【小説】天使のお仕事~合コン編①
「・・パイ、センパイ!」
誰かが私の名前を呼ぶ。あれは・・アンジェリカ?やだ、も少し寝かせてよ。
「アイリスさん、起きてください!」
インキュバス?ランチおごるからちょっとシフト交代して。
「こら、アイリス、あんた気が緩みすぎよ!」
ん?誰この人・・なんかお姉ちゃんの声に似てる・・けど・・まさか?
「人の子に失恋したからって、フヌケになるのもいいかげんにしなさい!」
「はあ!?お姉ちゃん!?」
文字通り私は飛び起きた。私としたことが寝過ごしてしまった。姉のリリーは翼をぴんと張って、仁王立ちで私を見下ろしている。
「なんでここに?」
姉はラジエル社の記録部の主任だ。私みたいに現場には出張らない。ずっとオフィスにいるのが常なのに、なぜ?
「あんたのボスが、最近のあんたが元気がないって私にメールしてきたのよ。下界から帰ってきてから、遅刻が多いらしいじゃないの。どうすんのよ、ボスにまで心配かけて。仕事だけがあんたの取り柄なのに。私の貴重な休みがあんたのご機嫌伺いに消えたわよ」
姉の言葉がぐさぐさ刺さる。
たしかにそうなのだ。私は下界で人の子に恋をした。そして、自分の手で縁結びをしたのだ。
どくどくと、血が流れるようだった。
初めての感情。
なぜ人の子が愛情をすぐに相手に伝えないのか、やっとわかった。
壊れるのが怖いからだ。
相手のことを想うがゆえに、伝えない愛情だってあるのだ。
そんなことも知らず、私は今まで良縁を授けてきた。無神経で、機械的に。
「・・あんた、まだ忘れられないの?・・その人の子のこと」
姉の声が、ふと低くなる。言葉はきついが、姉は本気で私を心配してくれてるのだ。
「ううん・・そうじゃない」
私はベッドに腰かけたまま、顔を手で覆った。髪の毛が頬にかかる。
自慢の髪の毛も、いまは艶を失ってパサパサだ。
「彼のことは、もういいの。ただ・・私・・恋愛感情もなにも知らないまま、この仕事をしてたんだな・・って。自分が情けなくて」
「アイリス・・」
姉が心配そうにしゃがみこむ。
「なんかね、自信なくしちゃって。前みたいに人の子に縁を授けるの・・怖くなっちゃった」
「アイリス、あんた・・」
「そろそろ異動願い、出そうと思ってる」
私が意を決して言うと、姉はスッと立ち上がった。
「あ、アイリスがご迷惑をおかけして申し訳ありません。私、姉のラジエル社記録部主任、リリーです。・・はい、いまいっしょにいます。・・はい、すこしお休みをいただければと。・・はい、はい」
テレパシーでどうやらうちのボスとはなしているようだ。
まったく、姉に欠席の連絡をさせるなんて、子どもといっしょだ。
「話はついたわ」
姉が私にくるりと向き直る。
「は?」
「あんたの傷を治すのは、時間でも薬でもない」
ばん、と目の前にチラシを叩きつけた。
「天使のキミも小悪魔のキミも!天界マッチングパーティー!」と
書かれたどぎついピンク色のチラシ。
おいおいおい。
「・・えと、リリー姉さん?まだ、私ちょっとそういうのは・・」
嫌な予感。
「恋の穴を埋めるのは、次の恋よ!」
姉は私の返事も待たず、パーティー参加のメールをかたかたと打ち込んでいる。
「あ・・あー・・送っちゃった・・」
私は知っている。このテンションの姉は誰にも止められないことを。
「アイリス、あんたカニちゃんのショップに今からいっといで!いま予約したから!」
ああ・・
今日はまだ寝たかったんだけどなあ・・。
私は姉に気づかれないように、ため息をついた。
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