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父のグランドセイコーのこと3

セイコーに修理をしてもらっている間に調べていると、メダリオンがフリマアプリで売られていることを知った。
純正品ではないものだったが、少なくとも僕には判断が付かない。というよりそもそも剥がれたメダリオンしか知らないので、本物を画像でしか見たことがない。

父としては、時計は本物なのだから裏蓋のメダリオンが純正品でなくても見た目が戻るなら戻したいとのことだった。

フリマアプリに修理用のメダリオンがあるということは、メーカーでは部品がなくて直せなくても、修理してくれる可能性があるかもしれないと思った。

時計修理をおこなっているところを検索し、問い合わせてみる。
問い合わせた内容は現状と父の要望。
・内部はメーカーで修理中
・メタルバンドの溶接が外れている
  →メーカーから純正の革ベルトを打診されたが、父としては純正じゃなくてもよいのでメタルバンドのままがいい。
・メダリオンが剥がれている
  →純正でなくても見た目が戻ればよい。

どんなことでもご相談ください! 修理専門です! みたいなことがウェブサイトに書いてあったと思うのだけれど、送って数分後に、ごめんウチでは無理! と帰ってきた。

そりゃそうだと思った。
そもそもお金にならないだろうし、職人からすると、内部は直さなくていいから外側だけ直してくれない? ってなんか失礼なお願いな気がする。

多分、内部の修理までお願いしたら、外側の修理もやってくれたのかもしれないなと思い、メーカーに修理をお願いしたのは間違いだったのでは、父親の要望通りに直せないのでは、と不安になった。

それからも検索を続ける。
断られて思ったのは、おそらく大きい企業からすると売上に繋がらないので受け付けてくれないだろうということ。実際のところどうだかわからないが。

規模の大きそうなところを避けて、個人でやっていそうな時計愛に溢れている雰囲気のところを見つけて問い合わせをしてみた。

その結果、修理してくれるところが二箇所見つかるととなった。
どちらもメタルバンドの溶接をするし、メダリオンも僕が買って送ってくれたら取り付けるとのことだった。

余談だけれども、メールの返し方は大事だなと思った。
修理してくれるところが二箇所見つかってしまったので、当然どちらかを選ばなければならない。
技量を比較できるわけではないので、僕が選ぶ基準はメールの印象だけだった。
一つのところは、問い合わせのメールをして数分で返ってきて、最低限の内容だけで簡潔。
もう一方は、こちらも返信は30分後くらい(それでも十分早いのだが)。さらに内部修理についても書かれており、僕の問い合わせ内容を完全には把握していないのかなと思うところがあった。そして何より時計愛が溢れすぎてしまっているのか、その時計は19XX年のうんたらかんたらで、さらにそのパーツは正式にはXXと言いうんたらかんたらで‥‥などと訊いていないことまで書かれていた。まあ時計愛に溢れているところを探そうと思って見つけたのだから仕方ないのかもしれないが。

少し悩んだが、メールの返信がより早く、簡潔な文面のところにお願いすることにした。
なんとなくわかっているつもりではいるが、今回のメールの印象については、仕事やメールだけでなく、日常生活での会話でも同じことだと思った。

いや、そもそもこうやってだらだらと寄り道しながらつまらないことを書き連ねてる時点でだめか。いいやどうせ誰も読んでいない。

そしてメーカーに修理を頼んでから一ヶ月後くらいで完了したとの連絡が来た。
すぐにでも取りに行きたかったが、セイコーのお客様相談室の不便なところは、平日の17:30までしかやっていないところ。取りに行くにも有給を取らなければならない。本当にそこだけが残念。だけれど働いている人のことを考えると、働きやすくて良いんだと思うが。

うちの会社は有給が取りづらい。数週間ほどしばらく様子を伺っていたが、取れなさそうだったので、諦めて妻に取りに行ってもらうことにした。

妻が持って帰ってきたものを見ると、感激した。
バンドも外れたままだし、裏蓋のメダリオンも剥がれているままだが、時計の針が動いている。
父のグランドセイコーが動いているのを見るのはおそらくはじめてだった。
耳を当てるとカチカチと音がするし、自動巻きのスムーズな秒針の動きはうっとりする。僕は精度を気にしてしまって、クォーツの腕時計をしている。よくよく考えたら、時間にルーズな性格のくせに、時計だけ精度が良くても何にもならないのに。

しかしこれで終わりでなく、まだ修理は続く。
メタルバンドとメダリオンの修理引きつけてくれた時計店へと送付した。

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