天使のお仕事~合コン編②
「あー、こらあかんわ」
ここは天界セレクトショップ、「salon de cancer」。オーナーのカニちゃんは、リリー姉さんの親友であり、マルチな才能の女社長だ。
昨年はついに、「いま最も影響力のある天界人」の10人のなかに選ばれた。
なので、サロンは予約制。紹介がないと入店できないほどの人気なのだ。
そんなカニちゃんは、私のパサパサの髪の毛と、くすんだ翼の色を見るなりため息をついた。
「アイリスちゃん、あんた最近まったく翼の手入れしてへんやろ?あらら、髪の毛もバサバサやんか。こんなんやったらどんなドレス着ても映えんわ」
「はい・・」
私はしゅんとして、小さくなった。
昔から、カニちゃんには私も姉も頭が上がらない。要らぬお世辞は言わないが、最後にはなんとか仕上げてくれる人なのだ。
「なんがあったか、知らんけどなあ。リリーちゃんもまた、難儀なこと言うて」
カニちゃんは私の髪の毛をつまんで、眉をひそめる。仕方ない。トリートメントも最近はまったくしてない、洗いざらしだもの。
「で?アイリスちゃんを来月のマッチングパーティーまでにピカピカにせい、ゆうことやんな?」
カニちゃんが鏡を覗き込む。
「あ・・お姉ちゃんが勝手に申し込んじゃって・・」
私は何故か目が泳いでしまう。
「お姉ちゃんが、じゃない!やるかやらないかは自分が決める!アイリスちゃん、パーティーでちゃんといい相手みつけるんよ。じゃないと、このカニの顔がたたんわ」
「はっ、はい!」
「よし、じゃあ計画しましょ。フェイシャルには週1で通いなさい。肌もボロボロやないの。あとはヘッドスパと、髪のトリートメント・・翼エステも要るわね。あ、ネイルもね」
カニちゃんがパチパチとタイピングをすると、表のなかに予定が書き込まれていく。
「まずは体のなかをキレイにしてからやな。コーディネートはそのあと!はい、じゃあこの予定表のとおりにちゃんと通うこと!」
はい、というか言わないかのうちに、私は押し出されるようにサロンの外へ出た。
「こんなことしてて、いいのかな・・」
私はふっとため息をつく。もう、昇進なんてどうでもよくなったが、こんなに仕事をずるずると休むのも気がひけた。
とりあえず、インキュバスと話してみよう。
「あー、アイリスさん。体はもういいんですか?」
インキュバスののんびりとした声が聞こえた。
「インキュバス、ごめんね。私が残してきた仕事、あなたにやってもらって」
「あー、全然大丈夫ですよ。俺も最近はだいぶこなせるようになったな、ってボスから誉められてますから。ゆっくり休んでください」
のんきなインキュバスの声が、なんとなく気に障る。
・・ふうん。なんか、面白くないわね。
「アンジェリカさんもまたこっちにきてくれてるんで、全然気にしないでいいですよー。あ、そうだ、アンジェリカさんに代わりましょうか?」
インキュバスは、どこまでものほほんとしている。
「あー、いい、大丈夫。アンジェリカにもよろしく伝えて」
あの舌足らずの声を聞いたら、また気分がイライラしそうで、私はあわてて断った。
私がいないと良縁部はだめになる、くらいの気持ちで働いてきたのは、私だけだったんだな・・
私がいなくても仕事は誰かがやる。自分で良縁部の重要人物だと思ってたけど、一人相撲だったのかもしれない。
悲しくなった。
仕事なんて虚しいものに、私はどれだけのエネルギーをかけていたんだろう。
私はぐっと歯をくいしばり、握りこぶしをにぎった。
いいじゃない。
この際、とことん自分に磨きをかけてやろうじゃないの。
「ちくしょーー!待ってろ小悪魔たち!!」
私は、大声で叫んだ。
カニちゃんのモデルは、みなさんご存知カニさんです。この見出し画像も作ってくれたマルチな才人です!
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