【火曜日更新】ピリカの荒ぶりエッセイ~⑬
夏のファミレスはコアすぎる!?居づらい火曜日
仕事柄、よくファミレスを利用する。
自宅に行かせていただくのが一番コストがかからないのだが、お客様的には家を片付けるのが手間だし、家族のいないところで話をしたい方もいる。
商談場所にファミレスを指定されるのも致し方ないところである。しかし、ドリンクバー単品の高さよ!
平日はわりと快適にファミレス商談もできるのだが、目下夏休み真っ盛り。
小さいお子さん連れのママさんたちも多く、子供さんの泣き声や絶叫(?)に話が途切れがちになるのもまた、致し方なしだろう。大人向けのカフェではないし、文句は言えない。
私は子供達の阿鼻叫喚の中、なんとか商談をまとめ、お客さまを見送った。
ドリンクバー2人分のお値段900円あまり。せっかくだからあと2杯くらいコーヒー飲んで取り戻そう、とみみっちい気持ちにもなるもんだ。
そんな中、隣のテーブルでは異業種の説明風景が。私よりすこし年上の女性が4人。
聞く気はないが、話が自然と耳に入ってくるから仕方ない。
とぎれとぎれだが、「免疫システムが…。生産コストを抑えて…世界初の…報酬制度が…。」と聞こえるのでサプリメントかなにかのネットワークビジネス話らしい。
いつも人様の商談現場を見るたびに、 自分も気をつけねばと思うのだが、売る側がやたら一方的に話していて、お客さんは頷きすらしていないパターンが多い気がする。
しかもお隣は、4人掛けの席にぎゅうぎゅうと詰めて座り、窓際の奥席にお客さんらしき女性が押しやられている。着ている服やメイクからして、おそらく残り3人は売り手のほうだと推測する。
3対1。
もう数だけで売り手優勢ではないか。しかも、お客さんが席を自由に離れられないように、脇も前もがっちり固めた布陣であるようだ。
ちらり、とお客さんの顔を見ると顔色もわるく、カタログの一点を見つめているだけで、一言も声を発していない。
ほんと気の毒。
代わりに断ってあげたいくらいだ。
ネットワークビジネスが悪いとは思わない。きちんと商品説明をし、顧客との関係がよければそれでいいのだ。
商品は質のいいものが多いし、全体の中の一部の人間ではあるだろうが、このような勧誘方法では、強引さのほうが目立ち、せっかくの商品のよさも伝わらないのではなかろうか。
しばらくして、私の後ろにやってきたちょっとギラつき気味の男性。
体格がよく、Tシャツ短パンの下には筋肉がもりもりしていて、しかも黒光りしている。
この男性が入店すると何分か遅れて、同族だろうなと思われる男性が2人入ってきた。
「ごぶさたしてます」「おお、暑いのに悪いな」みたいな会話が交わされているので、先にいた男性のほうが先輩のようである。
体格のいい男性3人が「ウッス」とか「オイッス」とか言いつつ、代わるがわるドリンクバーのお代わりをしにいく度に、(この人たちのせいでドリンクバーの中身なくなっちゃうんじゃなかろうか)と心配しつつ、またついつい話に聞き耳がたってしまう。
「みんなが広めれば…。まだ世に出る前に…。権利収入だよ…。わかるな?」
なんと!こちらもネットワークビジネス!
私は横と後ろで繰り広げられる、壮大な収入システムの話にまさに耳がダンボ。
なんの商品かと聞き耳をたてると、どうもこちらは「カートリッジ」という単語が聞き取れた。浄水器かなにかだろうか。
わりとこちらの男性、大風呂敷を広げるタイプのようで、話は飛びに飛んで、もはや世界を水素水で救う話になっている。
お客さん2人の男性はというと、まったく声も相槌も聞こえないので、どうやら一人ご満悦で話しているらしい。
一人で説明し、一人でツッコミを入れ、一人で納得して気持ちよくなっている。自分の声でスイッチが入り、話に酔っているさまは、まるでヒトラーだ。
あんなに体格のいい男性たちも、先輩には逆らえないのか、シーンと沈黙している。こうやって今までの関係性を盾にするマウント営業は、見ていても気持ちのいいものではない。
この中にいると、なんだか嫌な波動をもらいそうである。というか、話が中途半端に聞こえてきて、とてつもなく居づらいのだ。
私は泣く泣く、ドリンク一杯しか飲めないまま、ファミレスを後にした。
「いや、怪しすぎやろあの人たち!」
と独り言を言いながら車のエンジンをかける。いや、私も端から見たら、うさんくさい人に見えているかもしれない。
自分だけは違う!と思っていても、端から見るとまた印象はちがうものだ。
せめて礼儀と公共のマナーはきっちりしようと誓いつつ、高すぎる一杯のコーヒーにまた、みみっちい荒ぶりを感じるのだった。