ピンク映画と日活ロマンポルノ(番外編)
*映画企画プロデューサー 成田尚哉氏逝く
この事実を知ったのは、遅ればせながら今発売されている「映画芸術」の表紙だ。
元日活企画部にいた成田尚哉氏。背筋が震える思いでページをめくった。「まさか、、、」「そうか、、亡くなったのか、、、」
成田氏は1984年当時、日活で唯一、私を応援してくれる人であった。「本当、下手くそだなぁ」と言いながらも、叱咤激励のエールをいただいていた。私のデビュー作「縄姉妹・奇妙な果実」で成田氏と出会ったのだったが、実際の企画、プロデューサーは違う方であった。なのに、中原俊監督のそばにいつもいた。そして私の個性を認めてくれた理解者となってくれた。日活の初キネコ作品「ザ・折檻」(1985年)。私は「もう、サイテー」と、半ば騙された撮影に文句たらたらだったが、成田氏は「いや、早乙女はいいよ。あの本気で泣いてるのがいいよ」と、いつも語っていた。
成田氏は日活を辞め、「ニュー・センチュリー・プロデューサーズ」に入り、のち映画制作プロダクション「ボノボ」を設立し、そこからも独立して「アルチンボルト」の社長となった。いつも自分の興味ある対象に対して「これを映画にできないかな」と前向きであった。根っから「企画」が好きであったのだろう。日活で初めて漫画原作を映画にしたのも、企画は成田氏だった。1976年「嗚呼!!花の応援団」監督曽根中生。
拙著「奇譚クラブの人々」(2003年、河出i文庫)を出版した後、連絡があった。「こういうのを待っていたんだよ。これを映画にしたい。本物のSMを。なんとかできないかな」
これは難題である。これは日本初となるSM雑誌「奇譚クラブ」に寄稿していた人たちや文章を紹介した内容である。そもそも本当の愛好者は一般メディアを信用していないし、人目に晒されるのは大嫌いである。それに映像として見せるのには限界がある。でも、成田氏が本気で考えていることを何とか実現させて見たい。私はまず濡木痴夢男氏に相談してみた。「うーん、、、」と言ったきりだったと思う。でも成田氏は「まず、逢わせてよ。話さないと」。とにかく企画に前向きだ。
この話は進むようでなかなか進展しなかった。もちろん成田氏は、他の映画企画なども進行させて多忙であったろうし、マニアックな企画だけに資金調達も難航していたに違いない。
しかしついに動き出した。2005年。SM雑誌「マニア倶楽部」のグラビア撮影。この様子はnote「緊縛係 濡木痴夢男4」に書いたが、まさか、という企画がやってきた。カメラマン杉浦則夫と緊縛濡木痴夢男が20年ぶりに1度だけ復活する。モデルは私だ。濡木氏は「この現場に成田さんたちに来てもらいなさい。この現場が撮れればその映画の本質が撮れますよ。杉浦カメラマンがOKするかわからないけどね」。グラビア撮影まで2週間位しかなかった気がする。成田氏が多忙なことは承知だったが、私もこんな現場を記録として残すことは重要なことだと思ったので、即座に連絡した。
「わかった。何とかする。最悪僕だけでも行って回すよ」と成田氏。
グラビア撮影当日。カメラマンが来て撮影をしていた。成田氏も、廣木隆一監督もいたように思うが、私は緊縛グラビア撮影に入り込み、もう一つの撮影のことはすっかり頭の中から抜けていた。
それからまた時間が過ぎて行った。グラビア撮影だけでは映画にならない。色々練っていたのだろう。廣木監督は、緊縛雪村春樹氏を追っていた。
その間に私は「ロマンポルノ女優」(河出i文庫)を仕上げた。この解説文を成田氏にお願いしたのだ。以前ポルノ映画雑誌にコラムを書いたことを知ってい、その文章が好きだったから。「短くてもいいです。何とかお願いします」。きっと苦笑いしながら、書いてくれたのだろう。さらにこの文庫が出版されると、ある女優さんから抗議の電話を受けた。「勝手に書いた。訴えます」と。確かに私はすべての女優さんに連絡を取ったわけではなかった。私は電話でその女優さんに謝りながらも「決して悪意で書いていない」と説明した。ほぼ1週間ほど連日のように電話があった。私は心が痛くなり、ついに成田氏に相談した。解説を書いてもらうのに、全文に眼を通しているのと、立場上、それぞれの女優さんの個々も知っているだろうと思ったから。「悪口なんて書いてないじゃない。大丈夫。早乙女はほっとけばいいよ」さらっと言われたその言葉に本当に救われた。
2008年。「早乙女。ようやくできたよ」。連絡と共に、DVDをいただいた。いろんな苦労が垣間見える作品だ。「苦労」というのは、緊縛を映像にして、理解してもらうことが、だ。単に「絵」としてならグラビアやAVと同じこと。緊縛する側、される側、の心理の破片が見えてこなければならない。難しい、、、。でもドキュメンタリーとして、貴重な作品の一つであることは間違いないだろう。
私も成田氏にたくさんのことを教えていただきました。ピンからキリまで、いろんなことを真剣に語れる貴重な人でした。ほんとうにありがとうございました。感謝(トップ写真 成田氏制作コラムの部分)
2008年公開「縛師 Bakushi」 監督/廣木隆一
企画/廣木隆一、成田尚哉 撮影/鈴木一博、渡辺辰巳 制作/アルチンボルト
出演/濡木痴夢男、雪村春樹、有末剛、早乙女宏美、すみれ、卯月妙子
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