大丈夫
小柄で華奢で、妖精みたいなサワサワした声で話すまほちゃんという女の子がいる。
まほちゃんは、やわらかくてあたたかい光の写真を撮る。
まほちゃんが一緒にカンボジアに行って撮ってくれたたくさんの写真は、今でも団体の看板写真になっている。
数年前、カンボジアの学校の校舎裏で、メンバーに怒られた私が牛を見ながら泣いていたことがあった。ちょっと離れたところで「カシャッ」という音がして、見るとまほちゃんに写真を撮られていた。
見つかったけど、絶対出て行かないぞ。涙が渇くまでずっと校舎裏にいてやる、と頑固に思っていると、カンボジアの子どもがパタパタやってきて、私の横で止まると、すっと手を差し伸べてきた。
子どもに逆らうことなんてできない。私はカンボジアの子に右手をつながれて、左手で涙と鼻水を拭いたりしながら、校舎裏から連れ出された。
子どもに私を迎えに行かせた仕掛け人はまほちゃんだった。
まほちゃんはその夜、ゲストハウスの部屋で私をなぐさめてくれた。年下なのに大人の女性に見えた。
そんなまほちゃんには長年お付き合いしている穏やかで素敵な彼がいて、まほちゃんは白無垢姿がとても似合う、それはそれは可愛いお嫁さんになり、静岡に引っ越していった。
先日、まほちゃんがJICA横浜で行われた団体の写真展の手伝いに来てくれた。それはそれは可愛い赤ちゃんをバギーにのせて。
写真展の仕事が終わったあとのランチタイム、誰もがまほちゃんの赤ちゃんの可愛さに夢中になって抱っこした。
私は赤ちゃんを抱っこするのが怖い。
赤ちゃんは神聖なガラス細工みたいな存在なので、落としてしまったらどうしよう。首が折れてしまったらどうしよう。私の時だけ泣かれたらどうしよう。抱き方が下手で痛がらせてしまったらどうしよう。どうしようどうしようと思うと抱っこできない。
と思ってお断わりしたところ、それでも抱っこする流れになって、抱っこさせていただいたところ、案の定赤ちゃんはむずがっていた。
まほちゃんがサワサワした声で言った。
「きょうちゃん(私のこと)はきっと、抱っこしてる時に心の中でわーってなっちゃってるから、それが赤ちゃんにも伝わって不安になっちゃうから。きょうちゃんが大丈夫って思っていると、赤ちゃんも安心するんだよ」
まほちゃんはサワサワした声で、なんだか大切なことを教えてくれた。
大丈夫、大丈夫と思って、大丈夫、大丈夫と赤ちゃんにぶつぶつ声をかけながら抱っこすると、なるほどたしかに赤ちゃんは大丈夫そうだった。
大丈夫。
あれ以来、何かあると自分にも、「大丈夫」と言い聞かせるようになりました。