【ゾンビ1000】ゾンビ・シティ
私は、整人師だ。
ゾンビを人間の体に戻すのが仕事の、唯一の人間。
ゾンビは日に日に増加し、ついに全人口の6割近くまできた。
残り4割の人間は、政府のシェルターに引きこもる。
そうなると、餌が減ったゾンビはだんだんと弱力化するという筋書きだ。
ここにいるのは、死期が近いゾンビたち。
彼らにはもう、人を喰らう力はない。外を眺めたり、独り言を呟くぐらい。
私はワクチンも打った。身内のいないシェルターよりはここがましだ。
誰かがしないといけない仕事なら、孤独な者がやればいい。
整人化を願うものは、そんなに多くはない。ゾンビ化した時に感情を失くすゾンビが多いのと、もうひとつ理由がある。
復元したゾンビは、2時間しか寿命がもたないのだ。個体の体力も大幅に削ることになる。
だから、せいぜい復元するのはひと月に一体だ。
血清を2時間置きに注射しつづけるのだ。
政府役員から、メールがきた。
「本日の個体、整復後は買い物を希望」
やれやれ。
外出したとして、どこへ行くのだ。
二時間で命は尽きるのに。
眠らされたゾンビが運ばれてくる。皮膚の色が著しく青黒い。強毒だ。
いつもより、大変だな。
私は血清を打ち始める。温度管理と正確な時間管理が肝だ。
8回目の注射が終わった頃、顔の輪郭がだんだん整ってきた。
誰かに似ている。
12回目。
私は床に崩れ落ちた。
かつての恋人だった男だ。
私の笑顔が好きだと囁いた、優しい人。
私の誕生日にこっそり危険区に買い物に行った人。
その直後にゾンビ化したと警官から聞いた。側にショートケーキが潰れていたと。
誕生日なんて、伝えなければよかったのだ。
私が言ったのだ。
ケーキが食べたいと。
シェルターへの避難が始まるひと月前だった。
私は、すっかり人間の肌色に戻った彼に後の注射をするのを迷った。
戻っても、あと2時間の命だ。それなら、ゾンビのまま限界まで生きてほしい。
彼は私がわからなくても、私には彼がわかるから。
注射を促す警報が鳴る。
この施設は監視されているのだ。
13回目。私は震える手で注射する。
彼の虚ろな視線が、ついに私を捉える。
「ケーキ・・まだ食べてないよな」
私は笑って、自決用の薬を飲んだ。
私も二時間は、生きていられるだろう。
巷で噂のゾンビ企画に参加させていただきました!
チョー難しかった。
顔洗って出直します(笑)
よろしくお願いします!
ピリカグランプリの賞金に充てさせていただきます。 お気持ち、ありがとうございます!