母親たちの孤独
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私には二人の息子がいる。13歳の長男は元夫との子どもだ。次男は今年の2月に生まれたばかりで、今は子育ての真っ最中。人生二度目の専業主婦を楽しんでいる。
先日、妹から突然こんなLINEが来た。
「なーなー。この意見に対してどう思う??
ねーちゃんの育児見てると、そんなに孤独でしんどかったかなって思うねん。
性格とか活動のちがいやろか??
私がみてきた育児と雰囲気ちがうからさぁ。
泣いてもほったらかしやし(笑)
【カータンBLOG・ムーニーのCMを見て思ったこと】」
最近、私のホームであるfacebookでも、さまざまなキュレーションメディアがこういった子育てや夫婦生活における意見の対立、妻・母親が感じる不公平感などを頻繁に特集している。コメント欄を見ても、賛否両論、男女の意見が入り乱れ、なかなか活況である。しかし、総じて「私も同じ状況だった!」「今まさにこんな状況です」と告白する女性がとても多い。ざっと見た感じ、8割ほどは自身の苦境を訴えるコメントではなかろうか。たまに夫側を擁護する意見が書かれようものなら、女性たちに叩かれたり「ひどいね」ボタンを押しまくられたりしている。中には叩かれてしかるべし、というようなひどい差別意見を書きこみ、己の卑しさを露呈している輩もいる。しかしほとんどは、女性たちの夫への不満の八つ当たりを受けているだけのように感じるのだ。
さて、私の子育てである。妹が言うように、確かに孤独でもしんどくもなさそうに見えると思う。実際孤独もしんどさも感じない。なぜか。ひとえに、運が良かったからだと思っている。
自分で書いておいて身も蓋もない言い様だと思うが、本当に運のいいことに、息子たちは二人ともとても健康に生まれてくれた。健康というのは本当に重要で、大人も子どもも関係なく、健康な人は機嫌がいいのだ。乳児が機嫌がよければ無駄にぐずって親を困らせることもない。泣いている時はオムツが濡れている時か空腹のときで、それ以外なら「体力を消耗するため」に泣いているのだ、と判断し、妹が言うようにほったらかしにしている。大人は運動して消費することができるが、寝ているだけの赤ん坊は泣く以外に体力を使う方法がない。彼らはしっかり飲んでしっかり寝るために泣くのだ。そして、程よく泣いて消耗したらぐっすり寝てくれる。病気や怪我で泣いているのなら、通常とは違う泣き方をするはずなので、エヘンエヘンとぐずっているくらいなら変にあやしたりせず放置するのが一番楽チンなのである。
そんな訳で、長男を育てている時も私には「産後うつ」なんて全く関係ない言葉だったし、今次男を育てていても楽しいことばかりである。
しかし、このブログ主の言っていることも理解できる。この人の状況であれば、追い詰められるのは当然だと思う。
結局のところ子育てで一番しんどいのは、ワンオペであるとかそういうことではなくて、赤ん坊の都合でしか動けないのに、やったことを誰も評価してくれないことであると思う。
仮に夫が仕事ばかりで子育てをしてくれなくても、たまに夫婦で話した時に「そうか、子育ても大変だな。ちょっとは休めよ」と言ってくれるだけでも報われた気になるものだ。それを、世の中のアホーな男どもは何を勘違いしてか、「おまえも大変だろうけど、俺は家族のために稼いでるんだからもっとしんどいんだ」などと言ってしまい、「どちらがよりしんどいか競争」に持ち込んでしまうから夫婦の溝が深まってしまうのだと思う。そんなことを言われた妻が、それならオマエが子育てをしてみろ、と思ってしまうのは当然だ。
夫の「仕事」は、良くも悪くも数字で評価される。それはとても厳しいことだが、明確な評価が出るというのは張り合いがあるものだ。しかし家事や子育ては正解もなく、明確なゴールも評価基準もない。まして、日本語も常識も通じない赤ん坊相手で、自分のペースで進めることもできない。特に初めての子育ての時は、一つ間違えばこの小さな命が失われるかもしれない、という不安や恐怖の中を手探りで進んで行かなければならない。その重圧は、外で仕事をして家族を支えている夫が感じるだろう重圧と比べ、何ら劣ることはないはずだ。
それなのに、本来なら唯一の味方でありパートナーであるはずの夫がきちんと評価をしてくれない、自分のしんどさばかりを主張してくるとなれば、妻は気持ちのやり場がなくなってしまう。結局のところそれがこのブログ主の言っている「孤独」なのだと思う。そして、孤独感にあえぎ、夫に対して不満を持ち、その不満のやり場がなくて悶々としていると、それが赤ん坊に伝わって余計にグズグズ泣いたりすることになるのだ。
そんな悪循環を打開するためには、2つの手段があると私は考える。ひとつめは、不満をぶつけるべきところにしっかりぶつけ、夫と長々話し合いをすることだ。時間も労力も使うが、夫婦生活にとっては前向きであると思う。そしてもうひとつは、「コイツはATM」と割り切ってワンオペ育児を楽しみ、いつか離婚して自由になってやるという思いを励みにすることだ。夫に対して完全に諦めている妻にとってはある意味前向きな決断だろう。
ちなみに私はどちらかと言えば後者である。私の元夫は子育てにはとても協力的だったし、仕事も公務員だったので帰りもそこそこ早く、子育てしやすい環境だった。その上息子が前述のようにとても育てやすい子だったので、子育てで辛いと思ったことはなかった。だが、息子が生後間もない頃のことだ。私が大好きなアーティストのニューアルバムを買って来たときの彼の発言が全てのきっかけだった。リビングのテーブルに置いていたそのCDを見つけた彼は、
「これ、どうしたん?」
と聞いてきた。
私はウキウキと、
「今日買ってきたよ。出産前はバタバタしてて買いに行けなかったから。4年ぶりやで、やっぱええわ〜」
と返したのだが、彼が欲しかった答えではなかったようだ。
彼は、
「いや、そうじゃなくて、誰の金で買ったん?」
と聞き直してきたのだ。
養ってもらっている専業主婦は、たった3000円のCDを買うことでさえ夫の許可がいるのか、と愕然としたことを今でも覚えている。私はすぐに妊娠前のアルバイトでお世話になっていた方に連絡をとり、月に数日だけ、仕事に復帰させてもらえないかとお願いした。アルバイトとは言え特殊な仕事だったので、人不足だったことも幸いして、その方は喜んで復帰させてくれた。これで、好きなCDを買うくらいの小遣いは稼げる。と同時に、漠然と、この人とはいつか離婚することになるかもな、と思った。その「いつか」がいつやって来るのか全く分からないが、いつやって来ても大丈夫なように準備をしておかなければならない。少なくとも自分と子どもの生活を立てていけるだけの収入は必要だ。いずれにしても、自立した1人の人間でいるために、息子がもう少し大きくなったらきちんと仕事をしよう。今はそのための準備期間だ、と自分に言い聞かせた。
彼の発言には、辛さを感じていなかったとはいえ、初めての子育てをしている専業主婦に対する敬意は微塵も感じられなかった。
それから7年の月日を経て、私は本当にバツイチシングルマザーとなったのだ。
そして、今。
次男の育児は完全にワンオペである。
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