいたいから壊してみるよ
誰かのクラシックなんて歩けない
甘噛みで誤魔化してきたアイボリー
飽きるまで闘り合って また明日を迎えたい

You 通りに生きれない君の声よ響け
不釣り合いの日々をいけ
甘く遠く擦り切れそうなメロディー
シンプルじゃないけれど
幾億のニュアンスが光る

こういうラスサビで、先に歌われた歌詞を少し変えて、変化を演出してくれる曲(ミスチルの『終わりなき旅』とか)、大好きです。
ここでの『誰かのクラシックなんて歩けない』ですが、MVの表情とかも相まって、1番サビよりも前向きなイメージに捉えられるんですよね。「歩けない」と言うよりは「歩いてやらないから!」と言ってるような。
一言で言い表せないような、あなたを形作る幾億のニュアンス、歪さがあなたの個性であり、あなたの生き方、あなたの「牙」であると、人間の持つ複雑さ、多面性を肯定してくれる本当に素敵な曲です。

さいごに

ここまで、とにかくパッションで『アイボリー』を読み解いてきましたが、いかがでしたでしょうか。
歌詞は人それぞれ受け取り方がありますし、全然違う受け取り方をされた方もいらっしゃると思いますが、あくまでも自分はこう受け取って、こう噛み砕いて、咀嚼して、楽しんでるって、それだけを伝えたかった訳です…笑

『Ivory』には他にも素敵な楽曲が収録されてるので、まだ聴いてない!という方は、ぜひぜひ気軽に聴きにいってください!!
絶対に受け取るものがあると思います。
また、アルバムが発売されてから、制作陣のセルフライナーノーツ的な生配信があったので、そちらも一緒に観ていただければ、よりこのアルバムを聴くのが楽しくなると思います!

自分は、『アンカット』の印象が、この配信のおかげでより濃く鮮明になりましたね…!
このアルバムを胸に、「シャーかます覚悟」で、日々を戦い抜いていきます!!

P.S.
2024/8/4に行われたリリイベに参加したのですが、初の至近距離生歌唱で、鳥肌が起立しまくったので、すぐにワンマン応募しました。当落ドキドキです。

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