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男性育休は「カーブカット効果」で考える

10月23日(日)開催の #SAPPORODIVERSITYFORUM 「制度が変わった今こそ語ろう!男性育休のホンネ」にてご講演いただく、前田晃平さんにコラムを執筆いただきました。


カーブカット効果、という概念をご存じでしょうか。

誤解を恐れず簡潔に「カーブカット効果」を説明すると、「特定の問題で困っている人のための支援が、結果的に、社会のより広い人々にとって良い効果をもたらすこと」という感じです。

ことの発端は、1970年代の米国での出来事でした。当時、障害者(※)の権利を支持する人々が、歩道の縁石など、公共の施設に段差を解消するスロープをつけるよう、政府に対して要望していました。なぜなら、当時の米国は、どこもかしこも段差だらけで、車椅子による移動は簡単ではなかったからです。

※ なお、様々な考え方がありますが、私は意図して「障害者」という単語を使っています。障害を持っているのは社会である、という認識からです。本稿の内容もそうですが、みんなで力を合わせれば、この障害は取り除くことができると信じています。

ところが、政府はこの要望を聞いてくれません。なぜなら、スロープを必要としているのは、障害者等、米国の全人口規模で考えれば、極めて少数の人々でしかないからです。なぜ、そんなマイノリティを特別扱いして、みんなの税金を使わねばならんのか、というわけです。

しかし、活動家たちの粘り強い運動が功を奏し、全米に、徐々にスロープが広がっていきました。そして、1990年「障害のあるアメリカ人法(Americans with Disabilities Act)」に結実します。障害を理由とした差別を禁じ、カーブカット・スロープの造設などの変更を、建造環境(建築物や都市空間)に加えることを義務付けたものです。

しかし、話はここで終わりません。むしろ、ここからです。

法律が施行され、全米でカーブカット・スロープがデフォルトになると、車椅子利用者だけでなく、ベビーカーを押す親たち、重い台車を押す作業員、足腰を悪くした高齢者の方々……、果ては、ランナーやスケートボードを楽しむ人々まで、その恩恵に預かることになったのです。

フロリダ州で実施された研究では、何の不自由のない歩行者の9割が、あえて遠回りをしてカーブカット・スロープを利用していることが明らかになっています。
 
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さて、ここで少々話が変わるようですが、ついに今月から「産後パパ育休」が始まりました。詳細は、厚生労働省のホームページ等をご確認いただくとして、男性各位には、万難を排して、この機会を活かしてほしいところ!

ただ、「産後パパ育休」に限らず、既存の育休制度にせよ、日本のパパたちの多くは既に「取得できるもんなら取得したいわ」と考えていることが、各種調査で明らかになっています。新卒の男性に至っては、もはや8割以上がそう考えているというデータもあります(公益財団法人日本生産本部「2017年度 新入社員 秋の意識調査」他)。

ではなぜ、日本の育休取得率は、未だ目も当てられない状況なのか。それはひとえに、組織が育休を取らせたくないから、あるいは、そういう空気ではないから、に尽きます。

参照元:拙著「パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ!」

では、それはなぜか。当然、ここには様々なご意見があるわけですが、とても根強く、こういった意見があります。講演会などで、何度聞いたかわかりません。

「なぜ、子育てしている人たちだけを優遇しないといけないのか」

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この反応を聞くたびに、冒頭の「カーブカット効果」が頭をよぎります。確かに、一見すると、本制度は子育てをする人だけが恩恵を受けるように見えます。でも実は、そうじゃないはず。

そもそも、現在の日本の企業や組織でまともにキャリアを築こうと思ったら、もちろん努力は必須でしょうが、運が欠かせません。

誰だって、いつ何時、長期療養が必要になる病気に罹ったり、怪我をしたりするかわかりません。自分だけでなく、自分の家族がそういう目にあっても、看病のため、やはり働き方を変えざるをえないかもしれない。そんな大袈裟な話でなくとも、親の介護などは、誰にだって普通にありうることです。もちろん、子育ても。子どもが障害児だったり、医療的ケア児だったり、するかもしれない。

残業上等かつノンストップで働くことが、キャリアアップの前提条件になっているのが、日本の組織です。こんな環境で、先に述べたような事態に見舞われた場合、いったいどうやって、キャリアを継続すればよいのか。

その答えは、どうにもならない、です。それは、下記の図にはっきり現れています。現在、上記のような事態に見舞われた際、その負担を引き受けているのは、多くの場合、女性です。その女性の正規雇用率が、時と共にジリジリと減っているのがわかります(いわゆる、L字カーブ)。理不尽な負担を強いられて、それでも頑張って働こうとするけれど、どうにもならなくて、バタバタと力尽きていく女性たちをみているようです。

参照元:拙著「パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ!」

私は、思うんです。「産後パパ育休」は確かに、一義的には、子育て世代のための制度です。でも、自身の、そして家族の一大事に臨むため、一定期間休んでみたり、働き方を変えることを組織にとって当たり前にするのは、この国で働くすべての人にとって、メリットがあるはず。

せっかく積み上げてきた努力を、どうにもならない運要素で無残に突き崩される可能性は、誰にとっても少ない方がいい。これこそまさに、「カーブカット効果」の最たる例ではないでしょうか。

育休だけでなく、介護でも怪我でも病気でも、何があっても、誰もが望むキャリアを継続できるようになったら、素晴らしいと思いませんか。


前田晃平さんにご講演いただく、#SAPPORODIVERSITYFORUM「制度が変わった今こそ語ろう!男性育休のホンネ」参加申し込みはこちら▼


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