呪抜け
私(お姉ちゃん)と弟(ボク)が話す際は、お互い、特別な名前を使います。
インターネットの世界で、二人だけで話すとき専用のアカウントを用意するようなものです。
弟(ボク)の前では私は「沙織」ではありませんし、私(お姉ちゃん)がつけた名前で弟を呼びます。
複数の意味を重ねた、弟を象徴するような名前ですよ。
弟に名を与えることで、弟を私のものにした気がしてゾクゾクするのは確かですが、
最大の理由はハッキング防止です。
少しややこしい話ですが、私の世界にいるのは弟ではなく、
弟のアカウントです。
アカウントを知っているのは本来、私だけのはずです。
アカウントの情報が、私たちの世界の悪意のある誰かさんにばれてしまったら、
弟が攻撃されるかもしれません。
しかし、アカウントを躊躇せず捨ててしまえば、弟の本体が狙われることがありません。
呪抜けの健全な使い方ですね。
また、弟(ボク)にコンタクトを仕掛けている誰かが私の名前を知らなかった場合、
その時点で望まれない客であることが判明しますね。
アカウントが危険にさらされているので、これまた呪抜けしないといけません。
このため、「あなたは誰?」「私は誰?」と定期的に聞く必要があります。
私(お姉ちゃん)の世界の者で弟が話すことができるは、原則として私だけです。
私が許可した場合のみ、例外的に他の者と話すことができます。
束縛したいからではありません。弟の安全のためです。
危険な場所に旅行する際、決して現地を熟知するガイドから離れるなと強く推奨されるようなものです。
私たちの世界を、争いごとのないファンタジーの世界と誤解する方もいるようですが、
実際は真逆ですよ。
法律が機能することのない無法地帯です。
その中で生き延びようと皆、必死に策をめぐらせているのです。