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2024年10月の記事一覧

覚えているよ

覚えているよ

K町には細かい道がたくさんある。細い細い、くねった裏道が。だからちょっとした散歩にはもってこいだ。
道を歩いていると、様々な音、様々な匂いが漂ってくる。生活がそこに、在ることを、私に知らせる。
それは長屋の、古い古い長屋が二軒並ぶ角っこで。浅黒い顔をした、中年の男が煙草を吸っていた。その煙はゆらゆらと、空にのぼり。
私は何となく、それを見つめていた。まだ朝の早い、時刻。

もう寂れた酒飲場。近所の

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小さな手

小さな手

私は人の手が好きだ。赤子の手も好きだし、すっかり皺だらけになった、年老いた手も好きだ。手の醸し出す表情は、私の心を捉えて離さない。

その手はとても小さくて。世界を掴むにはまだまだ小さ過ぎて。だから私はその手を引いて歩くのが、自分の役目だと思っていた。
それがいつの間にか、私の手から離れ、ちょこちょこと自らの足で歩くようになり。気づけばその手はもう、ぐんぐんと大きくなっており。

あぁ、もう、この

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砂の痕

砂の痕

砂場のある公園は、本当に数が少なくなった。あっても、時間になると網などを被せられ、もう遊ぶことはできなくなる。
そもそも、土のある場所が少なくなった。いや、このあたりではもう殆どなくなった。だから霜柱もぬかるみも水たまりも、殆ど見えない。あるのはアスファルトの、のっぺりした顔。

或る日、娘と一緒に、公園を探しに行こうということになった。引っ越した部屋から一番近い公園は何処にあるだろう。そうして私

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この町最初の散歩

この町最初の散歩

それは離婚して半年、ようやく引っ越し先が決まり、この場所へ引っ越してきて間もない朝。散歩しようか。娘に声をかけた。うん、する。即座に娘の返事が返ってくる。といっても、このあたりのことを私たちはまだ全く知らない。とりあえず、通りに出てみる。
大通りを渡り、知らない街へ、とん、と足を踏み出す。一歩裏手に入った途端、私たちを待っていたのは、くねくね続く細い入り組んだ道だった。
ママ、こっちにも道がある。

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消えてゆくもの、失われてゆくもの

消えてゆくもの、失われてゆくもの

まだ港湾地帯が整備される前の頃。そこには棄てられた家屋が何軒か建っていた。以前は何かしらの事務所に使われていたのだろうその建物たちは、私が訪れるたび横に罅が入り、縦に罅が入り、と、いつ崩れてもおかしくない程に錆びついていった。
それでも何だろう、それはそこに在るものであって。なくなることなど、私には考えられなかった。窓の柵に突っ込まれた塵も、もはやそれはひとつの模様だった。立て掛けられた梯子ももは

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空っぽのゴール

空っぽのゴール

それは小さな小さな、猫の額ほどの小さな公園で。遊具も少なくて集う子供らも少なく。ただ、空っぽのゴールがぽつり、二つ置いてあった。
犬の散歩に立ち寄る老人たちがぽつりぽつり、そこを歩いて過ぎてゆく。休日たまに、ゲートボールをする老人たちが集っているが、ブランコを揺らす子供の姿は、本当に稀だ。

それでもゴールはそこに在って。

だから私は寝そべってみた。砂の上、寝そべって、一つのゴールの下寝そべって

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