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それぞれの立場があるから
コロナの猛威が各地を襲っている。
生命保険業の私の元へも朝から晩まで罹患の連絡がお客様から入ってくる。
事務作業量は多いが、私たちは新規の数字も追わないといけない。
アポイントは流動的で、営業プロセスは進まない。
お客様が罹患したら平気で1ヶ月は間が空き、その間にいろんな状況が変わって白紙に戻ることも多々ある。
どんな業界でも、営業担当にとっては数字が作りにくい時期だ。
とはいえ、医療従事者、介護関係の方、保健所など役所関係のみなさまも正に身を削りながら仕事をしてくださっている。
販売や飲食店、受付や窓口業務の方もある意味お客様を選べない。不特定多数の人に接する仕事は、予防はいちばん困難だろうと思う。
教育関係者は、感染防止にピリピリしながら結果は出さないといけないだろうし、保育士など「働く人」を陰で支える方は余計にプレッシャーだろう。
地方と都心ではまた違うだろうが、いくら軽症でも「かかっちゃいました、テヘ」までライトじゃないのが、今の私の地域の空気感である。
そんな中、あるお客様が
「10日間自宅待機できたから、(罹患しても)ラッキーだった。かえってゆっくりできるし、医療保険も出るし。休みみたいなもんだから、いま全員かかればいいのにねえ」
と笑いながらおっしゃった。
笑えなかった。
この方は福利厚生がしっかりした、いわゆる大企業勤務の正社員の方。発言に変な悪意はないと思う。
それがまるで、マリー・アントワネットの「パンがなければケーキを食べればいい」の台詞のように聞こえて、ぞっとした。
私の顔色も変わっていたかもしれない。
10日自宅待機で、しかも軽症。外に出れない休み、と優雅に考えられる人ならいい。有休も削られず、収入も減らず、10日過ぎて会社に行けば自席と仕事、「あら、おかえりなさい」と受け入れてくれる環境があればいい。
この方は知らないのだ。
10日休んだらもうそこにはいられないくらい、人間関係の殺伐とした職場環境の人を。
毎日毎日、シャッターを空けて「年中無休」を謳わないと仕事の流れが止まってしまう個人事業主や小規模企業を。(私もここにあたる)
有休もなく、自宅待機期間の収入がまるっと抜け落ちてその月どうしよう、となる非正規雇用の人たちを。
この方は知らないのだ。
知らないだけ、なんだけど。
「でも、○○さんが罹患したとき、病院や会社、保険会社の担当の私が正常に動いていたから、快適に自宅療養できたんじゃないですか?本当に全員かかったら地獄ですよ」
と笑いながら言ったが、お客様がハッとしたような顔をしていたので、私は鬼のような顔をしてたのかもしれない。
でも、言わずにはいれなかった。
バスの運転手の人手が足りず、平日も土曜運行になった。
荷物の配達も指定日より2日送れるとメールがきた。
お金を下ろそうと、銀行にいったらクラスターでATMごと閉まっていた。
当たり前じゃないんだ。なにかもかも。
いままでの世の中の便利は、人で支えられているんだ。
コロナなんて風邪みたいなもんでしょう。全員なれば怖くないのにね。
そう笑い話にする人もいるが、そういう方は多くはかかっていない方だ。
焼けつくような喉の痛み、
味覚障害がいつまでも治らない不安。
耳が聞こえにくくなった。
治ってもいまだに鼻の感覚がおかしい。
いのちを落としている方も実際にいるのだ。
経済状況、持病のある無し、職種、家庭環境。「普通」なんてない。
みんな違うし、ちょっとのバランスが崩れたおかげで、家族の大問題になることもある。
それぞれの立場がある。
自分の物差しで発言することの危険さを改めて知った日だった。
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