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【UWC体験記㉗】Human Libraryの開催ーUWCらしさを取り戻すためには
UWYというプロジェクトのメンバーで主催し、色々あったものの最終的には大成功で終わったUWC DayでのHuman Library。
まだ余韻が抜けないそのわずか3日後、11月の年度最初のConferenceであるBelieve(信条) Conの主催者たちから「自分たちもHuman Libraryに感動したのでBelieve Conの中でも同様のイベントを開催してほしい」という依頼があります。
私たちが始めたプロジェクトUWYについてはこちらから↓
UWC Dayでハプニングを乗り越えて成功させたHuman Libraryについてはこちらから↓
前回の開催からどれぐらいこのイベント自体に価値があるかは分かってるし、十分学校内での知名度は上がりました。なので、今回のHuman Libraryは前回よりも大きな規模で、ただのストーリーを聞き、質問する形式だけでなく、観客が自分で参加できるような展示物なども追加で取り入れてみよう、ということになりました。
スピーカ―集め
まずは前回と同じくスピーカ―(登壇者)集めから。今回は前回のようにどんなライフストーリーでも良いのではなく、Conferenceのテーマである「Belief(信条)」に沿ったストーリーである必要があります。
何となく宗教のイメージが強くなってしまうのですが、もちろん私たちは宗教に関するストーリーだけを集めたいのではありません。「信条」とは、未来を信じること、他者を信じること、自分を信じることなど色んな解釈がある。なので実際、どんな人にも何かの「Belief」があるのです。
こうして応募してくれたスピーカ―は8人。まずは1人ずつと話をし、どんな信条が含まれているのかを確認しストーリーの構成の手助けをします。
このプロセスを初めてやった時から半年が経ち、私たち側も1回話を聞くとスピーカーの何が1番伝えたいところなのか、何がこの人のストーリーの特別なところなのか、そしてどんな情報がまだ足りないかが分かるようになりました。
私たちがする追加質問も高確率でスピーカ―の深い考えを引き出せたり、とても大切な情報が出てきたりと、このスキルにもこんなにも上達があるんだ、とびっくりします。
そして多くの場合2回、多い人だと3,4回打ち合わせをした上でリハーサルとして通して話してもらいます。このプロセスを全て2週間で凝縮してやったため、ほぼ毎日のように数時間は打ち合わせに使いました。
改善?それとも改ざん?
この頃、UWYのメンバー、特にスピーカ―との打ち合わせに毎回参加していた私、Mさん、Bくんの3人である議論が度々沸き起こるように。
それは、「どこまでスピーカ―たちのストーリーに私たちが手を加えてよいのか?」ということ。
スピーカ―たちの中には自分で原稿を作ってくるような人もいるのですが、そうであっても最初に私たちが話を聞かせてもらうときは時系列がぐちゃぐちゃだったり、他の人には分かりずらい内容があることが多いです。私たちは初めてそのストーリーを聞くことになるHuman Libraryの観客がすんなりと理解できるようにいろんな指摘を入れ、ストーリーを整頓します。
これだけなら何も問題は無いと思うのですが、それ以上に私たちがやることは「内容の充実」です。例えば、「自分の国で戦争が始まった」という内容があるならば、その時にスピーカ―が何を感じたか、親の仕事などにどのような影響があったか、などを聞き、入れてもらいます。
そしてストーリーの最後に必ず、短くとも何か「メッセージ」も入れてもらいます。「諦めるな」や「自分の意思を貫け」はかなりありがちなのですが、なるべくその人のストーリー特有のメッセージを探したいので、客観的な視点から私たちがいくつか考え、スピーカ―に相談することが多いです。
そしてメッセージが決まると、そのメッセージがストーリーの中で一貫して伝わるようにストーリー自体の中でカットしたり、逆に膨らませるようなところが出てきます。もちろん嘘は入れないので私たちが追加で質問をして入れられるような情報を探すことが多いです。
この時、無意識に私たちがやってしまうことが、なるべく「普通ではない」エピソードや情報を探してしまうこと。例えば、もしスピーカ―が貧困についての話をしていたら、食べものに困ったり学校に行けないなどの極度の貧困があったかどうかを聞いてしまう。
もちろんここで嘘を言わせることはないのですが、必然的に私たちがスピーカ―のストーリーに求めていることを伝えている可能性もあります。私たちのイメージの「興味深い」や「感動する」ストーリーに操作してしまっていないか、と考えることは何回かありました。
これらのストーリーを他の人たちに伝える手助けをするのは、そのストーリーを通して観客が世界観を広げて、何かを学び取ってほしいから。なので確かに、私たちの中での「普通の生活」をストーリーとして聞かされても何も学び取ることはないし、メッセージも伝わらないと思います。
このストーリーはフィクションやエンターテインメント目的でないからこそメッセージがきちんと伝わるようにしなければいけない。その一方で、伝えたい内容や聞き手に学び取ってほしいことを中心にストーリーを構築することでありのままの人生というよりある意味エンタメコンテンツに近くなってしまっているのではないか。
これはジャーナリストも同じようなことではないでしょうか。世の中で起きていることを「伝える」ことを仕事にしているけど、その内容が「普通」だったら伝える意味が無いから、少々過激な取材方法を取ったり、事実でないことが書かれてしまうようなこともある。
私たち3人の中でこのディスカッションを頻繁にするようになってから、なるべく誘導的な質問は控えたり、必ず私たちがストーリーへ提案を行う時にもスピーカ―に確認を取るよう心がけましたが、私たちの中での正解は今だ分かりません。
参加型展示物の作成
前回のHuman Libraryからは新しい、参加型の展示物をいくつか入れることになりました。これは、自分の国で教育系NGOでのインターン経験が豊富なMさんが色んなアイデアを考えてくれます。
募集して集まってくれたデザイン担当の1年生たちと話し合い、何を実際に作って展示するのかを決めていきます。
ここでポイントなのは、いかに観客たちがストーリーから学び取ったことをもとに自分の人生を振り返ることができるか、ということ。よって、いろんな質問を投げかけたりそれぞれが自分の過去の経験を振り返る必要があるようなアクティビティを設置することにしました(後ほど詳しく紹介)。
これらの展示物の作成もわずか2週間ほどでの急ピッチでの作成となり、前日の夜、そして当日の開始直前まで私たちも一緒に作ってようやく完成させました。
本番
そして本番はBelieve Conferenceの初日の夜。この日の午後から私たちUWYのメンバーは公認欠席をもらい、会場となる食堂での準備を行います。
重い木製の机と木をほぼ全て動かし、壁の近くには展示物や装飾などを設置し、いつも食事する場所は全く違う場所に様変わりしました。
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そして夜8時半の開始時間に近くなると生徒たちがちらほら。最終的にはなんと100人以上の生徒や先生方が来てくれました。そして前回と似たように1人のスピーカ―当たり十数人の観客へストーリーを話してもらいます。
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今回も様々な困難を乗り越え、今も前に進んでいる生徒たちの人生の話ばかり。その中で彼らが信じたものは「宗教」「自分」「教育」「母国」など、本当に様々。前回のUWC Dayの時に劣らずスピーカ―たちのバックグラウンドは多様で私たちも準備過程で多くのことを学ばせてもらいました。
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第1ラウンドが終わったところで、前回とは異なり5分間の休憩時間を挟みます。これは私たちが制作した展示物のアクティビティをやってもらう時間です。
私たちが作ったアクティビティは以下の4つ。
1.「Belief」を自分の言語で
約100か国からの生徒たちが集まるACの多様性を活かし、大きな木の中に自分の言語で「Belief」にあたる言葉を書いてもらいました。
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このアクティビティの目的は、違う言語を話しても、私たちは世界中どこであっても「信じること」は大切にして生きているということを認識してもらうことです。
2.あなたが信じるものは何?
12個の項目の中から参加者それぞれが信じるものを5つ選んでもらい、指定の色で5つの花びらに塗ってもらいます。すると、人によって全然違う色のお花が出来上がります。
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他の人と見比べたり、自分にとって価値のあるものは他の人と全然違うことを可視化しました。そして完成したお花は1.で作った木に貼りつけ、とてもカラフルで賑やかな「Belief」の木を完成させました。
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3.育った環境に関する質問ボード
ホワイトボードを6面使い、6つの質問に対してYesかNoの下に付箋を貼ってもらいます。
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VISAを取得するのに苦労しましたか?
UWCに来るのは初めての海外でしたか?
あなたの家の周りでは1人で歩いていても安全ですか?
社会の中で差別されていると感じますか?
あなたの実家ではインターネットは使い放題ですか?
子供の頃自分の部屋がありましたか?
これらの質問から浮かび上がらせたいのは、自分にとっては当たり前の環境でも他者に取っては全く違うことがあるということ。特に日本のような先進国出身の生徒にとっては当たり前の日常でも、貧困国出身の生徒からすると得るのは夢のようなものがある。
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生徒の経済状況が本当に多様な私たちの学校だからこそできるアクティビティでした。
4.あなたの人生のモットーは?
人生で心がけていること、座右の銘のようなものを書いてもらい、貼ってある糸にクリップでとめてもらいます。これは他の人のモットーを見てもらうと同時に、お互いやる気をもらえるような展示物になったと思います。
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観客が1人のスピーカ―の話を聞き、休憩を挟んで次のスピーカ―に移動するのを4ラウンド行い、Human Libraryは終了となりました。最後には私たちが設置したメッセージカードで観客がそれぞれのスピーカーへのメッセージを書き、スピーカーたちの封筒に入れてもらいます。
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想像以上の結果
最後の挨拶をしたあと、食堂の出口で待機していた私ですが、一向に誰も出てこない。気が付くと観客とスピーカ―たちが一緒に話していて、そこら中で涙する人がいる。先ほど終わらなかったアクティビティをやっている人もいる。
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想像以上の結果に私たちが圧倒されました。少し時間が経った後、生徒や先生方がみな私たちのところに来てくれ、どれほど感動したか、どれだけ人生観を揺さぶられたかを話してくれます。
しかも、私たちの仲良い人が観客のほとんどだった前回と違い、ほとんど話したこともない、いつも外でパーティに出かけるような人たちからも、同じような感想ばかりをもらいます。
この夜、1つの寮の人からメッセージがあり、その人の寮で数人の生徒をスピーカ―としてHuman Libraryのようなものをやってみたそう。お互いの人生ストーリーを積極的にシェアしあう空気を学校内で復活させることがこのプロジェクトの当初の目的の1つでもあるので、最高の結果だとみなでとても喜びました。
その後、Human Libraryについての会話もたびたび耳にし、お互いの人生経験を話し合うような光景も頻繁に目にすることができ、なんだか去年の自分たちの最初のオリエンテーション期間を思い出すよう。
私たちの力でACのUWCらしさを少し、取り戻せたような気がして、自分たちが成し遂げたこととしてではなく、このイベントがACで開催されたこと自体を本当に嬉しく思いました。
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