泣けない恋愛は、するもんじゃない
バレンタインである。
音声配信のすまスパでも言ったが、若き日の私はかなりの恋愛体質であった。
もちろん、しょっちゅう相手をとっかえひっかえできるほどモテるという意味ではない。
あくまでも頭の中での恋愛で、小学生~高校生まで好きな人がいない時期、というのはほとんどなかった。
好きなタイプを追いかけるハンターでもなく、じっと振り向いてくれるのを待つ温め上手でもない。
私の当時取っていた施策は「近くで探す」「加点方式」というものだった。
なので、わりとホイホイ好きな人が変わった。
ほんと、アホである。
そんな感じなので一年に、ご新規さまでも三~四人好きになっていた。再燃することも多かった。
ただ、行動には移さないヘタレだったので、実際に彼氏ができたのは、遅いほうだったのだけど。
そんな脳内お花畑恋愛少女の私、もちろん愛読雑誌は小学校低学年からの「りぼん」、中学生になれば「ピチレモン」「マーガレット」「Seventeen」。
バレンタインデー近くになれば、いろんな特集記事が載っていて、「わたしもバレンタインしたい!理科室かなんかで告白したい!」みたいなパリピ魂が騒いでしまう。
だけど例年、負ける喧嘩はしたくない性格なので実際には行動せずおわるのだが、
中学2年のとき、どうもこの「バレンタイン乗っかりたい熱」が加熱してしまい、しかも私と同じくらいパリピなチエちゃんが「わたしも◯◯くんにあげるから、ピリカも誰かにあげなよ」と急かすのだ。
そしてその年初めて、チョコレートを買いにいくことにした。毎日毎日、学校近辺のお店をパトロール。
いちばん近い「アサヒヤ」には、幼稚な包装紙しかなく、却下。「Sマート」はアサヒヤよりは品揃えがあったけど、同級生のマサ子ちゃんのお母さんがレジのパートでいるから却下。
コンビニもない時代、私は本屋の軒先でタウン誌のチョコレート特集記事を立ち読みしながら、一週間かけて購入先を定めた。
バスにゆられて30分、繁華街のちいさな洋菓子屋さんで、雑誌に載っていたチョコレートを買う。
初めてのチョコレート。
それは、初めて買った宝石のようにキラキラして見えた。なんか、大人になった気がして、バスにのって帰るあいだニヤニヤしていた。
そして、当日。
アホな私は、「どうやって渡すか」ばかりを考えていて肝心な「誰に渡すか」を決めていなかった。
だって、好きな人、といえば何人も顔が浮かぶ。誰がいまいちばん好きなのか、自分でも解っていなかった。
掃除の時間、チエちゃんが、「いま、渡してきた!ピリカは?」と鼻息あらく私のとこにくる。
「えー・・まだ」
「なにやってんの!あんたの好きな人シンジくんだったよね、はやくいっておいでよ!」
「えー・・でも」
「はやく!」
そのときはシンジくんと言ったような気がしたけど、シンジくんとこのチョコレートはなんか組み合わせがしっくりこなかった。
そのとき、なんとそのシンジくんが通りかかる。チエちゃんがにやりとする。
引くに引けない私。
「あの、チョコレート、あとで渡したいんだけど・・」
シンジくんに言う。うん、なんかドキドキしてるような気がする。お話のひとこまみたい。そう、いま私はあのマンガの主役だ!
シンジくんは、そんな私を一瞥。
「ごめん、好きな人いる」
そう言って、校庭へとかけていった。
チエちゃんがぽん、と肩を叩く。なにか言っているがよく聞こえない。
私は呆然とする。
悲しくなかったからだ。
そりゃそうだ。好きな人が日替わりで替わる女からの告白なんて、シンジくんにも失礼だ。
私は、恋愛という枠のなかにいる自分が好きなだけだったのだ。
あんなに冷たい顔で断られたのに、泣けもしないなんて最悪。
っていうか、そもそも私が最悪。
大人になったら、さすがにちゃんと人を好きになることができたけれど、
彼氏がいるときは仕事もやる気アップ。ちょっと危うくなると、
とたんに不安定になる時期を経験した。
感情のコントロールに、苦労した時期もあった。
これはやっぱり、気質としてしんどかった。
中学のときのこの経験は、自分がとても低俗に思えた出来事だった。
要するに、形だけなぞっていただけだったのだから。
当時つけていた日記帳に、私はこう書いている。
あまりに恥ずかしくて、嫁入りするときにお焚き上げしたけれど。
その文から、今回はタイトルを取った。