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音楽がやりたい #5 〜きっかけは蕁麻疹〜

2020年2月にコロナが流行して、その直後にテリーさんが来日。以来、日本での弟子生活が始まった。
アメリカでレッスンを受けていた日々とは違い、日本に居ると自分の日常、生活の為のあらゆる現実的なことが降り掛かってくる。「お客さん」でアメリカに居た、開放的な時間とは全く環境が変わった状態での弟子生活。

それに加え、テリーさんのコロナ対策、住環境、役所関係の手続き、体調管理、日本でのプロジェクトのサポート… 
このような現実を片付けながらラーガと向き合った数年だった。

テリーさんが来日してから数ヶ月が経ったある日、全身に蕁麻疹が出はじめた。特にふくらはぎや太ももが酷く、まるでガマガエルのような、黒みがかった赤茶色でボコボコの皮膚になってしまった。犬が土を掘るように、両手で掻きむしった。漢方医の先生によれば、血の汚れが原因だったらしい。

血が汚れるのは、内臓の調子や食べ物の他に、ストレスも原因として挙げられる。積年の自責癖によるストレスで溜まった毒が、「コロナ禍でテリーさんをあらゆる危険から守る」という緊張感をトリガーに暴発し、眠れないほどの痒みとなって皮膚表面に現れたのだと、直感的に思った。

もちろん煎じの漢方も毎日飲んだけれど、心の中でストレスを増幅させている自分に気がついてから、この癖を直さないことにはいくら薬を飲んでも無駄だと思った。

早く蕁麻疹を治して楽になりたいという想いも当然あったけれど、この痒みのせいで練習どころではなくなってしまったので、兎に角体調を早く戻さなければと言う思いだった。

ちょうど第一次ステイホームの令がかかった時だったので、家族以外誰にも会わず、自然と自分の内面と向き合う流れになった。


なぜ、こんなにも自分のことを責めてしまうのか。

なぜ、こんなに苦しい気持ちになってしまうのか。

何が怖くて、何が不安なのか。

そしてそれらは、どうやったら解消されるのか。

結果的に、あらゆる過去の出来事や人間関係に対する理解、解釈が深まっていった。

いらない考え方を、どんどん無くしていけるようになった。

自分の弱さを、受け止められるようになった。

すると不思議と、身体感覚も変わっていった。
所在無い感じだったのが、自分の心が体を動かしているという実感に変わっていった。

そしてやっと、前記事の、なぜ練習ができないのかを受け止められるようになったのだと思う。


この時点では、まだまだラーガを継承するというステージには居なかったと思う。

むしろ、楽器で言うところの、メンテナンスに近いのではないだろうか。

よく言われることだが、歌うと言うことは、体が楽器だ。
その、楽器である体のメンテナンスには、心のメンテナンスは避けて通れない。この、心のメンテナンスは、過去の出来事や今の自分を取り巻く環境の再認識をすることになるので非常に辛い。

まるで、楽器のパーツを分解して調整して組み直すように、自己認識がドラスティックに変わっていく。


いつだか、テリーさんは私にこう言ってくれた。

「ミュージシャンは、ミュージシャンでいるだけで既にラッキーなんだよ。音楽は精神的な行い(spiritual practice)だから、ミュージシャンで居るだけで自然と精神的な行いができるからね。」

この言葉を貰った当初は、そこまで深く意味を理解できていなかったと思う。

蕁麻疹が出て、自分の体や心に意識を向け、自分自身の中にあるあらゆる不要な要素を排除し始めて、やっと自分には何が足りないのかを受け止められるようになった。そして、何を持っているのか、どうやって足りない部分を補完していくのか。

今年の3月くらいから、皮膚の調子がとても良くなった。
漢方薬はしばらく飲んでいない。

そして最近やっと、ラーガを継承しているという実感を持つことができている。

楽器のメンテナンスを終え、やっと、チューニング、そして演奏へとステージを上れている気がしている。


*写真は、アメリカの自宅でタンプーラのチューニングをするテリーさん
撮影 宮本沙羅

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