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被害者支援の一環としての加害者対策について

暴力の定義が変化している。たとえば、DVが子どもの前で行われれば虐待として位置づけられるようになった。「面前DV」という。
養育すべき責任ある人が必要なケアをしないネグレクト(怠慢)も暴力とされる。人格否定の発言も言葉の暴力とされる。モラル・ハラスメントという。暴力の範囲は徐々に拡大されてきた。虐待とDVの重なりは多い。私はこれを「複合暴力」と名づけている。

さらに、暴力の予防や加害者対応を考えていく上で重要なことは、こうした形態や類型をもとにして暴力を把握するだけではなく、「関係性の暴力」であることの理解が重要となる。
私は「強制的なコントロール」というアプローチを参考にしている。これは①威嚇(脅す)、②孤立させる、③コントロールするという三つの要素を重視するアプローチである。
類似の暴力は、DVや虐待だけでなく、誘拐・監禁、ハラスメント、ストーキング、カルト集団のマインドコントロール、部活や教室での体罰、いじめの起こる仲間関係にも見られる。

私は、虐待、DVの加害者対応を実践している。次のようなケースに遭遇したことがある。「友人や家族から孤立させる」、「デジタルツールを用いて監視する」、「(どこにいくか、誰と会うか、着るもの、寝る時間など)日常生活を統制する」、「お前は価値のないやつだと繰り返して言う」、「辱める行為、相手に自己非難を強いる」、「プライバシーを明かすと脅す」などである。

さらに「在宅DV」とでもいうべきつらい現実もある。DVを受けているのに、彼といるほうが安全だと思う被害者の心理である。DV被害者から話を聞くとさらにこんなことも浮かび上がる。「自分のものを買うときにいつも一緒に付いてくる。『僕の好みの女性になってほしい』と言う。自分が自分でなくなっていく感じがする」、「交通の便の良くないところに住んでいるので免許が欲しい。必要なのに、免許を取るのを許してくれない。『運転が下手だから』って言う。だから、いつも彼の車で行動することになる」、「『習い事をしている』と言うと、『それは男性から教わるのか』って聞いてくる」、「『同窓会に行く』と言うと、イヤな顔をする」、「『今日は何をしていたのか』と聞いてくる」、「『死んでやる』と言われると別れられない。元の関係に戻ることが多い」という被害者の声である。

親密な間柄で、愛情の名の下にコントロールされている様子がうかがえる。これらが直ちに暴力だというわけではないが、やはり心理的には不安であり、関係を持続させることに恐怖がある。加害者対応はこうした犯罪とはならない加害性に気づいてもらい、関係性の再考をせまる。こうしたことから始まる加害者対応は、被害者支援と対になり、脱暴力の両輪であるべきことがわかる。


中村 正さん(立命館大学大学院人間科学研究科教授)
立命館大学法学部卒業後、1986年大学院社会学研究科博士課程修了。1988年より立命館大学産業社会学部、総合心理学部、人間科学研究科、応用人間科学研究科で研究と教育に携わる。専門分野は社会病理学、臨床社会学、社会臨床学、男性性研究。「令和2年度配偶者暴力に係る加害者プログラムに関する調査研究事業」検討会の座長に就任。『「男らしさ」からの自由』『家族のゆくえ』『ドメスティック・バイオレンスと家族の病理』など著書・共著書・訳書多数。

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