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創作「小野小町2024」

 久しぶりのストリップ劇場出演の題材選び。内容は「ザ、昭和の自縛ショー」をやろうと決めていたので、そこにすんなり入れる題材を選びたい。更に小屋は池袋ミカド劇場。楽屋は3階。袖はほとんど無い。つまり大道具は使えない、ということ。衣装替えも大きな物は無理。

 思いついたのは「小野小町」である。これはずっと以前にもだしていた作品。<絶世の美女>と言われている小町をやるのはかなり抵抗があるが、小町の数奇な運命、人生はSMの題材にふさわしいと私は解釈する。

 展開は以前作ったままでやる。踊って、脱いで、縛って蝋燭、吊って、腹切り。
 こう書けば実に簡単だが、どう物語に則していくかを練っていくわけだ。
 まずは導入。今から何をやるのかを観客に知ってもらうため、私は必ずナレーションをつける。今回は
ナレ1「恋多き女小野小町。しかし深草少将とのことは悲劇であった。小町は少将との約束を破り逃げてしまったから」
とした。

 そして登場。白地に金刺繍の入った着物。衣被(きぬかつぎ)を被っている。大きな引き摺り着物はこの小屋では動きずらいので、せめて見た目が豪華に見える物を選んだ。衣被には牡丹の花を縫い付けた。これには訳がある。
 今回、小町の研究本「小野小町の誕生」(錦仁著)という本を読んだ。史実に基づいた研究、地名が書かれているのだが、ここに秋田県雄勝町に小町伝説が多くあり、「芍薬塚」という所に芍薬が99本植えてあり、その1本ずつに深草少将の歌がつけられてい、その花の数は何年経っても増えも、減りもしないという。
 この「99」「100」の数字は伝説の中でキーワードの数字。小町は深草少将に「100日通って下さい」と言い、「99日め」で居なくなってしまった。
 なので芍薬でも牡丹でも、本来ならステージに生やしたいところだが、そう言った大道具は作れないので、衣被に縫い付けたということだ。

着物とピンクのきぬかつぎ

 <シーン1>
 登場の1曲目で、小町を印象付ける。そこで小町の和歌をセリフで語る。
「花の色は移りにけりないたずらに。我が身をに振る眺めせしまに」
深草少将との出逢いを当て振りで踊り、
セリフ「私が欲しければ百夜(ももや)通って下さいな」
と誘い、最後は
セリフ「今宵で百夜め。でも貴方様の望みは叶えられません」
と肌も見せずに去っていく。
 曲は、琴曲「めばえ」。確か大島渚監督「愛のコリーダ」で使われていた曲だ。

 <シーン2>
 舞台からハケ、ナレーション2が流れる
「それから時は流れた。深草少将は悲恋に嘆き、自害してしまった。小町は詫びる想いで出家するも少将の亡霊に惑わされていた」
 その間に衣装替え。禅宗の衣を羽織る。手には卒塔婆。卒塔婆はもちろん深草少将の供養、という意味だ。
 以前は卒塔婆を板から作った。しかし引っ越しで破棄したため、新規で作ったのだが、今はなんとネットで卒塔婆が買える。ネットで見つけた時「ふえ〜、さすがネット時代。卒塔婆も買えるのか!!」と驚いた。その卒塔婆に梵字を書く。梵字辞典を見ながら真似するのだが、なかなか難しい。まぁ、そこはご愛嬌。

生の卒塔婆


梵字を書く


 卒塔婆を抱え、苦悩と想い出、愛情が溢れ出す。「ああ、やっぱり抱かれたかった」と妄想をし、自らを慰める。それも緊縛し、心と体を縛り付ける。
 曲は能曲「八段ノ舞」。緩急がテンポ良く使われ、心理状態を表しやすかった。

<シーン3>
 ベットシーン、蝋燭シーン。展開は小町の史実とかけ離れ、自縛ショーとなっていく。赤い蝋燭で、自らを慰める。
 曲は映画「シェリタリングスカイ」サントラ盤より「FeverRide」
 そして滑車での吊り。身体は頂点に上り詰める。
 曲は映画「黒の天使」サントラ盤より。

<シーン4>
 気も落ち着いたところで、自分の身体の炎を消したくなる。
セリフ「貴方様を裏切ってから、私はずっと貴方を背負って生きてきた。これが運命(さだめ)というものか、、、。もう許しておくれ」
 腹切りへと移る。この腹切りは覚悟の腹切り。悔いも後悔もない。黒鞘の短刀で一気に一文字に引いていく。
 曲は坂本龍一「andata」。私はこの曲が大好きである。切腹して果てていくときの心、高揚はありつつもそれを押し殺して美しく滅びていく、という動作に相応しいと感じている。

 2日間、6回演じた訳だが、完成までには至らなかった。
ラスト回、踊り子の結奈美子嬢がステージをみていて、
「ヒロミねぇさん、今回のは何点だったんですか」
と聞いてきた。
「うーん80点かな。まだ体が動いちゃうね。余計な動作が多いね。もっと静止した感じが欲しかった」
と答えた。自信がないと、時間と空間を動いて埋めようと思ってしまう。そうじゃなく、そこにいる佇まいで演じ、何かを伝える、というのが理想だと思っている。

でもこの理想は「能」だね。ストリップショーではない。
何もかも承知で、そこを求めている私がいるのだ。

 しかしながら、今回のミカド劇場は、懐かしさばかりあふれた。昔の常連さん、後輩の踊り子たち、楽屋生活、従業員さん、、、。身体の限界までやりきって、充実感はたっぷりだ。ああ、楽しかった!!
(家へ帰り1週間は両脚の筋肉痛に悩まされた)

http://ag-factory.sakura.ne.jp/

 

 


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