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いったい ヨースト・クライン(Joost Klein)に 何が起こっちゃったの?ユーロビジョン・ソング・コンテストEurovision Song Contest 2024 での失格騒ぎについて。
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パレスチナのガザ地区へ侵攻を続けるイスラエルが参加することで 開催前から物議を醸していた今回のユーロビジョン・ソング・コンテスト(Eurovision Song Contest 2024)。5月9日に行われた第2セミファイナル 準決勝の中継ライブを 開催地スウェーデンのマルメ・アリーナで。5月11日のグランドファイナル 決勝 は マルメ市内の複合シアターで行われたライブビューイングで鑑賞しました。
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スウェーデン政府は昨年 テロ脅威レベルを "高次"(5段階評価で4)に引き上げました。マルメ市内ではどこへ行っても地元スウェーデン警察と軍関係者による警備が厳重で テロの危険や不安を感じるようなことはなかったです。しかし アリーナやライブビューイング会場に入る際には、空港のようなかなり厳しいセキュリティチェックを受ける必要がありました。
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市内の至る所で 反イスラエル(反ESC開催)を表明するポスターやチラシが貼られ、アパートの窓からパレスチナ自治区の旗を掲げて抗議の意思を伝える市民の様子も。たぶんマルメに住むパレスチナの方なのでしょう…。
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アパートのベランダにはパレスチナの旗が。
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また 地元スウェーデンの環境活動家 グレタ・トゥンベリさんを含むデモ隊が数日前からマルメに集結し グランドファイナル当日には警備隊と衝突、地元警察によって逮捕された事件もニュースとなって世界中に報道されたことはご存じの通り。(ちなみにグレタさんのお母さんは著名なオペラ歌手 マレーナ・エルンマン Malena Ernman で、2009年に楽曲『La Voix』でスウェーデン代表としてESCに出場しています。)
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いろんな出来事のあったマルメでのコンテストでしたが 期間中の一番の事件はやはりコレでしょう。ESC史上前代未聞 !? 開催中の 失格アーティスト排出。
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その失格になっちゃったオランダ代表の Joost Klein(ヨースト・クライン)こそが 今大会で私のイチ押しアーティスト だったので非常に残念でした。多彩な楽曲が出そろうESCにあって彼の楽曲『Europapa(ユーロパパ)』はどちらかといえばコミックソング的な部類。しかし内容は超過激w。欧州各国をディスった歌詞やユーモラスでアイロニカルなビデオクリップの映像(日本家屋や女子高生まで出てくる!)さらに ちょとホロリとさせる最後のプライベートなオチまで含めて分裂し崩壊するヨーロッパの夢と理想(♪ヨーロッパに死ぬまでいてください)を若くして失った両親への複雑な想いに重ね合わせたメッセージ性の高いかなり攻めてる楽曲なのです。
オランダは第2セミファイナルに出場。ヨーストは、ステージ上で相棒のダンサー2人組”ブルーバード ”を伴って最高のパフォーマンスを見せてくれました。最後の出番(トリ)を務めた彼は 国籍を問わずアリーナの観客に超大ウケで、結果集計においても高得点でセミファイナルを通過!もしかしたらグランドファイナルでもオランダがエエとこまで食い込むかもしれんなーと。しかし これが マルメ・アリーナで最後のパフォーマンスになるとは思ってもみませんでした・・。
セミファイナルを観終わってすぐ、深夜1時頃にエーレスンド鉄道(24時間運航!)で滞在先のコペンハーゲンまで戻ってきたその日の昼頃、娘がSNSをチェックしながら「オランダは決勝に進出できないかもよ」なんて言うではありませんか!なんでも ユーストが誰かに暴行しただとか、暴言を吐いたとか、スウェーデン警察も動いて調査してるだの、リハーサルから突如として消えただの…とにかく情報が錯綜。一体、何が起こったのかがよくわからずモヤモヤしているうちに 結局ヨーストは運営側からの公式発表をもって グランドファイナルには出場しない(失格)ということになってしまいました…。
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(公式配信映像より © EBU 2024)
事件から2日たったグランドファイナルの当日。ヨーストを擁護する立場である運営チームの オランダ 公共放送 AVROTROS から詳細を伝える声明が出ます。それによると・・・
・事件が起きたのは 第2セミファイナル でのパフォーマンス直後。
・ヨーストがステージから降りGreenRoom(控室)に向かう最中の事件。
・ステージ外の姿は撮影しない約束があったにもかかわらず、
ビデオグラファーの女性が執拗にユーストを追いかけ撮影を続けた。
・憤慨したヨーストが女性に対し拳を振り上げて”威嚇する”行動をとった。
・ヨーストは女性に対して 乱暴な言葉を使った が"手は出さなかった"。
つまり事件は 観客を有していたステージ袖で起きたもので 女性ビデオグラファーからの ”苦情” が運営側に報告され その後、運営側とスウェーデン警察による調査が行われたらしいのです。AVROTROS は状況を改善させるためヨーストの謝罪声明を含むいくつかの解決策を運営側に提案したもののまったく聞き入れてもらえず、最終的にヨースト失格の決定が下されてしまいました。(女性ビデオグラファーの所属や国籍は公表されてません)
ヨーストのステージパフォーマンスは、プロモビデオと同様に 歌の最後でしんみりとご両親に語り掛ける演出がありましたが、本番ライブでは 感極まって本当に涙を流しているようでした。彼は 幼少期に父親と母親を相次いで病気で亡くすというトラウマチックな経験をしています。大きな舞台でかなり気持ちが高揚していたのでしょう、複雑な心境の中で パフォーマンス後にいろんなことへのストレスが爆発してしまった というのが真相のようです。
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(公式配信映像より © EBU 2024)
第2セミファイナルは 当日夜の中継ライブ(Live TV show)だけでなく、有観客で前日リハ(Evening preview)や当日午後のリハ(Afternoon preview)の3回行われました。このビデオグラファーのルール違反はリハ時からのもので、おそらくヨーストがブチキレちゃったのは 当日午後か 本番の中継ライブの時と思われます。短気な性格と言われるヨーストが大人げない振る舞いをしちゃったことは間違いなさそうですが、この程度のことで失格になってしまうのはあまりにも厳しすぎると感じざるをえません。
実はヨーストのオランダチームがマルメ入りしてから イスラエル代表団との間でいざこざや挑発行為がエスカレートしていたと言われ、ヨーストには イスラエル側の嫌がらせや、それを放任するESC運営側へのイライラがかなり募っていた ようなのです。
共同記者会見の場でイスラエル代表の エデン・ゴランと隣席していた(させられていた?)ヨーストは 終始つまらなそうに国旗を頭から被って明らかに抗議の意思を示してました。またゴランに対して記者から政治的な際どい質問が飛ぶと それを煽るような 横やり発言 を飛ばすなど 挑発的な態度をとります。(この会見の様子は事件報道の直後にデンマークのテレビでも繰り返し繰り返し流されていました)
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オランダのダンサーチーム ”ブルーバード”とイスラエルのスタッフらしき人間が リハーサル中のバックヤードで何やら揉める様子もSNSで盛んに拡散されており イスラエル側は オランダ側を執拗に挑発して 故意にヨーストを失格に追い込んだのでは? という憶測も飛び交いました。
(ちなみにグランドファイナルで予定されてたヨーストの出番は5番目で、続く6番目がイスラエル。また前の4番目にはユダヤ人の血を引くタリが歌うルクセンブルク…なんだか挟み撃ちのような作為的な出番予定が組まれたのも意味深です。)
イスラエルが参加することで開催前から抗議の意思を表明していたアーティストたちは他にもいました。その一人、アイルランド代表の バンビー・サグ Bambie Thug はマルメ入りした後も、中世のアルファベットであるオガム語で「停戦」や「パレスチナに自由を」と体に書き込んで出場しようとしたためにEBUの注意を受けたりしています。
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しかし 現地ではみな ユーロビジョンの精神に則して口を謹んで音楽活動に専念していた印象。でも ヨーストやオランダチームは違ったのでしょう。運営側にとっては露骨に反イスラエル的な態度をイベントに持ち込んだヨーストを 今大会の大スポンサーの手前、体裁よく排除したのでは??と勘繰られても仕方ないような状況です。(最大スポンサー=Presenting Partner の「モロッカンオイル」はテルアビブに本社を置くバリバリのイスラエル企業です)運営側は ”この件は他の出演者や代表団員を巻き込んだものではない” とのコメントを繰り返し、ヨーストのとった行動 ”だけ” が問題だった・・ということを強調していました。
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オランダは開催期間中に起きた今回のヨースト失格・退場処分はあまりにも理不尽かつ行き過ぎたもので 世界中のファンを失望させたとEBUやESC運営を非難。その結果、グランドファイナルでは 自分たちの審査員ポイントを自ら発表しないことを決め、ESC運営のトップがオランダの代わりに投票結果を発表すると 観客からは大ブーイングが巻き起こりました。
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ESCエグゼクティブ・スーパバイザーのマーティン・エステルダール
(公式配信映像より © EBU 2024)
エデン・ゴランやイスラエル・チームにスポットが当たる場面では 予想通り会場のマルメ・アリーナでも その都度 かなり大きなブーイングが巻き起こっていました。ところが YouTubeなどで公式映像をあらためて視聴してみるとそれほど目立った印象がありません。今回の主催放送局であるスウェーデン・テレビ(SVT)は ”公平を期するため” と称して 観客のブーイング を除去したり 逆に 歓声を追加する 音声技術をライブ中継で多用したと伝えられています。(このブーイング除去技術は過去にも2015年大会でロシアのパフォーマンスに対しても使用されたとのこと)
平和な音楽の祭典に政治は持ち込まない…というユーロビジョンの精神は建前としてありながら、ヨーストのように政治的な行動に出たアーティストが体裁よく排除される一方で、今大会でも戦時中のウクライナとイスラエルは当然のように 戦渦に対する思いや、前線の兵士たちを鼓舞するかのような歌とパフォーマンスを繰り広げていた のが印象的です。
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(公式配信映像より© EBU 2024)
オランダ運営は 主催者であるEBUが大会ルールの透明性や公平性を明らかにして、この件に対してしっかりした対応をとらない限り、来年2025年にスイスで開催される大会に オランダは出場しないという趣旨の声明も既に出しています。
今回 現地マルメで初観戦することになったユーロビジョン。欧州の多様性をもろに感じたこの音楽イベントは 純粋なライブ・エンターテイメントとしてはとんでもなく素晴らしいものでした。一方で、ユーロビジョンを非政治的なイベントとして維持することの難しさを実感させたのも事実。今大会ではイスラエルの参加やステージ上で使用された政治的シンボルをめぐる論争で、これまでになく緊張した雰囲気が生まれ「UNITED BY MUSIC(音楽で団結しよう)」が空虚に響いた大会だったことは否めません。
そういえば 先の記者会見でもヨーストは 今回のエントリー曲に関連して ”音楽によって私たちがひとつになることができると思うか?” という記者からの質問に対し、長い沈黙の後でニヤリと笑みをうかべ「それはEBUへの良い質問だと思います」と答えておりました。
果たして来年の今頃の 世界情勢はどのように変化しているのか。そしてユーロビジョン・ソング・コンテストが”永世中立国”でどのように開催されるのか・・・。